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ネットゼロを掲げる企業の見極め方|SBTi新基準V2.0と日本企業の事例

Photo by Alexandra Smielova on Unsplash

「2050年までにネットゼロ」と書いてある企業サイトを見て、「それは本当に実現するのだろうか」と立ち止まった経験はないでしょうか。フェアトレード商品を選ぶときに、認証ラベルの有無だけでなく「何を基準に認証されているのか」を確かめたくなるのと同じ感覚です。企業の気候目標も、宣言の言葉より中身を見たほうが判断しやすくなります。

2026年6月11日には、企業のネットゼロ目標の国際的な物差しであるSBTi(Science Based Targets initiative)が「企業ネットゼロ基準 V2.0」を公表しました。「基準が変わったなら、これまでのネットゼロ宣言は意味がなくなるのか」と不安に思う方もいるはずです。この記事では、新基準の要点、日本企業の現在地、宣言を読むときの見方を、疑問に答える形で順に見ていきます。

この記事で学べること

  • ネットゼロとカーボンニュートラルの違いと、企業が言う「実質ゼロ」の中身
  • SBTi企業ネットゼロ基準V2.0で変わった点と、変わらない点
  • 日本企業のSBTi取得状況と、三菱地所・パナソニックの目標の違い
  • 企業のネットゼロ宣言を読むときの4つの見方

ネットゼロ企業はカーボンニュートラルを掲げる企業と何が違うのか

まず、よくある疑問から確認します。「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」は同じ意味で使われることが多く、新聞やニュースでも区別されない場面があります。ただ、企業の目標を評価する場面では、この2つの言葉の使い分けが重要になります。

ネットゼロとカーボンニュートラルは同じ意味なのか

日常的な会話では、ほぼ同じ意味として通じます。違いが出るのは「どこまでの排出を数えるか」と「どうやってゼロにするか」です。

SBTiが2021年に公表した初版の企業ネットゼロ基準は、自社の事業所だけでなく、原材料の調達から製品の使用・廃棄までを含むバリューチェーン全体の排出を対象にしていました。さらに、削減しきれない残りの排出を除去で打ち消す前提で、先に大幅な削減を求める構造でした。パナソニックが2024年10月に公表したSBTiのネットゼロ認定の内容を見ると、この構造が分かります。同社は2019年度を基準に、2050年度までに温室効果ガス排出量を90%以上削減し、残りを自社で開発する炭素除去技術で中和するとしています。

「2050年にゼロ」と書くだけでは足りない理由

「2050年のゴールが書いてあれば十分では」と思うかもしれません。しかし、2050年まで24年ある時点で、約束だけが先に立ち、削減が先送りされるリスクは残ります。今回のV2.0が、長期目標だけでなく5〜10年先の短期目標の設定も求めるようになったのは、この先送りを防ぐためだと読めます。

SBTi企業ネットゼロ基準V2.0では何が変わったのか

次の疑問は、「新基準で何が変わったのか」でしょう。SBTiの公表によれば、V2.0は2回の公開コンサルテーションとパイロット試験、専門家グループによる検討を経て、独立した技術評議会の承認とボードの採択を受けて公表されています。

長期目標に加えて短期目標が求められる

報道によると、新基準では2050年のネットゼロという長期目標に加えて、5〜10年先の短期目標の両方を設定するよう求められます。「長期だけ立派でも、足元が動かないのでは意味がない」という指摘に応える変更といえます。

クレジットに頼らず、事業での削減を重視する

もうひとつの変更点は、排出クレジットなどによるオフセットの扱いです。報道では、実際の本業での排出削減の最大化を重視し、除去クレジットの使用は厳格な条件のもとで限定的にとどめ、短期目標には原則としてオフセットを認めないとされています。クレジットを買えばゼロにできるという誤解は、新基準では通りにくくなります。

目標設定は「開始」であり、実行と報告が問われる

SBTiは、目標を決めることは始まりにすぎないと位置づけ、進捗報告の透明性と継続的な改善を強めたと説明しています。企業が管理できない外部要因で進まない場合も、障壁と対応策を透明に報告すれば、枠組みにとどまれる仕組みです。「ベストエフォート」の考え方を取り入れたものですが、裏を返せば、説明責任はより重くなります。

共同通信PRワイヤーで公開された日本語版の紹介では、スコープ1(自社の直接排出)は100%の対象化が必須で、スコープ2(購入した電気などによる排出)には実務的な手法が、スコープ3(取引先を含む排出)には絞り込んだ実行策が示されたと整理されています。新基準への移行時期は、解説記事によって記述に幅があります。目標を申請する企業は、SBTi公式の最新の案内を確認する必要があります。

