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ENVIRONMENT

「包む」が変わる|脱プラ包装の素材革新と、消費者が動かす変化の波

「包む」が変わる、脱プラ包装の素材革新と消費者が動かす変化の波

食品や日用品を包む「包装」が、いま素材の面から大きく変わりはじめています。牛乳のタンパク質から作るフィルム、植物タンパク質を塗った紙箱、リサイクルしやすい紙のバリア素材など、脱プラ包装の素材革新は研究室の外へ出てきました。一方で、新素材が増えるほど「結局どれを選べばいいのか」「捨てるときはどうすればいいのか」という迷いも増えています。この記事では、素材革新の現在地と日本の制度・企業の動きを整理したうえで、消費者として包装を選ぶときの判断の軸を考えます。

この記事で学べること

  • 牛乳由来のフィルムや植物タンパク質コーティングなど、脱プラ包装の素材革新がどの段階にあるか
  • 日本のプラスチック資源循環促進法の目標と、コンビニ・印刷会社などの実践
  • 「生分解性」「紙製」「リサイクル可能」という言葉の誤解されやすい点
  • 買い物の場面で使える、包装を見分ける3つの問い

脱プラ包装の素材革新はどこまで来ているか

新素材のニュースは「もうすぐ店頭に並ぶ」ように聞こえがちですが、実際には段階がまったく違います。研究室で効果が確かめられはじめた素材もあれば、すでに海外で数百万単位の箱に使われている素材もあります。ここでは3つの例を、実用化の段階順に見ていきます。

牛乳のタンパク質から作るフィルムは研究段階

2026年2月28日、オーストラリアのフリンダース大学などの研究が報じられました。牛乳由来のタンパク質であるカゼイン酸カルシウムに、加工デンプンと天然のナノクレイ(ベントナイト)を組み合わせた、生分解性の包装フィルムです。論文は2025年に学術誌『Polymers』に掲載されています。

土壌での試験では、フィルムが徐々に分解する傾向が確認され、約13週間で完全に分解すると見込まれるとされています。この13週間は試験からの推定値として伝えられており、「13週間で消える」と言い切れる段階ではありません。研究者自身も、水分の多い食品には向きにくい性質があることや、食品に触れる包装として使う前に追加の安全性評価が必要なことを挙げています。研究段階の素材と受け止めるのが妥当です。

植物タンパク質コーティングの紙箱は欧州で量産段階に入った

実用化が進んでいる例が、欧州のフードデリバリーです。2026年3月、Just Eat Takeaway.comは包装メーカーのHuhtamakiとの提携を拡大し、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、スイス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、スロバキア、スペインの10市場で、プラスチックを使わないテイクアウト箱を展開すると発表しました。

この箱は、波形の板紙に、英国のXampla社が開発した植物タンパク質のコーティング「Morro」を施したものです。化学的な改変を加えていない植物由来の素材で、これまでプラスチックのコーティングが担ってきた耐油・耐水の役割を置き換えます。企業側は、既存の古紙回収の流れにそのまま乗せられ、EUの使い捨てプラスチック指令にも適合すると説明しています。リサイクル性や性能は発表企業側の説明であり、第三者による長期的な検証結果はまだ多く出ていません。

紙のバリア素材は日本でも実用化が進んでいる

紙は水分や酸素を通しやすいため、食品や化粧品の包装では長くプラスチックのフィルムや多層ラミネートが使われてきました。ここに、紙を主体にしながら防湿・防酸素性を持たせる「バリア加工」が広がっています。

日本では大日本印刷(DNP)が2024年6月、単一素材の紙製ハイバリアシートについて、パルプ回収率85%以上を達成したと発表しました。欧米では紙製包装のリサイクル性の目安としてパルプ回収率80%以上を求める動きがあるとも説明されています。プラスチックを紙に替えるだけでなく、紙として回収したときに再び紙に戻せるかが、素材開発の重要な評価軸になっていることがわかります。

日本の制度は包装をどう変えようとしているか

素材革新を後押ししているのは、技術だけではありません。規制と数値目標が「変える理由」を企業に与えています。日本の制度は、使い捨てプラスチックを減らす入口の規制と、回収・再利用を増やす出口の目標の二本立てで読むと整理しやすくなります。

プラスチック資源循環促進法が企業に求めること

プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)は、2021年6月に公布され、2022年4月に施行されました。この法律では、無償で提供される使い捨てプラスチックのうち、フォーク、スプーン、マドラー、飲料用ストロー、ヘアブラシ、歯ブラシ、衣類用ハンガーなどの12品目が「特定プラスチック使用製品」に指定されています。

提供する事業者には、消費者への意思確認や有償化、受け取らない人へのポイント還元など、使用を減らす工夫が求められます。コンビニのレジで「スプーンはお付けしますか」と聞かれるようになったのは、この仕組みが背景にあります。

