エシカル就活は、企業の規模や給与だけでなく、その企業が社会や環境にどう向き合っているかを軸に就職先を選ぶ考え方です。気持ちは固まっていても、「どの資料のどの数字を見れば、その企業の本気度を判断できるのか」で止まってしまう学生は少なくありません。
WWFジャパンが2024年5月に環境意識の高い大学生・大学院生309人へ行ったオンライン調査では、81%が就職先の検討時にサステナビリティを考慮したいと答えました。一方で、企業のサステナビリティの評価や比較の方法がわからないと答えた人も83%にのぼっています。意欲はあっても、判断の物差しが手元にないということです。
この記事では、日本で入手できる公開情報と制度を使って、エシカル就活を具体的に進める手順をまとめます。
エシカル就活の広がりと、学生の本音を示す数字
「社会のためになっているか」を就職先選びの軸にする
エシカル就活は、気候変動、貧困、ジェンダー、人権といった社会課題への企業の姿勢を、応募先を選ぶ基準の一つにする就職活動を指します。給与や知名度を捨てるという意味ではありません。複数ある判断軸の中に、「この会社の事業や働き方は、社会に対して誠実か」という問いを加えるイメージです。
買い物で「安さ」に加えて「作り手や環境への配慮」を見るエシカル消費と、考え方は同じです。選ぶ対象が商品から職場に変わるだけで、確認すべきは表示と実態のずれです。
調査から読み取れる意欲と、評価のしにくさ
WWFジャパンの調査(2024年5月、309人)には、気になる数字が並んでいます。就職先の検討時にサステナビリティを考慮したい学生は81%、企業の取り組みが本当に意味のあるものかを意識している学生は72%でした。最も関心のある社会課題に気候変動・エネルギー問題を挙げた学生は58.6%です。
そのうえで、企業が掲げるサステナビリティに信憑性がないと感じる学生は70%以上、評価や比較の方法がわからない学生は83%と報告されています。関心が高いほど、企業の発信を疑う目も強まっているのが読み取れます。
この数字を読むときの注意点
この調査の対象は、気候変動や環境問題を意識していると答えた学生です。就活生全体の傾向をそのまま表した数字ではありません。
それでも、「関心はあるのに見極め方を知らない」という層が相当数いることは確かだと言えます。この記事の後半は、その空白を埋める作業にあてています。
日本で調べられる3種類の公開情報
エシカル就活の確認先は、企業の採用ページやパンフレットだけではありません。日本には、企業に数字の公表を求める制度や、第三者が企業を認定する制度があります。確認先を整理すると次の3種類です。
有価証券報告書の人的資本・サステナビリティ欄
上場企業などが提出する有価証券報告書には、2023年3月期から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられました。この欄では、人材育成の方針や社内環境整備の方針に加え、それらに関する指標と目標、実績の記載が求められています。
あわせて、女性活躍推進法などに基づいて公表している企業は、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金差異も記載します。パンフレットの「多様性を大切にしています」という一文を、数字で確かめる材料になります。
ただし、有価証券報告書の対象は上場企業などに限られます。非上場企業や中小企業は、次の2種類で補う必要があります。
女性活躍推進法に基づく情報公表
男女の賃金の差異は、2022年7月8日の省令改正により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に公表が義務づけられました。公表先は自社サイトか、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」です。
さらに、2025年6月11日に公布された改正女性活躍推進法が2026年4月1日に施行され、男女間賃金差異と女性管理職比率の公表義務が従業員101人以上の企業にも広がりました。中小規模の企業でも、数字を確認できる範囲が広がっています。
賃金差異は、全労働者、正規雇用、非正規雇用の区分で示されます。差が大きいとき、その理由を企業が説明しているかどうかも、判断材料になります。
国の認定制度(えるぼし・くるみん・ユースエール)
厚生労働省は、働きやすさに関する認定制度を運用しています。女性活躍の取り組みが優良な企業を認定する「えるぼし」、子育てサポートに取り組む企業を認定する「くるみん」、若者の採用・育成に積極的な中小企業を認定する「ユースエール」が代表的です。
ユースエールの対象は常時雇用する労働者が300人以下の中小企業です。認定基準には、新卒者などの離職率が直近3事業年度で20%以下であること、月平均の所定外労働時間が20時間以下であること、有給休暇の取得率が平均70%以上または年間10日以上であること、育児休業の取得実績があるか、くるみん認定を受けていることが含まれます。基準が具体的な数字で決まっているため、他社との比較に使いやすい制度です。
厚生労働省は、えるぼしなどの認定企業一覧を自省のサイトで公開しています。志望企業の名前を一覧で検索するのが、確認の第一歩になります。
言葉・数字・制度を突き合わせる3段階の確認法
