スーパーの棚に並ぶ食品は、賞味期限まで十分に日数が残っているものがほとんどです。その背景にあるのが「3分の1ルール」です。3分の1ルールとは、製造日から賞味期限までの期間の最初の3分の1以内に、メーカーや卸売業者が小売店へ納品するという食品業界の商習慣です。法律ではなく、業界で長く続いてきた慣例です。
定義の説明はここまでにします。この記事では、次の疑問に答えます。いま食品ロスはどのくらいで、3分の1ルールはどこまで見直されたのか。買い物をする私たちは、棚の前で何を基準に選べばよいのか。農林水産省は10月30日を「全国一斉商慣習見直しの日」としています。来週に迫るこの機会に、最新の数字と複数の企業・自治体の動きをあわせて確認します。
3分の1ルールの仕組み|3つの期限と具体的な日数
3分の1ルールでは、製造日から賞味期限までの期間(賞味期間)を3等分して考えます。最初の3分の1が「納品期限」、次の3分の1が「販売期限」、最後の3分の1が消費者が食べる期間として残る、という整理です。メーカーや卸売業者は、納品期限までに小売店へ商品を届ける必要があります。
賞味期間6か月の商品で考える
賞味期間が6か月の食品を例にします。3分の1ルールでは、製造から2か月以内に小売店へ納品します。そこから2か月が店頭で販売される期間で、残りの2か月が購入した人の家庭で食べる期間です。
納品期限を2分の1に緩めると、納品できる期間は製造から3か月以内になります。賞味期間が90日の商品なら、納品期限は30日から45日に延びます。同じ商品でも、納品できる期間が1.5倍になる計算です。
納品期限を過ぎた商品は、小売店に受け入れてもらえないことがあります。農林水産省は、賞味期限まで多くの日数が残っていても、行き場がなくなって廃棄される可能性があると説明しています。商品に問題があるわけではなく、取引上の期限を過ぎたことで流通から外れてしまうのが、このルールの特徴です。
法律ではなく商習慣である
3分の1ルールは、法律で決められたものではありません。消費者庁の消費者白書は、これを「食品業界独特の商慣習」と位置づけています。守らなければ罰せられる決まりではなく、取引先どうしの合意や慣例として続いてきたものです。
そのため、実際の運用は事業者や商品によって異なります。後の章で見るとおり、納品期限を2分の1に緩めた会社もあれば、従来のまま運用している会社もあります。
このルールが広まった背景には、鮮度を重視する日本の消費者の存在があるとされます。店頭に新しい商品を並べたい小売店、欠品を避けたいメーカーや卸売業者、そして賞味期限の長い商品を選びたい消費者の三者で、期間を分け合う考え方です。ただし、1990年代ごろから広がったとされる慣習であり、いつ誰が決めたかを一つに特定できる性質のものではありません。
3分の1ルールと食品ロスの現在地|2024年度は461万トン
3分の1ルールは、食品ロスのなかでも事業者から出るものに深く関わります。まず、最新の推計値を確認します。環境省と農林水産省は、2026年6月30日に2024年度(令和6年度)の食品ロス量を公表しました。
2024年度の食品ロス量
公表された推計値は次のとおりです。
- 全体は461万トンで、前年度の464万トンから3万トン減りました
- 事業系は237万トンで、前年度の231万トンから6万トン増えました
- 家庭系は224万トンで、前年度の233万トンから9万トン減りました
以前の記事では「年間570万トン」「523万トン」といった数字が紹介されていました。それらは過去の推計で、現在の公式値はこの461万トンです。数字は毎年更新されるため、引用するときは公表年度を確認するのが確実です。
事業系が増えた年をどう読むか
事業系食品ロスは、2000年度比で約57%減っています。政府の「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」(2025年3月25日閣議決定)は、事業系を2030年度までに2000年度比で60%削減する目標を掲げています。目標までは約3ポイントです。一方で、2024年度は前年度より6万トン増えました。
この増加の理由は、公表資料からは断定できません。事業系食品ロスには、製造や卸売、小売、外食のそれぞれで出るものが含まれます。3分の1ルールによる廃棄は、その一部にあたる要因の一つにすぎません。「3分の1ルールをやめれば事業系食品ロスがなくなる」とは言えず、規格外品の扱いや過剰な仕入れ、食べ残しなど、ほかの要因と並べて考える必要があります。
家庭系は9万トン減っています。家庭での食べ切りや使い切りの工夫が数字に表れた可能性はありますが、原因を一つに決めることはできません。事業者側の見直しと、消費者側の行動の両方が進んではじめて、全体の数字が動いていきます。
