REDD+は、途上国の森林減少や劣化を防いで温室効果ガスの排出を減らす国際的な枠組みです。日本とのつながりは、ニュースでは「森林由来のカーボンクレジット」としてしか見えにくいかもしれません。実際には、日本の政府、林野庁、民間事業者が二国間クレジット制度(JCM)を通じて関わってきた経緯があります。
この記事では、林野庁・環境省の公開資料をもとに、日本がREDD+にどう関わっているかを時系列と数字で確認します。そのうえで、企業の担当者や個人がクレジットの情報を見るときの視点まで落とし込みます。
REDD+の基本|日本の話に入る前に押さえる3点
REDD+は、気候変動枠組条約(UNFCCC)の交渉の中で育ってきた考え方です。名称は「途上国における森林減少・劣化に由来する排出の削減」に、森林保全や炭素蓄積の増加といった「プラス」の活動を加えたものを指します。日本の制度を読むときも、この土台が前提になります。
REDD+が対象にする活動
REDD+の対象は、森林の減少を減らすことに限りません。UNFCCCの合意(2010年のカンクン合意)では、次のような活動が示されています。
- 森林減少に由来する排出の削減
- 森林劣化に由来する排出の削減
- 森林炭素蓄積の保全
- 持続可能な森林経営
- 森林炭素蓄積の強化
「伐採を止める」だけでなく、「守る」「増やす」「持続的に使う」までを含むのが特徴です。
公的資金だけでは足りないという課題
林野庁が公表している2021年度の調査報告書では、森林保全や植林の議論において、公的資金の不足がかねてから指摘されてきたと整理されています。そのため、民間資金を呼び込むことが目指されてきました。
民間資金を呼び込む手段のひとつが、排出削減の成果をクレジットとして扱う仕組みです。日本の場合は、後述するJCMがその受け皿になっています。
気候危機のなかでの位置づけ
森林は、吸収源であると同時に、失われれば大きな排出源にもなります。そのため、REDD+は排出削減の「入口」と「吸収の確保」の両方に関わる対策として扱われます。気候危機の全体像から整理したい方は、次の記事もあわせて確認してみてください。
日本の関わり方|JCM-REDD+を中心に
日本のREDD+への関与は、主に林野庁が進める「JCMの下でのREDD+(JCM-REDD+)」を軸にしています。以下は、林野庁の公開資料から確認できる範囲の流れです。
政策上の位置づけ
林野庁の発表によると、2016年5月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」は、国際協力を通じた海外での削減方策として、JCMの推進とあわせて途上国のREDD+の推進を明記しています。林野庁は、関係省庁や国立研究開発法人の森林研究・整備機構などと連携し、JCM-REDD+を支援してきたとしています。
林野庁の2021年度の報告書によると、同庁は2011年度から、民間の取組促進を目的に森林総合研究所を中心とした技術的検討を進めてきました。JCMの制度設計・運用が始まってからは、JCMの下でREDD+を行うための検討と、各国とのルール合意に向けた交渉を進めています。
二国間ルールの整備|カンボジアとラオス
JCMでは、実施ルールの策定、プロジェクトの登録、クレジットの発行などを、両国政府の代表者でつくる合同委員会が決めます。REDD+を実施するには、パートナー国ごとにその国向けのルールを採択する必要があります。
林野庁の発表では、日本が初めてJCM-REDD+の実施ルールを採択したのは、2018年5月30日にプノンペンで開かれた日・カンボジアJCM合同委員会でした。2例目は、2019年10月17日にラオスとの間で採択されたルールです。当時、JCMのパートナー国は17か国とされていました。
つまり、17か国の中でREDD+のルールまで整っていたのは、少なくとも2019年時点では2か国です。JCMに参加していることと、REDD+を実際に実施できることは別の話だと分かります。
民間事業者の位置づけ
林野庁の説明では、日本の民間セクターがJCM-REDD+に取り組めば、途上国の森林減少・劣化の抑制に貢献できるうえ、削減された温室効果ガスの量に基づいてクレジットの発行を受けられます。
環境省の2016年2月の資料には、REDD+関連の補助事業やFS(実現可能性調査)事業が6事業と記載されています。2015年度のREDD+プロジェクト補助事業では、2件(2か国)が採択されたとあります。
パリ協定第6条との整合
林野庁は、パリ協定第6条の実施ルールに沿って、JCM森林分野のガイドライン類を改訂する作業に取り組んでいると発信しています。林野庁のウェブサイトでは、PDD(事業設計書)ガイドライン、セーフガードガイドライン、妥当性確認・検証ガイドラインといった英語版の文書が公開されています。
国際的な森林資金の動き
林野庁の2022年10月の資料は、2021年のグラスゴー気候合意期に出された森林関連の動きをまとめています。
- グラスゴー・リーダーズ宣言には、日本を含む140か国以上が参加し、世界の森林の90%以上をカバーしている
- グローバル森林資金プレッジでは、日本を含む12の国・地域が2021〜2025年に合計120億ドルの公的資金拠出を約束した
