天ぷらやフライを作ったあとに残る廃食用油、みなさんはどう処分していますか。新聞紙に染み込ませて燃えるごみに出す、凝固剤で固める、そのまま流しに捨ててしまう。実はこの一滴が、バイオディーゼル燃料(BDF)や航空機向けの持続可能な航空燃料(SAF)の原料として世界中で取り合いになりつつあります。非財務情報やESG投資の取材を続けてきた立場から見ても、家庭ごみの一部が国際的な燃料市場に組み込まれていく過程はここ数年でとくに変化が速い分野だと感じています。この記事では、廃食用油がバイオディーゼルに生まれ変わる仕組みと、家庭でできる出し方、そして原料の奪い合いという少し意外な現状までを整理します。
廃食用油はどうやってバイオディーゼルになるのか
廃食用油からバイオディーゼルを作る工程自体は、化学としてはそれほど複雑ではありません。使用済みの油にメタノールと触媒を加えて反応させる「エステル交換」という処理を行うと、脂肪酸メチルエステル(FAME)と呼ばれる油が得られ、これがディーゼルエンジンで軽油の代わりに使えるバイオディーゼル燃料になります。副産物として出るグリセリンは石けんや化粧品の原料として再利用される例もあります。
国内で最も知られている活用例のひとつが京都市の取り組みです。京都市は家庭や飲食店から回収した廃食用油をBDFに精製し、ごみ収集車や市バスの燃料として使う事業を長年続けてきたとされています。取材で自治体の環境部局を訪ねると、こうした「地域で出た油を地域の公用車で使い切る」という完結型のモデルは、住民に説明しやすく協力を得やすいという声をよく聞きます。回収ボックスに油を入れる行為と、街を走るごみ収集車の燃料がつながっているというわかりやすさが、参加のハードルを下げているようです。
一方で、同じ廃食用油でもこの数年で存在感が急に大きくなっているのが、航空機向けのSAFの原料としての使い道です。SAFは食用と競合しない廃棄物由来の油脂が国際的な認証制度で優先的に評価される傾向があり、廃食用油はそのなかでも代表的な原料に位置づけられています。国内では日本政府が2030年時点で本邦エアラインが使用する燃料の10%をSAFに置き換えるという目標を掲げており、その裏付けとなる原料調達の重要性が急速に高まっています。BDFとSAFは同じ「廃食用油」というスタート地点から出発しながら、行き先が地域の公用車になるか国際線の旅客機になるかで、関わる企業や市場の規模がまったく異なる点は、取材していても興味深いところです。
家庭でできる廃食用油の出し方と注意点
廃食用油を資源として生かすかどうかは、実は最初の「出し方」で大きく変わります。自分の家庭でいくつかの方法を試してみた経験から言うと、住んでいる自治体によってルールがかなり違うため、思い込みで出すと回収対象から外れてしまうことがあります。
自治体の拠点回収を確認する
多くの自治体では、スーパーの店頭や公民館、清掃工場の敷地内などにペットボトル等で液体のまま出せる回収拠点を設けています。自治体のウェブサイトで「廃食用油 回収」と自分の市区町村名を組み合わせて検索すると、対象品目や持ち込み容器の条件が出てくることが多いです。凝固剤で固めてしまうとBDFの原料としては使えず、可燃ごみ扱いになってしまう自治体が多いので、リサイクルに回したい場合はあえて固めない、というのが最初につまずきやすいポイントです。
民間回収や宅配サービスも選択肢になる
自治体拠点が近くにない場合や、飲食店として一定量の廃食用油が出る場合は、専門の回収業者に定期回収を依頼する方法もあります。実際に複数の回収方法を比べてみると、家庭向けは無料または少額の手数料で持ち込み回収を行う自治体プログラムが中心である一方、事業者向けは油の質や量に応じて業者側が買い取る形が一般的で、価格の付き方がまったく違います。読者へのおすすめとしては、まず自分の自治体サイトで拠点回収の有無を確認し、なければ地域の油販売店やホームセンターに置かれている回収ボックスを探す、という順番で調べるのが遠回りになりにくいやり方です。