納品期限の緩和はどこまで進んだか|377事業者の実践
3分の1ルールを見直す動きは、年々広がっています。農林水産省は毎年、納品期限を緩和している、または緩和を予定している食品小売事業者の数を取りまとめています。
5年間で増え続ける事業者数
農林水産省の公表資料に基づく、10月時点の事業者数は次のとおりです。
- 2020年は142事業者
- 2022年は240事業者
- 2023年は297事業者
- 2024年は339事業者(前年から42事業者増)
- 2025年は377事業者(前年から38事業者増)
2020年の142事業者から、5年で2倍以上になりました。ただし、この数は「緩和している、または予定している」事業者の合計であり、全商品で実施済みという意味ではありません。また、集計は事業者単位で、店舗数ではありません。大手チェーン1社でも、地域の食品スーパー1社でも、1事業者と数えられます。
業態によって広がり方が違う
2022年10月の公表リストでは、食品スーパーが149、生活協同組合が43、ドラッグストア・薬局が24、総合スーパーが13、コンビニエンスストアが7、その他が4でした。事業者の数でみると、食品スーパーが多いことが分かります。
総合スーパーやコンビニは、1社あたりの店舗数が多く、取引するメーカーや卸の数も多くなります。事業者数が少なくても、影響が大きい場合があります。数の多さだけでなく、どの業態が動いたかを見ると、変化の実態に近づけます。
小売・メーカー・卸の複数社の実践
農林水産省が公開する取組資料には、小売、メーカー、卸、業界団体がそれぞれ事例として並んでいます。小売ではイオンリテール、イトーヨーカ堂、ファミリーマートが、メーカーや卸では江崎グリコ、コカ・コーラカスタマーマーケティング、国分グループ本社、山星屋が、業界団体では全日本菓子協会が挙げられています。
コンビニでは、セブン-イレブン・ジャパンが飲料や加工食品などの常温商品、一部の菓子について、納品期限を3分の1から2分の1に変更したと、農林水産省の取組資料で紹介されています。2022年10月の公表リストには、ローソンやファミリーマートなども名を連ねています。
納品期限の見直しは、小売だけでは完結しません。小売が期限を延ばしても、メーカーや卸が在庫を持ち、運ぶ仕組みが整っていなければ動かないからです。見直しの実践が複数の立場から報告されているのは、この連携が少しずつ広がっていることを示しています。
納品期限だけではない|販売期限と日付表示の見直し
3分の1ルールの見直しは、納品期限の緩和だけではありません。販売期限や日付の表示方法にも、見直しが広がっています。
販売期限を延ばす名古屋市の実態調査
名古屋市は、スーパーのヤマナカと連携し、2024年11月1日から30日まで、販売期限の延長に関する実態調査を行いました。対象は市内3店舗(アスティ、八田フランテ、竹の山)です。対象商品は納豆、豆腐、浅漬け、麺、中華惣菜の5品目で、販売期限を賞味期限の2日前から1日前に変更しました。
名古屋市のページには、廃棄量や売上への影響といった結果の数値は載っていません。そのため、効果の大きさをここで述べることはできません。一方で、自治体が小売店と組み、販売期限そのものを動かして検証した事例として、全国の地域に応用できる取り組みといえます。3分の1ルールの「販売期限」の部分に光を当てた点も特徴です。
賞味期限の大括り化と延長
メーカー側の見直しもあります。農林水産省の2025年10月時点のまとめでは、賞味期限表示の大括り化に取り組む食品製造事業者は365事業者(前年は350)、賞味期限の延長に取り組む事業者は393事業者(前年は359)でした。フードバンクや子ども食堂などへの食品提供に取り組む事業者は529事業者(前年は482)です。
大括り化とは、年月日で示していた賞味期限を、年月表示や10日単位などのまとまりで示す方法です。在庫ごとの日付のばらつきが減るため、納品や出荷の際に、わずかな日付の違いで受け入れが断られる事態を減らせると期待されています。
商品の袋に「年月」だけが書かれているものを見かけたことがあれば、それがこの見直しの一つです。日付が細かく書かれていないことに不安を覚える方もいるかもしれませんが、表示の仕組みは事業者が食品ロス削減のために工夫した結果だと理解できます。
3分の1ルールをめぐる3つの誤解
3分の1ルールは、聞き慣れない人にとって誤解が生まれやすい話題です。ここでは、特に多い3つの勘違いを整理します。
「法律だから変えられない」は誤解
3分の1ルールは法律ではなく、業界の商習慣です。実際に、納品期限を2分の1に緩めた事業者が377に増えていることが、変えられるものだという証拠になっています。変えるには、メーカー、卸、小売のそれぞれが合意する必要があり、時間はかかりますが、制度上の壁があるわけではありません。
