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ENVIRONMENT

核融合スタートアップの実証装置建設地が決定|日本独自技術で2027年通電へ

Photo by Michael Förtsch on Unsplash

核融合は、太陽の内部で起きている反応を地上で再現し、水素の仲間(重水素など)の原子核を融合させて莫大なエネルギーを取り出そうとする技術です。その実用化に日本独自の「ヘリカル方式」で挑むスタートアップHelical Fusion(ヘリカルフュージョン)は、2026年3月13日、最終実証装置「Helix HARUKA」のマグネット実証フェーズ(Phase 1)の建設地を、岐阜県土岐市にある核融合科学研究所(NIFS)の敷地内に設けた共同研究グループ専用スペースとすると公表しました。目標は2027年の通電試験です。核融合の実証装置の建設地が決まったことは、日本の核融合が「研究」から「産業」へ進む節目のひとつです。この記事では、建設地決定の意味に加えて、2027年の次に何があるのか、国や他社の動き、世界との比較、「安全でクリーン」という言葉の正確な意味まで整理します。

この記事で学べること

  • Helix HARUKAの建設地と2027年通電試験で何を確かめるのか
  • ヘリカル方式がトカマク型とどう違い、何が強みで何が課題なのか
  • 国の戦略やほかの日本企業、ITER、米国勢と比べた日本の現在地
  • 核融合の「安全」「クリーン」で誤解されやすい点と、ニュースの読み方

実証装置「Helix HARUKA」の建設地が決まった意味

Helix HARUKAは、Helical Fusionが発電初号機「Helix KANATA」による実用発電に向けて位置づけている最終実証装置です。2026年3月に公表されたのは、その第1段階にあたるマグネット(磁場を作るコイル)実証フェーズの建設地でした。発表によると、すでに全国の製造企業と連携して機器の製作と建設地の整備が始まっており、2027年にコイルへ電流を流す通電試験を行うことを目指しています。

建設地はNIFSの敷地内

建設地はNIFSの敷地内にある、Helical FusionとNIFSの共同研究グループの専用スペースです。同社は2021年の創業で、NIFSが長年培ってきたヘリカル方式の技術を事業化する民間企業として知られています。研究者、大型の試験設備、実験の知見がそろった場所に装置を置くことで、開発の速度と安全面の管理を両立しやすくなると考えられます。

2027年の通電試験で確かめること

通電試験は、発電そのものを行う試験ではありません。核融合炉の磁場の「かご」を作るコイルが、設計どおりの磁場を安定して生み出せるかを確かめる段階です。ここで性能が確認できなければ、プラズマを閉じ込める次の段階に進めません。発電が見えるのはまだ先ですが、装置の土台を固める重要な工程だと言えます。

「建設中」であることの重み

報道では、2026年に入ってNIFSの敷地で最初のらせん状コイルの製作が始まったと伝えられています。研究計画の発表だけでなく、実機の製作が進んでいる点が、今回のニュースの中心です。もちろん、通電試験の日程は計画であり、技術的な課題が見つかれば変わる可能性があります。

ヘリカル方式とは何か|トカマク型との違いと強み

ヘリカル方式は、らせん状に曲げたコイルが作る複雑な磁場で、高温のプラズマを閉じ込める方式です。国内では国立大学や国立研究機関で約70年にわたり研究が積み重ねられてきたとされ、日本が強みを持つ分野です。定義の説明はここまでにして、気になる「ほかの方式とどう違うのか」に絞って見ていきます。

外側のコイルだけで磁場を作れる

核融合で最も研究例が多いのは、ドーナツ型の「トカマク型」です。一般にトカマク型は、プラズマ自身に大きな電流を流して磁場の一部を作る必要があり、その電流が乱れると運転が突然止まる現象への対策が課題になります。ヘリカル方式は、外側のコイルが作る磁場だけでプラズマを閉じ込められ、運転中にプラズマへ電流を流す必要がないとされています。長時間の安定した運転に向いているとされるのは、このためです。

弱みもある

一方で、ヘリカル方式のコイルは形状が複雑で、製作や組み立て、保守の難しさがコストに響きやすい点が課題です。Helical Fusionの経営陣も、技術面だけでなくコスト、安全性、建設の速さといった複数のハードルがあることを語っています。どの方式にも一長一短があり、「ヘリカル方式なら必ず先に実用化できる」とは言えません。

日本がこの方式を持つ意味

エネルギー安全保障の面から見ると、国内で装置の設計から製作まで担える技術を持っておくことには意味があります。ただし、実用化の競争は方式の優劣だけでなく、資金、部材の供給網、規制対応の速さでも決まります。ヘリカル方式の強みが事業として花開くかどうかは、これから2027年以降に確かめられていく段階です。

