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ENVIRONMENT

ネイチャーベースドソリューションとは?自然の力で問題解決|日本の事例と進め方

ネイチャーベースドソリューションとは?自然の力で問題解決

ネイチャーベースドソリューション(NbS)とは、森林・湿地・農地・海岸といった自然の働きを守り、回復させ、持続可能に使うことで、洪水や猛暑、食料、地域の衰退といった社会課題を同時に解決しようとする考え方です。2022年の国連環境総会(UNEA-5)では、各国政府が合意した初めての定義として、人の幸福や生態系サービス、生物多様性への恩恵を同時にもたらす行動と位置づけられました。

定義を知ると、次の疑問が出てきます。日本ではいま何が進んでいるのか。本当にコンクリートより効くのか。「木を植えればNbS」ではないのか。自分や自分の街には何ができるのか。この記事では、2026年7月に環境省が公表した手引きや「自然共生サイト」、田んぼ、海岸林、企業の森といった国内の実践を手がかりに、これらの疑問に順に答えます。

この記事で学べること

  • 環境省の手引きや自然共生サイトなど、日本でNbSがどこまで制度化されているか
  • 田んぼダム、コウノトリ育む農法、海岸防災林、企業の森という国内の実践例
  • NbSが「割に合う」と言われる理由と、お金の面での課題
  • 植林=NbSではない、万能ではないといった、誤解されやすい3つの点
  • 良いNbSを見分ける視点と、暮らしの中でできる関わり方

日本でNbSはどこまで進んでいるのか

NbSは海外の概念として紹介されがちですが、日本ではすでに国の計画に組み込まれ、法律や手引きという形で実務の段階に入っています。まず制度の全体像を押さえておくと、自治体や企業の動きが読み取りやすくなります。

国の計画と環境省の手引き

環境省は、NbSを「自然が有する機能を持続可能に利用し、多様な社会課題の解決につなげる取組」と説明しています。NbSは「第六次環境基本計画」(2024年5月)や「生物多様性国家戦略2023-2030」(2023年3月)に位置づけられています。日本の社会課題として、気候変動に伴う災害の激甚化、農林水産業への影響、人口減少による地域経済の停滞、生物多様性の損失が挙げられています。

2026年7月31日には、環境省が「自然を活用した解決策(NbS)の手引き」を公表しました。本編、資料集、事例集、セルフアセスメントツールの4点で構成され、地方公共団体、企業、地域団体、住民が連携して検討・実践するときの参考になるとされています。これまでグリーンインフラ、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)、生態系を活用した適応策(EbA)と分野ごとにあった手引きが、NbSという共通の枠で整理されたことになります。

自然共生サイトの法制化

企業や自治体にとって最も具体的な入り口が「自然共生サイト」です。民間の取組などで生物多様性が保全されている区域を環境省が認定する仕組みで、2025年4月に施行された「地域生物多様性増進法」によって法律に基づく制度になりました。

認定の対象は3タイプです。すでに豊かな生物多様性を維持している場所を守る活動、管理放棄地などで自然を回復させる活動、開発跡地で自然を創出する活動です。2025年9月16日の発表では、法に基づく初めての認定として201か所が認定され、内訳は維持タイプ192か所、回復タイプ2か所、創出タイプ2か所などでした。12月16日には2回目として58か所が認定されています。

ここで注目したいのは、第1回の認定の大半が「いまある自然を守る」維持タイプだったことです。回復・創出タイプはまだ少なく、荒れた土地を自然の力で再生させる取組は、これから増やす余地が大きい領域だといえます。

日本の現場で動く4つの実践

NbSの実例というと海外の大規模事業が語られがちですが、日本にも、暮らしに近い場所で成果を出している実践があります。ここでは農地、海岸、企業の敷地に分けて見ていきます。

田んぼに雨をためる田んぼダム

田んぼダムは、水田の排水口に調整板などの流出量を抑える器具を付け、大雨のときに雨水を水田に一時的にためて、川や水路への流れ込みを緩やかにする取組です。農林水産省が進める流域治水の施策の一つで、新潟県をはじめ全国で取組面積が広がっています。

新たにダムを建設するのではなく、もともと水を張る場所である水田の容量を活かす点が、NbSらしい発想です。農作業に支障が出ないよう、ためた雨を速やかに排水する落水枡と組み合わせて運用されます。米づくりを続けること自体が、地域の防災を支える仕組みになっています。

兵庫県豊岡市のコウノトリ育む農法

兵庫県豊岡市では、コウノトリが暮らせる田んぼを目指した「コウノトリ育む農法」が体系化されています。豊岡市の資料によれば、2022年度の作付実績は無農薬が162.5ha、減農薬が283.1haで合計445.6ha、水稲作付面積の約17%にあたると報告されています。

この事例は、自然の回復と地域の経済が結びついている点で参考になります。無農薬栽培の米は食の安全への関心の高まりから需要が高く、高めの価格で取引されるため、転換する農家が増えたとされています。自然を守ることが農家の収入と両立すれば、取組は長続きします。