ここからは、前の章で整理した資料を使って、企業の言葉を検証する手順です。社会課題への取り組みを大きく見せる表現(グリーンウォッシュ)に流されないための、実務的な見方としてまとめます。
第1段階 掲げている言葉を書き出す
採用サイトや説明会で聞いた「多様性」「働きやすさ」「環境への配慮」といった言葉を、まず書き出します。次に、その言葉に対応する測定可能な項目を探します。「多様性」なら女性管理職比率、「働きやすさ」なら離職率や所定外労働時間、「環境への配慮」ならCO2排出量の開示と削減目標が、それにあたります。
第2段階 数字で裏づけを取る
対応する項目について、有価証券報告書や情報公表の数字を確認します。見るポイントは、数字そのものよりも、時系列の変化と目標の有無です。現在の数字が低くても、目標を掲げて毎年改善していれば、誠実に向き合っていると読み取れます。反対に、数字を一切出さず、言葉だけが並んでいる場合は、確認事項に回します。
第3段階 制度の認定と運用を確かめる
認定の有無は参考になりますが、それだけで企業の良し悪しは決まりません。ユースエールは中小企業向け、有価証券報告書は上場企業向けと、制度ごとに対象が違うためです。認定がないことは、問題があることを意味しません。
もう一つ注意したいのは、制度があることと、実際に使われていることは別だという点です。育児休業制度があっても、取得できる雰囲気かどうかは数字だけでは見えません。そこは次の章の質問で確かめます。
面接・OB訪問で使える質問例
公開情報で調べきれない部分は、人に聞いて補います。ただし、聞き方によっては批判的に受け取られかねません。ここでは、公開情報を読んだうえでの前向きな質問として組み立てます。
数字の背景を聞く質問
「御社の有価証券報告書で、女性管理職比率の目標を拝見しました。目標に向けて、現場ではどのような取り組みが進んでいますか」のように、調べた事実を前置きして聞きます。数字を読み込んでいることが伝わり、相手も具体的に答えやすくなります。
男女間賃金差異についても同様に、「差の主な要因をどのように捉えていますか」と尋ねられます。公表された数字を企業自身がどう説明するのかは、姿勢を知る手がかりになります。
制度の使われ方を聞く質問
OB・OG訪問では、「育児休業を取得された方は、職場にどのくらいいますか」「残業が増える時期はありますか。そのとき、チームではどう対応していますか」といった質問が使えます。制度の有無ではなく、実際に使った人の具体的な状況を聞くのがコツです。
答えが曖昧なときの受け止め方
質問への答えが曖昧でも、すぐに「不誠実だ」と決めつける必要はありません。人事担当者や若手社員が、全社の数字をすべて把握しているとは限らないためです。複数の人に同じ質問をして、答えの一貫性を見るほうが、判断としては安定します。
今日から試せる1アクション
ここまでの内容を、今日できる行動に落とします。志望度の高い企業を1社選び、その企業の最新の有価証券報告書を、金融庁のEDINETで検索して開いてみてください。上場していない企業なら、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」で社名を検索します。
見る項目は3つに絞ります。女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金差異です。この3つをメモに書き出すだけで、採用サイトの言葉と実態が重なる部分と、確認が必要な部分が見えてきます。
数字が見つからなかった場合も、「開示していない」という事実が一つの情報になります。まず1社、3つの数字だけ確認してみてください。
まとめ
エシカル就活は、企業の姿勢を信じるか疑うかの二択ではありません。企業が掲げる言葉を、公表された数字と国の認定制度で裏づけ、足りない部分を人への質問で補う作業です。WWFジャパンの調査では、関心の高い学生ほど評価方法がわからないと感じていることが報告されています。物差しを持つだけで、迷いはかなり減らせます。
日本では、2023年3月期からの有価証券報告書の人的資本開示と、女性活躍推進法に基づく情報公表の拡大により、確認できる数字が増えました。上場企業は有価証券報告書を、101人以上の企業は賃金差異などの公表情報を、まず確認できます。数字がない企業は、面接やOB・OG訪問での質問で補います。
完璧な企業は存在しません。大切なのは、数字を出しているか、目標を持っているか、課題に向き合っているかを自分の目で見て、納得して選ぶことです。
- エシカル就活の確認先は、有価証券報告書、女性活躍推進法の公表情報、国の認定制度の3種類
- 企業の言葉は「言葉を書き出す」「数字で裏づける」「制度の運用を確かめる」の3段階で検証する
- 女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金差異の3つを、まず1社分確認する
- 公開情報で足りない部分は、数字を前置きした質問で、面接やOB・OG訪問で確かめる
参考文献
- WWFジャパン「就活のカギは「環境」? 学生は企業の取り組みをどう見ているか」(2024年調査)
- 厚生労働省「女性活躍推進法が改正されました! 男女間賃金差異と女性管理職比率の公表義務が拡大」(2025年)
- 厚生労働省「ユースエール認定制度」
- 金融庁「有価証券報告書のサステナビリティに関する考え方及び取組の開示例」(2023年)