2027年の通電試験のあとに続くロードマップ

Helix HARUKAの先には、実用発電を目指すHelix KANATAがあります。Helical Fusionは2030年代に世界初の「実用発電」を実現するという目標を掲げています。そこまでの道のりを、公表されている情報から整理します。

実証の積み上げ方

報道によると、2027年の予備的な通電試験のあと、2030年ごろに2つ目のコイルや液体金属を使ったブランケット(壁)を組み込んだ統合設備で通電試験を行う計画です。同社は、燃料のトリチウムを作るブランケットと、プラズマの熱を逃がすダイバータの個別実証を2020年代末までに終える方針も示しています。商用の発電所の運転は2040年代が目標とされています。

すでに公表された成果

土台となる成果も公表されています。2025年9月には高温超電導(HTS)コイルの性能試験を行い、マイナス258度(15ケルビン)、7テスラの磁場の中で、40キロアンペアの電流を安定して流せたと発表しました。核融合装置内部に近い磁場環境を再現した試験で、発電所規模を想定した大型の導体を使ったコイルとしては世界初の実証だと同社は説明しています。この成果を受けて、同社は最終実証装置の製作と建設に着手しました。

資金の動き

開発には大きな資金が必要です。公表資料によると、2025年7月に約23億円を調達し、2026年4月28日にはシリーズBの1stクローズで約27億円を調達しました。2026年10月には2ndクローズとして32.3億円を調達し、シリーズB全体で59.3億円、補助金や融資を含む累計は130.5億円に達したと発表されています。富士電機、フジクラ、東京ガスなど、電機・ケーブル・エネルギー分野の企業が新たに参画している点は、技術開発が産業の裾野へ広がりつつあることを示しています。

日本の核融合を担うのはHelical Fusionだけではない

日本の核融合開発は、1社だけで進んでいるわけではありません。方式も役割も異なる複数のプレーヤーが並行して動いています。

国の戦略は「2030年代の発電実証」

内閣府は2025年6月4日に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、世界に先駆けた2030年代の発電実証を目指す方針を示しました。さらに2026年4月8日には「フュージョンエネルギーの社会実装に向けた取組の在り方」を決定し、バックキャスト(目標年から逆算する考え方)に基づく道筋を整理しています。国は、量子科学技術研究開発機構(QST)を中心に実績のある方式を進める取り組みと、スタートアップなどによる野心的な構想の取り組みを、並行して後押しする構図です。

スタートアップの役割分担

民間では、方式や得意分野が分かれています。ヘリカル方式のHelical Fusionに対し、京都大学発の京都フュージョニアリングは、プラズマ加熱装置のジャイロトロン、ブランケット、トリチウム燃料サイクルといった炉を支える工学システムの開発で知られます。そのグループ会社Starlight Engineは、トカマク型の民間主導プロジェクト「FAST」を進めており、2026年7月15日に60.6億円の資金調達を発表しました。KDDIや関西電力、古河電気工業、フジクラなどが出資に加わっています。FASTは2038年ごろの発電実証、2040年代の商用化を目標にしています。

研究機関の存在

スタートアップを支える土台は、公的研究機関の装置と人材です。国内では、QSTのJT-60SAと、Helix HARUKAの建設地でもあるNIFSの大型ヘリカル装置LHDが、重水素を使う実験装置として運転されています。どの企業も、こうした研究機関の知見と設備を足がかりにしています。1社の成否で日本の核融合が決まるのではなく、方式の違う取り組みが並ぶことで、リスクを分散していると見ることができます。

世界の核融合開発競争における日本の立ち位置

核融合の実用化を目指すのは日本だけではありません。国際協力による巨大プロジェクトと、民間主導の機動的な開発が同時に進んでいます。

ITERは2024年にスケジュールを見直した

フランスで建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)は、2024年に新しい計画(ベースライン2024)を公表しました。2034年に本格的な研究運転を開始し、2035年に重水素だけを使う運転を行い、燃料に重水素とトリチウムを使う本格的な運転は2039年とされています。物理学誌では、約10年の遅れと約50億ユーロの追加費用を伴う見直しとして報じられました。日本もITERの機器を調達する形で参加しており、国際協力の枠組みが続いています。

米国勢は電力の買い手と組んでいる

民間では、米国のCommonwealth Fusion Systems(CFS)が先行しています。2025年7月にはGoogleが、バージニア州で計画されるARC発電所(出力約40万キロワット規模)の電力のうち200メガワット分を購入する契約を結んだと報じられました。ARCは2030年代初頭の送電開始が目標とされ、2026年7月には約10億ドルの資金調達も報じられています。電力の買い手を先に確保して、資金と需要を同時に固める戦略です。

日本の強みと課題

日本の強みは、超電導コイルや部材を作れる製造業の層の厚さと、研究機関に蓄積された長年の知見です。一方で、資金の規模や、規制・電力市場との接続といった事業面では、米国に比べ初期段階にあります。日本の取り組みが世界と肩を並べるかどうかは、2027年以降に実機の試験結果を出し、それを投資と需要につなげられるかにかかっています。

