コンビニの店員さん、工場の同僚、介護施設のスタッフ。日本では、外国にルーツを持つ人が働く姿はもう特別な光景ではありません。それでも「移民」という言葉を出すと、会話が急にぎこちなくなることがあります。
私はフェアトレードの商品を選ぶようになってから、値段の向こう側にいる働き手を意識するようになりました。その視点で日本国内を見ると、遠い国の話だと思っていた労働の問題が、実は自分の暮らしのすぐ隣にあると気づきました。以前の私は「移民」と「外国人労働者」をほぼ同じ意味で使っていて、制度の違いを知ったときに少し恥ずかしくなりました。この記事では、その違いと日本の現状、制度の転換点、私たちが今日からできることを順に整理します。
「移民」と「外国人労働者」は何が違うのか
国連の整理では、国際移民は生まれた国とは別の国に一定期間以上住む人を指します。目安として使われるのは、1年以上の居住です。この定義に当てはめると、日本で長く働き暮らしている外国人の多くは、国際的には移民に含まれる可能性があります。
一方、日本政府は「いわゆる移民政策はとらない」という立場を長く示してきました。入管制度の上では、「就労のための在留資格」「身分に基づく在留資格」などの枠組みで受け入れています。そのため、国内の議論で「移民」と言うか「外国人労働者」と言うかは、国際的な定義の違いというより、政策上の位置づけの違いが大きいと言えます。
言葉が違うと、見えにくくなることがあります。外国人労働者という言い方は、働く側面だけを切り取りがちです。ところが実際には、家族を持ち、地域で暮らし、子どもを学校に通わせる人もいます。この記事では、制度の話をするときは「外国人労働者」、暮らし全体を指すときは「移民」と、文脈で使い分けます。
日本で働く外国人の現在地
届出ベースで約230万人、過去最高を更新
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況(2024年10月末時点)では、日本で働く外国人労働者は約230万人でした。届出が義務化された2007年以降、過去最高を更新しています。国籍別ではベトナムが最も多く、中国、フィリピンが続きます。最新の集計値は厚生労働省の公表資料で確認してください。
この数字は、事業主が届け出た雇用者の集計です。個人事業の手伝いや、届出から漏れている就労は含まれない可能性があります。「230万人」は実態の目安として読むのが適切だと考えています。
在留資格で働き方はまったく違う
外国人労働者は、大きく5つの区分(専門的・技術的分野、特定活動、技能実習、資格外活動、身分に基づく在留資格)に分けて統計が取られています。このうち主な4区分は次のとおりです。
- 専門的・技術的分野(エンジニア、通訳、特定技能など)
- 技能実習
- 資格外活動(留学生のアルバイトなど)
- 身分に基づく在留資格(永住者、日本人の配偶者など)
ひとくくりに「外国人労働者」と呼んでも、転職の自由度や滞在期間、家族の帯同の可否は在留資格ごとに大きく異なります。日本人と同じように職場を選べる人もいれば、原則として受け入れ先を変えにくい人もいます。この差が、後述する制度見直しの背景にあります。
人手不足と受け入れの拡大
特定技能は、人手不足が深刻な分野で一定の技能を持つ外国人を受け入れる制度として、2019年4月に始まりました。2024年3月の閣議決定で対象は16分野に広がり、2024年度からの5年間の受け入れ見込み数は約82万人とされています。
ここで押さえたいのは、外国人労働者の受け入れが「善意の国際貢献」だけでなく、国内の労働力不足への対応として進んでいる点です。そうである以上、私たちは「来てもらっている」という上から目線ではなく、「一緒に社会を支えている人たち」として見る必要があると思います。
制度の転換点|技能実習から育成就労へ
技能実習が抱えてきた課題
技能実習制度は1993年に始まりました。目的は、開発途上国への技能移転による国際貢献とされています。しかし2023年の政府の有識者会議の議論では、実態が国内の人手不足を補う労働力の確保になっているという指摘が整理されました。
課題として繰り返し挙げられてきたのは、原則として実習先を変えられない転籍制限です。職場でトラブルがあっても、辞めれば在留資格を失う不安から声を上げにくくなります。技能実習生の失踪が年間で1万人に迫る規模で報告されてきたことも、背景のひとつと見られています。
育成就労と特定技能のつながり
2024年6月に入管法などの改正法が成立し、技能実習は「育成就労」へ発展的に改められることになりました。施行は公布から3年以内で、2027年ごろの開始が見込まれています。育成就労では、人材の確保と育成の両方を目的に掲げています。3年程度で特定技能1号の水準の人材を育てる道筋が示され、一定の要件のもとで本人の意向による転籍も認められる方向です。