数値目標と現在地

環境省の資料によると、プラスチック資源循環戦略では、2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制すること、容器包装の6割をリユースまたはリサイクルすること、2035年までに使用済みプラスチックを100%有効利用することが掲げられています。

同じ資料では、2024年のプラスチック製容器包装のリサイクル率は34.4%、使用済みプラスチック全体の有効利用率は89%と示されています。ただし、これらは目標の6割や100%とは指標の範囲や定義が異なるため、単純には比べられません。ここから読み取れるのは、焼却時の熱回収を含む有効利用は進んでいても、素材として循環させる段階にはまだ伸びしろがあるという点です。包装の素材が変わる意味は、ここにつながっています。

海外の包装規制が日本の商品にも及びはじめている

日本国内の制度だけを見ていると、見落としやすい動きがあります。EUの包装規制です。海外向けの商品を持つ日本企業にとっては、包装の見直しを急がされる要因になっています。

EU包装・包装廃棄物規則(PPWR)の適用が始まった

EUの包装・包装廃棄物規則(規則(EU)2025/40、PPWR)は2025年2月11日に施行され、2026年8月12日以降、要件ごとに順次適用が始まっています。対象はすべての包装と包装廃棄物で、包装廃棄物の削減とリサイクルの促進を目的とした包括的な規制です。ジェトロ(日本貿易振興機構)は、日本企業向けに概要資料やFAQを公開しています。

国内の店頭にも波及する理由

EU向けに輸出する商品の包装を変えるなら、同じ素材や設計を国内向けにも採用したほうが、調達や製造の面で合理的な場合があります。実際に、欧州で先行した素材が日本の包装メーカーの開発方針にも影響を与える流れは、今後強まると考えられます。

先ほどのXampla社のCEOも、欧州は包装規制で急速に動いており、プラスチックを本当に置き換えられる素材への需要が高まっていると述べています。規制が先に素材の需要をつくり、素材が増えることで選択肢が店頭に広がる、という順序です。

日本の企業はどこまで実践しているか

日本でも、コンビニや印刷会社など、身近な場面で具体的な切り替えが進んでいます。ここでは数字が公表されている取り組みを中心に見ます。

コンビニの容器・包材の切り替え

ファミリーマートは、オリジナル商品の容器・包材における環境配慮型素材の使用割合を、2030年に60%、2050年に100%とする目標を掲げています。レジ袋などの用度品を含めると、2030年までに70%が目標です。あわせて、お客様に配布するプラスチックについて、2019年度比で2030年度までに石油由来の使用量を50%削減するとしています。

取り組みの例として、2024年7月に無糖茶の定番7商品で再生PETボトルへの切り替えが完了し、石油由来の新規プラスチック使用量が年間約4,750トン削減される見込みと公表されています。2024年9月からはスープ商品の容器を紙容器へ変更し、年間約170トンの削減を見込んでいます。スプーンの持ち手の設計変更で使用量を約12%減らしたことや、プラスチック製フォークの店頭提供を原則取りやめたことも紹介されています。

同社は、2025年度のレジ袋辞退率が79.0%だったことも公表しています。一つひとつの削減量は小さく見えても、毎日数多くの店舗で使われるため、積み重なると大きな数字になります。

素材メーカーと小売の役割分担

DNPのような素材メーカーが紙のバリア素材を開発し、小売や食品メーカーがそれを容器に採用し、消費者が選ぶ。この三層がかみ合ったときに、はじめて「包む」が変わります。各社の目標値は、自社だけでなくサプライチェーン全体の協力を前提にしている点も、見ておきたいところです。

なお、企業の公表数値の多くは「削減見込み」であり、実績値が別途公開されているとは限りません。数字を読むときは、目標なのか見込みなのか実績なのかを区別することが大切です。

消費者の選択は包装を本当に動かしているのか

企業が包装を変える理由として、「消費者が求めているから」という説明がよく使われます。実際にどこまで言えるのかを、米国の調査から確認しておきます。

調査が示す消費者の意識

米国のカスタム印刷会社UPrintingは、2025年10月に米国の成人1,000人を対象にオンライン調査を行い、2026年3月に結果を公表しました。それによると、68%が「プラスチックごみを減らすために買い物の習慣を変えた」と回答しています。価格が同じなら、よりサステナブルに見える商品を選ぶと答えた人は50%でした。

Z世代では、過剰なプラスチック包装を使うブランドの購入をやめたと答えた人が53%、パッケージ上のサステナビリティ情報を必ず確認すると答えた人が21%でした。また32%が、サステナブルな包装の商品に6〜10%高い価格を払ってもよいと答え、57%が、包装による環境負荷への対応はブランドや製造業者が主導すべきだと答えています。

