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ENVIRONMENT

化学物質規制は企業に何を求めるか|化審法・化管法・安衛法の見分け方

Photo by Ursula Krapf on Unsplash

「化学物質の規制は、薬品や素材を扱うメーカーの話では」と考えている方は多いはずです。ところが、日本の化学物質規制は、製造だけでなく輸入・使用・譲渡・廃棄まで幅広く網をかけています。2026年6月には化審法で新たな物質群の輸入禁止が始まり、オフィス用品や繊維製品を扱う企業にも無関係とは言えなくなりました。

とはいえ、法律の名前が似ていて、どれが自社に関係するのか分からないという声もよく聞きます。この記事では、環境政策の公開資料を読み込んできた立場から、企業が押さえるべき主な法律の違いと、2026年の動き、最初の一歩までを順に整理します。

この記事で学べること

  • 化審法・化管法・労働安全衛生法が、それぞれ何を守る法律なのか
  • 2026年6月に始まったPFHxS関連物質の輸入禁止の対象と、見落としやすい点
  • 海外規制とサプライチェーンの情報伝達(chemSHERPA)が自社に及ぶ仕組み
  • 今日から1枚のSDSで始められる、規制対象かどうかの確認手順

企業に関わる化学物質規制は何種類あるのか

まず「結局、どの法律を見ればいいのか」という疑問に答えます。環境省の化学物質情報サイト「ケミココ」は、化審法、化管法、労働安全衛生法、毒劇法を主な法律として並べています。守る対象が違うため、同じ物質でも法律ごとに別の義務が生じる点が最初のつまずきどころです。

化審法|環境を経由した人と生き物への影響を防ぐ

化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)は、環境を経由したばく露に対応する法律です。新しい化学物質を作る前の審査に加え、すでに流通している物質のリスクに応じて、製造・輸入の禁止や届出を定めています。分解されにくく、体内や環境に蓄積しやすい物質は、最も厳しい区分である第一種特定化学物質に指定され、原則として製造・輸入ができなくなります。

「製造していないから関係ない」と思われがちですが、製品を輸入する企業も対象です。第一種特定化学物質が使われた特定の製品は、輸入そのものが禁じられるためです。

化管法|排出量と情報の把握を求める

化学物質排出把握管理促進法(化管法)は、PRTR制度(排出量・移動量の届出)と、SDS(安全データシート)による情報提供の二本柱です。対象物質は2023年4月1日の政令改正で見直され、経済産業省の資料によると、第一種指定化学物質は462物質から515物質に、第二種指定化学物質は100物質から134物質に増えました。

化管法は禁止ではなく、「どれだけ使い、どれだけ出したか」を把握して自主的に減らす仕組みです。取引先にSDSを渡す義務があるため、サプライチェーンの情報伝達にも直結します。

労働安全衛生法|働く人のばく露を減らす

労働安全衛生法は、職場での健康被害を防ぐ法律です。厚生労働省は、国が個別に物質を縛る方式から、事業者がリスクを評価して自ら管理する「自律的な管理」を規制の基軸にする方針を示しています。ラベル表示とSDS交付が義務となる物質は、約700物質から、国がGHS分類した約2,900物質規模へ順次拡大する見通しです。

2024年4月1日からは、リスクアセスメント対象物を扱う事業場で化学物質管理者の選任が必要になり、保護具着用管理責任者の選任も義務化されています。オフィスの洗剤から工場の溶剤まで、化学物質を使う職場なら業種や規模を問わず関わる点が、他の2法との大きな違いです。

2026年6月に何が変わったのか|PFHxS関連物質の輸入禁止

次の疑問は「最近の動きで、今すぐ確認すべきことはあるのか」だと思います。答えは、PFHxS関連物質の化審法第一種特定化学物質への追加です。

環境省の発表によると、改正政令は2025年12月17日に公布され、第一種特定化学物質の指定、輸入禁止製品の指定、消火器等の技術基準は、公布から6か月後の2026年6月17日に施行されました。すでに施行済みの規制ですので、「準備しておく」段階ではありません。

輸入禁止となった10種類の製品

輸入禁止の製品として指定されたのは、はっ水・はつ油の処理をした生地、金属加工用やメッキ表面処理用の薬剤、半導体製造用のエッチング剤・反射防止剤・レジスト、はっ水撥油剤・繊維保護剤、消火器および消火薬剤、処理をした衣服、処理をした床敷物など10種類です。

ユニフォームや作業服、カーペットなどの繊維製品、半導体関連の部材、防災用品の消火器と、業種は多岐にわたります。「化学メーカーではないから」という理由で安心できる範囲ではありません。