日本企業のネットゼロ宣言はどこまで進んでいるのか

「海外の基準の話で、日本企業には関係が薄いのでは」と感じるかもしれません。実際は逆で、日本はこの分野の主要プレイヤーです。

日本はSBTi承認企業の約4分の1を占める

共同通信PRワイヤーが2026年に配信したSBTiの発表によると、SBTiの承認済み目標を持つ企業は世界で約11,000社あり、そのうち2,500社以上が日本に本社を置いています。割合にして約4分の1です。

国の目標も背景にあります。日本政府は2025年2月に新しい削減目標(NDC)を決め、温室効果ガスを2013年度比で2035年度に60%、2040年度に73%減らすとしています。2050年のネットゼロへの道筋の途中にある目標で、企業の中間目標とも無関係ではありません。

三菱地所とパナソニックで目標の書き方はどう違うか

具体例として、公表内容を確認できた2社を並べます。三菱地所は2022年に、日本企業として初めて「SBTネットゼロ認定」を取得したと報じられました。2050年までに、グループのバリューチェーン全体(スコープ1・2・3)の排出をネットゼロにする目標です。

パナソニックは2024年10月17日に認定の取得を発表しました。2050年度までに2019年度比で90%以上の削減を行い、残りを炭素除去で中和するという書き方です。

2社とも「2050年」「バリューチェーン全体」という骨格は共通しています。違いは、削減と除去の内訳をどこまで数字で示しているかにあります。どちらが優れているという話ではなく、公表資料のどこを見れば違いが読み取れるかを示す例として参考になります。

ネットゼロ宣言を読むときの4つの見方

ここからは、企業の宣言を生活者の立場で読むときの見方です。公開されている基準や企業発表を踏まえて、確認する点を4つに分けられます。専門知識がなくても、企業の公式サイトを開けば確かめられる項目です。

対象範囲に取引先の排出が含まれているか

自社の工場やオフィスだけを対象にした「ネットゼロ」と、取引先や製品の使用段階まで含めたものとでは、意味が大きく違います。「バリューチェーン全体」「スコープ3を含む」と明記されているかを見てください。

5〜10年先の中間目標があるか

2050年だけが書かれていて、2030年前後の数字がない場合は、まだ具体的な計画が固まっていない可能性があります。V2.0が短期目標を求めるようになったことで、この確認項目の重みは増しました。

第三者の検証や承認を受けているか

SBTiの承認など、外部機関が目標を確認しているかどうかも手がかりです。自社で決めた目標と、基準に照らして確認された目標とでは、検証の度合いが違います。ただし、承認があれば実行まで保証されるわけではありません。承認はあくまで目標設定の水準を示すものです。

削減とクレジットのどちらに重心があるか

「実質ゼロ」の中身が、実際の排出削減なのか、クレジット購入による相殺なのかも確認したい点です。新基準が事業での削減を重視する方向に動いたことを踏まえると、削減の見込みを具体的に説明している企業のほうが、説得力を持ちやすいといえます。

今日から試せる1アクション

「見方は分かったが、何から始めればいいのか」という声に応えて、最小の行動を1つ提案します。普段使っている商品やサービスの企業を1社選び、サステナビリティのページで「ネットゼロ」または「カーボンニュートラル」と書かれた箇所を探してみてください。

見つかったら、先ほどの4つのうち、まず「対象範囲」と「中間目標の有無」だけを確認します。所要時間は5〜10分です。分からない用語があっても、数字と目標年が書かれているかどうかを見るだけで十分です。

もし書かれていなければ、問い合わせフォームや株主・消費者向けの窓口から質問するのも、ひとつの方法です。生活者から確認される機会が増えること自体が、企業の情報開示を後押しします。完璧に評価しようとせず、まず1社だけ試してみてください。

まとめ

ネットゼロ企業とは、2050年ごろまでに、バリューチェーン全体の排出を大幅に減らし、残りを除去で打ち消すと宣言した企業のことです。2026年6月に公表されたSBTi企業ネットゼロ基準V2.0は、長期目標に加えて短期目標を求め、オフセットへの依存を抑え、目標設定後の実行と報告を重視する方向に基準を見直しました。

日本は承認企業数で世界の約4分の1を占めます。三菱地所やパナソニックのように、2050年とバリューチェーン全体という骨格は共通でも、削減と除去の書き方に違いがあります。宣言の言葉に頼らず、公表資料のどこを見ればよいかを知っておくと、企業の気候目標を落ち着いて読めるようになります。

  • ネットゼロはバリューチェーン全体の排出を対象にし、削減を先に行ったうえで残りを除去で打ち消す考え方
  • V2.0は短期目標の設定を求め、オフセットは限定的な使用にとどめる方向
  • 日本はSBTi承認企業の約4分の1を占め、事例ごとに削減と除去の書き方が異なる
  • 対象範囲、中間目標、第三者の確認、クレジット依存度の4点で宣言を読める

参考文献

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