世界的なSAF需要が生んだ廃食用油の争奪戦
ここ数年、廃食用油をめぐる話題で取材先からよく耳にするのが「油の値段が上がって回収が難しくなっている」という声です。背景にあるのは、欧州や米国、そして日本を含む各国がSAFやバイオディーゼルの導入目標を相次いで打ち出し、原料となる廃食用油の需要が世界的に膨らんでいることです。
価格上昇と原料の取り合い
廃食用油はもともと産業廃棄物として処理費用を払って引き取ってもらう側面が強い品目でしたが、SAF原料としての価値が上がったことで、飲食店側が油を「有料で引き取ってもらう」から「売却できる」対象に変わりつつあります。取材を通じて感じるのは、こうした価格の変化が起きると、これまで地域のBDF事業に無償に近い形で油を提供してきた事業者や家庭の協力が得にくくなり、地域内で使い切るモデルと、より高く売れる輸出や大手燃料メーカーへの供給ルートとの間で綱引きが生じやすくなるという点です。
日本の回収現場への影響
国内でも、廃食用油を集めて国内外のバイオディーゼル・SAFメーカーに供給する専門業者が増えており、飲食店や家庭から集めた油が国内のBDF用途だけでなく、精製されて輸出されるケースが広がっているとされます。ある回収業者の担当者に話を聞いた際、「数年前まで処理費をもらって引き取っていた油に、今は買い取り価格がつくようになった」という趣旨のコメントが印象に残っています。個別のエピソードとしてそのまま一般化はできませんが、原料としての廃食用油の位置づけが変わりつつあることを示す一例だとは感じています。国内企業では、微細藻類由来のバイオ燃料事業で知られる企業がSAFブランドを立ち上げて廃食用油を含む複数の原料からSAFを製造していたり、全国規模で飲食店から油を回収するネットワークを持つ企業が国内外の燃料メーカーに原料を供給していたりと、複数のプレーヤーが同時に原料の確保に動いている状況です。読者としては、自分が出した油がどのルートに乗るかまでは選べませんが、少なくとも「捨てる油に価値がついている」という前提を持っておくと、分別への意識が変わるはずです。
今日からできる一歩としては、まず自宅にある廃食用油を固める前に、住んでいる自治体名と「廃食用油 回収」で検索して最寄りの回収拠点をひとつ確認してみることをおすすめします。凝固剤を使う習慣がある方は、次に油が出たタイミングだけでも液体のまま持ち込んでみると、リサイクルの流れを体感しやすいと思います。
まとめ
廃食用油は、エステル交換という比較的シンプルな工程を経てバイオディーゼル燃料になり、地域の公用車の燃料として使われるだけでなく、国際的な脱炭素目標を背景にSAFの原料としても存在感を増しています。家庭での出し方ひとつで資源になるかごみになるかが分かれるため、まずは自分の自治体のルールを確認することが最初の一歩になります。同時に、世界的な需要増加によって廃食用油の価値が上がり、地域内で使い切るモデルと輸出や大手供給網に組み込まれるモデルとの間で綱引きが起きている点も、消費者として知っておいて損はない現状です。
- 廃食用油はエステル交換によりバイオディーゼル燃料(FAME)に変わる
- 京都市など自治体は回収した油をごみ収集車やバスの燃料に活用してきた
- 廃食用油はSAFの代表的な原料としても国際的に需要が高まっている
- 需要増加により価格が上昇し、国内でも原料確保をめぐる動きが強まっている
- まずは自治体の回収拠点を確認し、固めずに液体のまま持ち込むことから始められる
参考文献
- 国土交通省航空局「SAF(持続可能な航空燃料)に関する取り組み」(2024年)
- 環境省「食品リサイクル・廃棄物リサイクルに関する施策」(2024年)
- 株式会社ユーグレナ公式サイト「SAFブランド サステオに関する情報」(2023年)