核融合は「安全でクリーン」なのか|誤解されやすい点

核融合は「暴走しない」「廃棄物が出ない」と語られがちですが、言い切れる部分とそうでない部分があります。期待を正しく持つために、誤解されやすい点を分けて見ていきます。

「暴走しない」の正確な意味

核分裂の原子炉は連鎖反応を制御し続ける必要があります。これに対して核融合は、高温・高密度のプラズマを磁場で閉じ込める条件が崩れると反応が止まる性質があります。そのため、連鎖反応が制御不能になる事故は起こりにくいとされています。ただし、これは「リスクがゼロ」という意味ではありません。燃料のトリチウムは放射性物質で、扱い方や漏えい対策が重要になります。

廃棄物は「少ない」が「ない」わけではない

核融合では、高レベル放射性廃棄物の発生を大幅に抑えられるとされています。ただし、炉の構造材が中性子を浴びることで放射化し、廃棄物として扱う必要が出る部分があります。量や種類は設計や材料で変わるため、どの程度減らせるかも開発課題のひとつです。

規制の整備もこれから

内閣府の整理によれば、核融合装置は原子炉ではなく、核燃料物質も使わないため、原子炉等規制法の対象にはなりません。現在、重水素を使う国内の装置(JT-60SAやLHD)は、放射線発生装置として放射性同位元素等規制法(RI法)で規制されています。トリチウムを使う本格的な運転については、規制の枠組みがまだ整っておらず、現行のRI法で当面対応する方向が示されています。実用化が近づくにつれ、規制の設計は重要な論点になります。

核融合のニュースを読むときに確かめたいこと

核融合は、読者の暮らしにすぐ関わる話題ではありません。それでも、電気料金や脱炭素の将来に長く関わる分野なので、ニュースの読み方を持っておくと役に立ちます。

見出しの「達成」が何を指すのか

「世界初」「成功」といった言葉の中身は、ニュースごとに大きく違います。コイルの通電試験なのか、プラズマの生成なのか、投入エネルギーを上回る出力なのか、系統へ送電する発電なのかで、実用化までの距離は変わります。今回のHelix HARUKAの通電試験は、発電の手前にある、装置の土台を確かめる段階です。

時期は「目標」であって「約束」ではない

2027年の通電試験、2030年代の発電実証、2040年代の商用化は、いずれも現時点の目標です。ITERのように、複雑な大型装置では計画が見直されることもあります。時期を信じ込むのではなく、計画の更新や試験結果の公表を継続して追いかける姿勢が、冷静な見方につながります。

今できる行動は、すでにある選択肢

核融合が電気になるまでの間も、脱炭素は待ってくれません。再生可能エネルギーの電力プランを選ぶ、家庭の省エネを進めるといった足元の行動は、核融合の登場を待たずに今すぐ取れる選択肢です。核融合は、それらと競合するものではなく、長期的な電源の選択肢を広げる存在として見ておくのが現実的です。

まとめ

Helical Fusionは2026年3月、最終実証装置Helix HARUKAのPhase 1の建設地をNIFS敷地内に決め、2027年の通電試験を目指しています。2025年に公表された高温超電導コイルの試験成果や、2026年に重ねられた資金調達を見ると、計画は構想から実機の製作へ進んでいます。ただし、2027年の試験はあくまで装置の土台を確かめる段階で、発電まではHelix KANATAの2030年代という長い道のりが残っています。

日本の取り組みは1社だけではありません。ヘリカル方式のHelical Fusion、トカマク型のFAST、工学システムに強い京都フュージョニアリングなど、方式の異なる挑戦が並行して進み、国も2030年代の発電実証を掲げて後押ししています。世界ではITERが2024年に計画を見直し、米国ではCFSが電力の買い手と組んで先行しています。核融合は「暴走しない」「廃棄物が少ない」とされる一方、トリチウムの扱いや規制の整備といった課題も残っています。期待と課題の両方を見ながらニュースを読むことが、この分野と付き合う一番の近道です。気になった方は、まず次の試験結果の発表を1つだけ追ってみてください。

  • Helix HARUKAのPhase 1はNIFS敷地内で製作が進み、2027年の通電試験を目指している
  • ヘリカル方式はプラズマ電流が不要とされ長時間運転に向く一方、コイルの複雑さが課題になる
  • 国は2030年代の発電実証を掲げ、複数のスタートアップと研究機関が異なる方式で並走している
  • 「暴走しにくい」と「リスクゼロ」は別で、トリチウムの扱いや規制整備は今後の論点である
  • 時期はあくまで目標であり、試験の中身と計画の更新を継続して確かめることが大切である

参考文献

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