この数字をどう読むか

この調査には注意点があります。実施したのは印刷サービスを提供する企業で、対象は米国の成人です。質問文の詳細や誤差の範囲も公表されていないため、日本の消費者にそのまま当てはめることはできません。「そう答えた」ことと「実際に買う商品を変えた」ことの間には、差があるのが一般的です。

それでも、包装が購買の判断材料のひとつになりつつあること、そして責任は企業側にあると考える人が多いことは、企業が包装を見直す動機として読み取れます。日本でも、レジ袋の辞退率の高さにみられるように、行動が定着した場面では変化が数字に表れています。

「生分解性」「紙製」「リサイクル可能」で誤解されやすいこと

新素材が増えると、包装に書かれた言葉の意味を取り違える場面も増えます。ここでは特に誤解されやすい3点を整理します。

「生分解性」は、どこに捨ててもよいという意味ではない

生分解性とは、微生物の働きで分解される性質のことです。ただし、分解に必要な温度・湿度・時間は素材や環境で異なります。フリンダース大学の研究で示された約13週間も、特定の土壌条件での試験結果から推定された値です。

海や川、道ばたに捨てた場合に同じように分解される保証はありません。「生分解性だから自然に返る」と考えて、ポイ捨てやごみの分別を省くのは誤りです。

「紙製」は、必ずしも古紙として出せるわけではない

紙製の包装でも、内側にプラスチックのフィルムやコーティングが貼られていると、古紙として再生しにくくなる場合があります。DNPのパルプ回収率85%以上という数字は、まさに「紙に戻せる割合」を示すものです。

家庭では、紙製であってもどこまで資源として出せるかは、自治体の分別ルールや容器包装の識別マークで確認するのが確実です。

「リサイクル可能」は、実際にリサイクルされることとは別

「リサイクル可能」は、技術的に再資源化できるという意味で使われることが多い言葉です。実際に再資源化されるには、地域で回収する仕組みがあり、消費者が正しく分別して出す必要があります。

Just Eat Takeawayの箱も、既存の古紙回収の流れに乗せられると企業は説明していますが、実際にどれだけ回収され、再び紙になるかは、各地域の回収の実態に左右されます。素材の性能と、回収の出口の整備は、セットで見る必要があります。

包装を選ぶときに使える3つの問い

素材の名前をすべて覚える必要はありません。買い物の場面では、次の3つの問いで包装を見ると、判断がしやすくなります。

問い1 そもそも、この包装は必要か

最も効果が大きいのは、包装を減らすことです。レジで「スプーンは不要です」と伝える、詰め替え用を選ぶ、簡易包装の商品を選ぶといった行動は、素材の良し悪しを調べなくても今日から実践できます。プラスチック資源循環促進法が意思確認の仕組みを求めているのも、この考え方に沿ったものです。

問い2 使った後の出口は、自分の地域でつながっているか

新素材や紙製包装を選んでも、出口がなければ意味が薄れます。容器包装のマークを確認し、お住まいの自治体の分別ルールで資源として出せるかを見る習慣を持つと、「環境によさそう」という印象だけに頼らずに済みます。

問い3 環境配慮の表示は、何を根拠にしているか

「環境に優しい」とだけ書かれた表示より、再生材の使用割合や素材の種類、認証の有無など、具体的に示された情報のほうが判断の材料になります。根拠が書かれていない場合は、企業の公式サイトで確認するのもひとつの方法です。

まとめ

脱プラ包装の素材革新は、研究段階の牛乳由来フィルム、欧州で量産が始まった植物タンパク質コーティング、日本で実用化が進む紙のバリア素材と、段階の違う動きが同時に進んでいます。そこに、日本のプラスチック資源循環促進法や、2026年8月から順次適用されているEUの包装規則が加わり、企業が包装を見直す理由が増えています。

一方で、「生分解性」「紙製」「リサイクル可能」といった言葉は、使い方次第で実態と印象にずれが生まれます。素材そのものの優劣より、使った後にどこへ行くのかまで含めて見ることが、これからの包装選びでは大切になります。

まず1つだけ試すなら、次にコンビニやスーパーで、使わないスプーンやフォークを断ってみてください。その小さな選択が、包装をめぐる変化の一部になっていきます。

  • 牛乳由来のフィルムは研究段階、植物タンパク質コーティングの紙箱は欧州で展開中、紙のバリア素材は日本でも実用化が進んでいる
  • 日本は2030年までにワンウェイプラスチックの累積25%排出抑制などを掲げ、EUのPPWRは2026年8月から順次適用されている
  • 「生分解性」「紙製」「リサイクル可能」は、出口の仕組みが整って初めて意味を持つ
  • 包装を選ぶときは「必要か」「出口はあるか」「根拠はあるか」の3つの問いが役立つ

参考文献

  • 記事を書いたライター
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