ただ、制度を変えれば問題が解決するわけではありません。転籍の要件がどう運用されるか、仲介する機関が適正に機能するか、来日前に高額な手数料を負担する構造がなくなるか。こうした点は、施行後の運用を見ながら確かめる必要があります。私は、条文より運用を見るつもりでいます。
公開情報から見える、よくある3つの疑問
ここでは、外国人労働者をめぐって公開されている相談や議論の傾向として、よく出てくる疑問を3つに整理します。個別の投稿や特定の相談を取り上げたものではありません。
「外国人が増えると日本人の賃金が下がるのでは」
これはよく聞かれる不安です。研究者の間でも見方は分かれており、単純に断定できるテーマではありません。ただ、最低賃金を下回る待遇や長時間労働が許される環境があるとすれば、それは外国人だけでなく、同じ職場で働く全員の労働条件を押し下げます。誰かの権利が守られない職場は、全員にとって弱い職場です。
「結局、日本語ができれば解決するのでは」
日本語学習の支援は大切です。それでも、言葉の壁だけに問題を寄せると、契約内容の不透明さや仲介の構造といった制度側の課題が見えにくくなります。外国人技能実習機構などは母国語での相談に対応する窓口を設けています。問題の入口を広く用意することと、制度そのものを見直すことは、両方が必要だと考えます。
「自分にできることなんてあるのか」
この疑問がいちばん多く、いちばん大事だと思います。法律を変えることはできなくても、買い物や職場での振る舞いは、今日から選べます。次の章で具体的に見ていきます。
買い物と職場で、私たちにできること
買い物で、作った人の労働環境を気にする
フェアトレードで学んだ最大のことは、価格の向こうに働き手がいるという視点です。これは海外の農園だけの話ではありません。国内の食品工場、農業、縫製、物流も、外国人労働者が支えている分野です。
企業が人権方針を公開しているか、サプライチェーンの労働環境に触れているか。こうした記載は、公式サイトのサステナビリティ欄で確認できます。もちろん、方針があるだけで安心はできません。「取り組んでいる」という記載がグリーンウォッシングならぬ「ヒューマンライツウォッシング」にならないよう、具体的な内容があるかを見る癖をつけたいところです。
職場や地域で、同じ生活者として接する
職場に外国人の同僚がいるなら、まず安全や給与の説明が理解できているかを気にかけることができます。やさしい日本語で、短く、具体的に伝えるだけでも違いが出ます。「簡単にできる」とは言いません。私も言葉選びで失敗したことが何度もあります。それでも、伝わったかを確かめる姿勢は、お互いの信頼につながると感じています。
今日から試せる1アクション
最初の一歩として、普段よく利用する企業を1社選び、公式サイトで「人権方針」や「外国人労働者・技能実習生への対応」の記載を探してみてください。見つからなければ、それ自体がひとつの情報です。見つかった場合は、苦情や相談を受け付ける窓口の記載があるかも見てみましょう。
所要時間は10分ほどです。企業を批判するためではなく、「作る人の働き方を見る」という買い物の視点を持つための練習として取り入れてほしいと思っています。慣れてきたら、2社目、3社目と比べてみると、取り組みの違いが見えてきます。
まとめ
日本の外国人労働者は届出ベースで約230万人にのぼり、人手不足の分野を中心に社会を支えています。「移民」という言葉を避けても、実際に長く働き暮らす人は増えています。大切なのは言葉の線引きより、働く人が適正な条件で働け、声を上げられる環境があるかどうかです。
技能実習から育成就労への移行は、転籍の制限など長年の課題に向き合う転換点になります。ただ、制度が整っても、運用や職場の実態が変わらなければ意味がありません。消費者としては企業の人権への姿勢を見ること、同僚や隣人としては伝わる言葉で接することが、今日からできる行動です。
まず1社だけ、公式サイトで人権方針を探してみてください。
- 日本の外国人労働者は約230万人(2024年10月末時点の届出ベース)で、過去最高を更新した
- 在留資格によって転職のしやすさや滞在条件が大きく異なる
- 技能実習は育成就労へ移行する予定で、転籍や運用の実態が今後の焦点になる
- 企業の人権方針を確認することが、消費者としての最初の一歩になる
参考文献
- 厚生労働省「外国人雇用対策(外国人雇用状況の届出状況)」(2024年)
- 出入国在留管理庁「育成就労制度・特定技能制度の案内」(2024年)
- 国際連合「Migration(移民・移住に関する概説)」(2024年)