津波に備える海岸防災林

東日本大震災では、津波によって青森から千葉までの6県の海岸防災林が、防潮堤や林帯地盤の損壊、樹木の倒伏や流失といった被害を受けました。一方で林野庁は、海岸防災林が津波エネルギーの減衰や漂流物の捕捉といった一定の被害軽減効果を発揮したことも確認されたと報告しています。

同時に、地盤が低く地下水位が高い場所では、樹木の根が深く伸びずに根返りし、流木になってしまった例も報告されています。海岸林は万能の盾ではなく、土地の条件に合わせた整備と、防潮堤など他の対策との組み合わせが前提になります。この限界を含めて伝えることが、NbSを正しく理解する近道です。

企業が敷地の森を守る取組

企業の動きも出てきています。たとえば加賀東芝エレクトロニクスの「加賀東芝の森」は、地域生物多様性増進法に基づく自然共生サイトに認定され、2025年9月30日の認定式に参加しました。工場周辺の緑地を、単なる敷地の緑化ではなく生物多様性の拠点として位置づけ直す動きです。

企業にとっての狙いは、イメージ向上だけではありません。自然資本に関する情報開示の枠組みが整うなかで、自社の土地でどんな自然を守り、どう測るかを示せることは、投資家や取引先への説明材料になります。

NbSは「割に合う」のか|お金から見る

NbSが広がる最大の理由は、環境にやさしいからではなく、コスト面でも合理的になり得るからです。ただし、数字には読み方の注意があります。

ニューヨークの水道水源保全という古典的事例

NbSの経済性を語るうえで繰り返し引用されるのが、ニューヨーク市の水道水源であるキャッツキル山地の事例です。米国環境保護庁(EPA)の議会向け証言資料などによれば、当時の推計では、ろ過施設を新設すると建設費が60億〜80億ドル、運営維持費が年間約2億ドルかかるとされました。これに対し、流域の保全プログラムは約12億ドル規模と報告されています。

この数字は2000年代前半の推計で、現在の費用に換算した比較ではありません。それでも、森や土壌が持つ水の浄化機能を守ることが、巨大な設備投資を避ける選択になり得ることを示す事例として、いまも参照されています。

世界の資金は足りているのか

国連環境計画(UNEP)の「State of Finance for Nature 2023」によると、NbSへの資金は年間約2,000億ドルです。一方で、自然に害を与える資金の流れは年間約7兆ドルに上るとされています。気候変動を1.5℃に抑える、陸と海の30%を保全する(30by30)、土地劣化を止めるという国際目標を達成するには、NbSへの資金を2030年までに年間5,420億ドルへ増やす必要があると試算されています。

世界経済フォーラムの2020年の報告は、世界のGDPの半分超にあたる44兆ドルの経済価値が、自然とその恵みに中程度または高く依存していると指摘しました。自然を守ることは、環境の話であると同時に、経済の土台を守る話でもあります。

日本の課題は「測り方」と「予算の縦割り」

日本でも、効果の測り方が課題です。炭素の吸収量は比較的測りやすい一方、防災効果や景観、住民の心身への影響、生物多様性の価値は数値化しにくく、投資の判断を難しくします。さらに、洪水対策は河川、生物多様性は環境、農地は農林水産というように、効果が複数の部局にまたがるため、誰が費用を負担するのかが曖昧になりがちです。

環境省の手引きにセルフアセスメントツールが含まれているのは、こうした「効果をどう整理し、関係者でどう共有するか」という実務上の壁を意識したものと読めます。

誤解されやすい3つのポイント

NbSという言葉が広まるほど、意味が少しずつ変わって使われるリスクも出てきます。ここでは、特に混同されやすい3点を整理します。

「木を植えればNbS」ではない

オックスフォード大学の研究者らは、気候変動対策としての植林が、単一樹種の商業林を中心に生物多様性への効果が乏しいまま進められ、企業のグリーンウォッシュ(実態以上に環境配慮をうたうこと)の口実に使われる恐れを指摘しています。新たに植えた木が吸収する炭素にも上限があり、伐採や火災、干ばつ、病害で失われる可能性があります。

NbSは、人と生物多様性の両方に利益をもたらすことが条件です。炭素の数字だけを追う植林は、NbSの一部にすぎません。企業が「NbSに取り組んでいる」と言うとき、排出削減そのものを後回しにしていないかも、あわせて確認したいところです。

自然は万能の解決策ではない

前述の海岸防災林のように、自然の機能には限界があります。大規模な洪水や津波に対しては、堤防やダムなどの人工物が必要な場面もあります。NbSは、人工物を否定するものではなく、組み合わせの選択肢を広げるものです。

また、気候変動そのものが自然の機能を弱めることもあります。干ばつで森が衰えたり、高温で湿地が変質したりすれば、期待した効果は出ません。だからこそ、状況を見ながら対策を見直す順応的な管理が欠かせません。