「棚から消えた商品は傷んでいる」は誤解
納品期限や販売期限を過ぎて店頭から外れた商品は、品質に問題があるのではなく、取引上の期限を過ぎただけの場合があります。賞味期限は「おいしく食べられる期限」の目安であり、期限を過ぎたらすぐに食べられなくなるという意味ではありません。なお、傷みやすい食品に付く消費期限は、安全に食べられる期限なので、賞味期限とは区別して考えてください。
「企業と消費者のどちらかが悪い」は誤解
ルールを守る企業を責めても、日付の新しい商品を選ぶ買い物客を責めても、問題は解決しません。企業は、欠品を出さず、新しい商品を届けたいという事情の中で動いています。消費者は、少しでも安心できる商品を選びたいと考えています。それぞれの合理的な判断が積み重なって、全体として食品ロスにつながっているのが実態です。
ですから、見直しは「どちらかが我慢する」話ではありません。企業が納品期限を緩め、消費者が賞味期限に余裕のない商品も安心して選べるようになる。双方が歩み寄ることで、はじめて仕組みは変わります。
買い物で使える判断基準|棚の前でできること
最後に、読者のみなさんが日々の買い物で取り入れられる行動をまとめます。企業の見直しが進んでも、売れ残りの不安を減らすのは、店頭での私たちの選択です。
てまえどりを使い分ける
「てまえどり」とは、商品棚の手前にある、期限の近い商品から選ぶ行動です。環境省は2021年6月1日から、消費者庁、農林水産省、日本フランチャイズチェーン協会と連携し、小売店舗が消費者に呼びかける取り組みを始めました。
使い分けの目安は、食べる時期です。購入してすぐに食べる、または数日以内に食べ切る予定のものは、手前の商品を選んでも問題ありません。何週間か置いておく予定の食品は、日持ちを考えて奥の商品を選ぶ方が合理的です。無理にすべてを手前から取る必要はありません。
賞味期限が近い商品を選ぶ判断基準
賞味期限が近い商品を選ぶときは、次の3点を確認すると迷いにくくなります。
- いつまでに食べ切るかを決めてから選ぶ
- 賞味期限と消費期限のどちらが書かれているかを確認する
- 家に同じ商品の在庫がないか、買う前に思い出す
値引きシールのついた商品は、期限が近いサインでもあります。食べる予定が決まっていれば、積極的に選ぶことで店頭の売れ残りを減らせます。
買ったあとの家庭での工夫
家庭系食品ロスは、2024年度に224万トンありました。買った食品を食べ切れずに捨ててしまうことを防ぐには、冷蔵庫や食品棚で、賞味期限が近いものを手前に置く習慣が役立ちます。店頭で行う「てまえどり」を、家の中でも同じ向きに行うイメージです。
賞味期限が過ぎた食品は、見た目やにおいを確認し、状態を判断したうえで食べるかどうかを決めてください。判断に迷うときは、無理に食べず、次の買い物から量を調整する方が現実的です。
まとめ
3分の1ルールは、賞味期間の最初の3分の1以内に小売店へ納品するという、法律ではない商習慣です。2024年度の食品ロスは461万トンで、事業系は237万トンでした。納品期限を緩和した、または予定している食品小売事業者は、2020年の142事業者から2025年には377事業者へと増えています。
見直しは、納品期限だけにとどまりません。名古屋市とヤマナカによる販売期限の実態調査、賞味期限の大括り化や延長など、事業者や自治体の動きが重なって広がっています。一方で、事業系食品ロスは前年度より増えており、取り組みの途上であることも分かります。
私たちにできることは、特別なことではありません。すぐに食べるものは手前から選ぶ、賞味期限と消費期限を区別して見る、買う前に家の在庫を思い出す。まず1つだけ、次の買い物で試してみてください。
- 3分の1ルールは法律ではなく、変えることができる業界の商習慣である
- 2024年度の食品ロスは461万トンで、事業系は237万トン、家庭系は224万トンである
- 納品期限を緩和した、または予定している事業者は2025年10月時点で377事業者である
- 販売期限の延長や日付表示の大括り化など、納品期限以外の見直しも進んでいる
- すぐ食べる商品は手前から選び、期限の表示を区別して見ることが買い物での第一歩になる
参考文献
- 環境省「令和6年度の食品ロス量の推計値(報道発表)」(2026年)
- 農林水産省「食品ロス削減のための商慣習の見直し」(2025年)
- 農林水産省関東農政局「商慣習見直しに取り組む食品製造・小売事業者の公表」(2024年)
- 名古屋市「食品ロス削減に向けた商慣習の見直しのための実態調査」(2024年)
- 消費者庁「令和2年版消費者白書 概要」(2020年)
- 環境省「小売店舗での『てまえどり』呼びかけ(報道発表)」(2021年)