- 日本は当時の首相が、約2.4億ドルの資金支援を表明した
- コンゴ盆地の森林保全に向けて、12の国・地域・団体が15億ドルの拠出を約束した
これらの数値は2022年時点の公表資料に基づきます。2025年以降の実績や新しい枠組みは、各機関の最新情報で確認してください。
当メディアの整理|REDD+を調べるときにつまずきやすい3つの問い
REDD+は、気候変動、森林、クレジット、途上国支援が重なる分野です。公開されている資料や解説を並べて読むと、疑問が生まれやすいポイントは次の3つに整理できます。
「日本の森林を守る話?」という問い
REDD+の対象は途上国の森林です。日本国内の森林整備や吸収量は、国内向けの別の枠組み(J-クレジット制度など)で扱われます。日本の森林の話と混同すると、制度の全体像が見えにくくなります。
「クレジットを買えば自社の排出は帳消し?」という問い
森林由来のクレジットを自社の排出削減にどう位置づけるかは、制度ごとに異なります。林野庁の2022年の資料でも、パリ協定のもとで認められる協力的アプローチ(JCMなど)では、二重計上の防止が重要な論点として挙げられています。民間の解説でも、クレジットの配分や相当調整の扱い、社内の削減目標やSBTiとの整合性を、早めに関係者間で決めておく必要が指摘されています。
「現地の人たちはどうなる?」という問い
JCMには、REDD+と植林向けのセーフガードガイドラインがあります。森林の保全は、現地の暮らしや権利と切り離せません。クレジットの数字だけでなく、住民との関係がどう扱われているかまで確認する必要があります。
クレジットを見るときの3つの視点
ここからは、企業の担当者や個人が実際に情報を見るときの視点です。森林由来のクレジットは、品質をめぐる議論が国際的に続いている分野でもあります。だからこそ、販売ページの印象だけで判断せず、次の3点を見ておくと整理しやすくなります。
視点1|どの制度のクレジットか
JCMのクレジットなのか、民間の認証制度のクレジットなのかで、ルールも発行の手順も異なります。JCMの場合は、両国政府の合同委員会が関わる点が特徴です。まず制度名を確認してください。
視点2|プロジェクトの国と活動内容
対象国と活動内容を確認します。たとえば「焼畑耕作の抑制」「泥炭地の開墾に代わる生計手段の提供」のように、何を変えて排出を減らすのかが書かれているかどうかが目安です。環境省の2016年の資料にも、こうした活動内容が具体的に並んでいます。
視点3|セーフガードと検証の情報
第三者による妥当性確認・検証や、住民への配慮の仕組みが説明されているかを見ます。JCMには妥当性確認・検証のガイドラインとセーフガードのガイドラインがあります。公開資料へのリンクが示されているサービスは、確認しやすいといえます。
今日から試せる1アクション
最初の一歩として、林野庁のウェブサイト「森林・林業分野の国際的取組」のページを開いてみてください。JCM森林分野のガイドライン類(PDD、セーフガード、妥当性確認・検証)の名称が並んでいます。中身を読み込む必要はありません。どんな項目が定められているかを眺めるだけで、REDD+のクレジットが何を前提にしているかが見えてきます。
次に、所属企業や普段使っているサービスがカーボン・オフセット商品を扱っているなら、そのページで「制度名」「プロジェクトの国」「検証の有無」の3項目を探します。見つからなければ、問い合わせフォームで質問するのも一つの方法です。
答えが分かりやすく示されていれば、情報公開の姿勢を判断する材料になります。示されていなければ、今は購入を保留して、確認できる情報が増えるのを待つという選択もあります。
まとめ
REDD+は、途上国の森林減少・劣化を防ぎ、気候変動の緩和につなげる国際的な枠組みです。日本は、林野庁を中心にJCMの下でREDD+を進めてきました。ルールの整備は、2018年のカンボジア、2019年のラオスの順で進んでいます。JCMのパートナー国のなかでも、REDD+の実施ルールまで整っている国は限られていました。
国際的には、グラスゴーでの森林宣言や公的資金の拠出表明など、森林分野への資金の流れをつくる動きも続いています。一方、クレジットを使う側には、制度の種類、プロジェクトの内容、セーフガードや検証の情報を見る力が求められます。
まずは公式の資料を眺め、手元で確認できる情報を1つ増やすところから始めてみてください。
- REDD+は、森林減少・劣化の抑制から炭素蓄積の強化までを含む枠組み
- 日本はJCM-REDD+として、2018年にカンボジア、2019年にラオスとルールを採択した
- グラスゴー以降、公的資金の拠出約束など国際的な森林資金の動きがある
- クレジットは、制度名・プロジェクトの国と活動・セーフガードと検証の3点で確認する
参考文献
- 林野庁「カンボジア政府との二国間クレジット制度(JCM)におけるREDD+実施ルールの合意について」(2018年)
- 林野庁「ラオス政府との二国間クレジット制度(JCM)におけるREDD+実施ルールの合意について」(2019年)
- 林野庁森林整備部計画課「二国間クレジット制度(JCM)でのREDD+と国際的動向」(2022年)
- 林野庁「森林・林業分野の国際的取組」