効果が出るまで時間がかかる

コンクリートの構造物は完成した日から役割を果たしますが、森や湿地は育つまでに年単位の時間がかかります。短期間で成果を求める事業計画とは相性が悪く、資金の出し手も慎重になりがちです。

これは欠点であると同時に、性質でもあります。時間をかけて育った自然は自己修復力を持ち、長期的には維持の負担が軽くなる可能性があります。評価の期間を何年に置くかが、事業の成否を左右します。

良いNbSを見分ける視点

「NbS」と名乗っていても、中身はさまざまです。自治体の計画や企業の発表を読むときに使える物差しがあります。

IUCNグローバル基準の8つの基準

国際自然保護連合(IUCN)は2020年に「NbSグローバル基準」を発表しました。8つの基準と28の指標で構成されています。8つの基準の内容は、次のように要約できます。

  1. 地域との協議を経て特定した社会課題に、効果的に対処していること
  2. 地理的な範囲にとどまらず、経済・社会・生態系を含む規模で設計されていること
  3. 生物多様性と生態系の健全性に、純増(ネットゲイン)をもたらすこと
  4. 経済的に成り立ち、短期で終わらないこと
  5. 先住民族の権利を尊重する、包摂的で参加型の統治に基づくこと
  6. 複数の便益と目標達成のあいだのトレードオフを、公平に調整していること
  7. 科学的な根拠に基づき、状況に応じて順応的に管理されていること
  8. 適用される政策や制度の枠組みに組み込まれていること

生物多様性の純増と、地域住民の参加という2点が入っていることが重要です。自然に手を入れても生物多様性が減るなら、地域に説明のないまま進むなら、基準を満たさない可能性があります。

読み手が最初に確かめたい3つの問い

基準の全文を覚える必要はありません。計画や発表を見るとき、次の3つを確かめるだけでも、判断の精度は変わります。

  • 解決したい社会課題は何で、誰がそれを決めたのか
  • 生物多様性が増える(少なくとも減らない)根拠が示されているか
  • 効果を測る指標と、見直しのタイミングが決まっているか

この3点が書かれていれば、少なくとも見せかけだけの取組である可能性は下がります。

暮らしの中でできる関わり方

NbSは行政や大企業だけのものではありません。身近な場所で関われる入り口はいくつもあります。

近くの自然共生サイトや緑地を知る

自然共生サイトは全国に広がっています。住んでいる地域や職場の近くに認定地がないか、環境省や自治体の情報で確認してみてください。秋は、里山や公園の観察会、保全活動が各地で開かれやすい時期です。参加するだけでも、地域の自然がどんな課題を抱えているかが見えてきます。

また、庭やベランダ、駐車場の一角で雨水を地面にしみ込ませる雨庭を設ける自治体も増えています。住まいの近くで取り組めることがないか、自治体の窓口に聞くのも一つの方法です。

選ぶ・買うことで支える

コウノトリ育む農法のように、生きものに配慮した農産物を選ぶことは、NbSを経済の面から支えることにつながります。購入するときは、「環境にやさしい」といった抽象的な表現ではなく、どんな認証や基準で、どんな生きものを守っているのかが説明されているかを見るとよいでしょう。

働く人であれば、勤め先の敷地や調達先の自然との関わりを、一度整理してみるのも有効です。環境省の手引きに付属するセルフアセスメントツールは、そうした出発点として使える可能性があります。

まとめ

ネイチャーベースドソリューションは、自然を守ることと社会課題の解決を一つの行動で進めようとする考え方です。日本では、2026年7月の環境省の手引き、2025年施行の地域生物多様性増進法と自然共生サイトなど、制度と現場の両面で整備が進んでいます。田んぼダムやコウノトリ育む農法、海岸防災林、企業の森といった実践は、自然の機能を暮らしや仕事の仕組みに組み込む工夫の例です。

一方で、NbSは植林と同じ意味ではなく、万能でもなく、効果が出るまでに時間がかかります。炭素の数字だけを追う取組や、地域に説明のない取組は、NbSと呼べない場合があります。生物多様性が増えるのか、地域の人が関わっているのか、効果をどう測り見直すのかという視点を持つことが、見せかけを見分ける助けになります。

まずは、お住まいの地域に自然共生サイトや保全活動がないかを、1つだけ調べてみてください。

  • NbSは、自然の機能を守り・回復させ・持続可能に使って、複数の社会課題を同時に解決する行動である
  • 日本では、環境省の手引き(2026年7月)や自然共生サイトの法制化で、実務の枠組みが整いつつある
  • 田んぼダム、コウノトリ育む農法、海岸防災林、企業の森など、国内にも多様な実践がある
  • 植林だけではNbSと言えず、自然の効果には限界と時間差があることに注意が必要である
  • 「課題の特定」「生物多様性への効果」「測定と見直し」の3点で、取組の質を見分けられる

参考文献

  • 記事を書いたライター
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