輸入していなくても確認したい理由

この規制が直接かかるのは製造・輸入です。国内の商社や卸から購入しているだけの企業は、法律上の直接の対象ではない場合が多いと考えられます。ただし、取引先が対応できているかは別の話です。これは公開資料から私が考える実務上の見方ですが、調達先に「PFHxS関連物質を含む製品を扱っていないか」と文書で確認しておくと、後から納品停止や回収に追われるリスクを減らせます。

また、同じ改正では、PFHxS関連物質を使う消火器等について、国が定める技術基準に従うことが当分の間義務づけられました。消火設備を管理する施設側も、メーカーに適合状況を尋ねる価値があります。

国内法の外側にある要請|海外規制とサプライチェーン

「日本の法律さえ守れば十分なのでは」という疑問にも触れておきます。

輸出先の規制は自社の義務になる

EUのREACH規則は、EU域内で製品を売る事業者に、含有する化学物質の管理を求めます。EUに拠点がない日本企業でも、直接・間接に製品を輸出していれば、販売先の法律に従う必要があります。成形品に高懸念物質(SVHC)が重量比0.1%を超えて含まれる場合には、情報提供やデータベースへの届出が求められるケースがあります。

情報伝達の共通ルールとしてのchemSHERPA

製品に含まれる化学物質の情報は、川上から川下へ正確に渡らなければ意味がありません。経済産業省は2015年10月に、サプライチェーンでの製品含有化学物質の情報伝達スキーム「chemSHERPA」を公開しました。電気電子分野の国際規格IEC62474と整合するように設計されており、2016年4月からはアーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)が運営しています。

取引先から「chemSHERPAでの提出をお願いします」と求められた経験のある企業も多いでしょう。法令遵守の確認というより、規制が変わったときに素早く対応できる土台作りの意味合いが強い仕組みです。

公開情報から見えるつまずきやすい3つのパターン

ここまで法律ごとに整理してきましたが、公開されている解説資料や相談窓口の案内に共通する傾向を踏まえると、企業側のつまずきは次の3パターンに分けられます。特定の調査に基づく統計ではなく、あくまで公開情報の傾向からの整理です。

法律ごとに窓口も用語も違うパターン

化審法は経済産業省・環境省・厚生労働省の3省共管、化管法は経済産業省と環境省、安衛法は厚生労働省と、所管が分かれています。担当部署も、購買、環境、安全衛生と社内で分散しがちです。結果として、同じ物質について部署ごとに別々の台帳を持つ状態になりやすいと考えられます。

「自社は製造していない」で止まるパターン

先述のとおり、化審法は輸入にも、安衛法は使用にも義務が生じます。「作っていない」という事実は、対象外の根拠になりません。自社が製造・輸入・使用・譲渡のどこに当たるかを分けて確認することが、判断の分かれ道です。

対象物質の更新を追えないパターン

化管法の2023年改正も、安衛法の対象物質拡大も、数年かけて段階的に進んでいます。一度確認して終わりにすると、翌年には対象が変わっている可能性があります。年に1回、SDSの更新と対象物質リストの見直しを予定に組み込んでおくと、抜け漏れを減らせます。

今日からできる1アクション|SDSを1枚だけ選んで三つの法律に当てはめる

ここまで読んで「やることが多すぎる」と感じた方も、最初は小さく始めて大丈夫です。おすすめは、自社で使っている化学品のSDSを1枚だけ選ぶことです。

選んだSDSの成分欄から、CAS番号(物質ごとの国際的な登録番号)を控えます。そのうえで、環境省のケミココや製品評価技術基盤機構(NITE)の化学物質情報サイトに番号を入力し、化審法・化管法・安衛法のそれぞれで対象になっているかを確認します。

1枚で流れがつかめたら、次は使用量の多いものから順に広げてください。化学物質管理者や担当者が決まっていない場合は、この作業の結果を最初の共有資料にできます。

まとめ

化学物質規制は、化審法が環境経由のリスク、化管法が排出と情報の把握、安衛法が職場のばく露と、守る対象ごとに役割が分かれています。同じ物質でも法律ごとに義務が違うため、「どの立場(製造・輸入・使用・譲渡)で関わるか」を軸に確認すると整理しやすくなります。

2026年6月17日に施行されたPFHxS関連物質の規制は、繊維、半導体、防災用品など幅広い業種に関わります。直接の輸入者でなくても、調達先への確認を済ませておくことが、取引の継続性を守る現実的な備えになります。海外規制やchemSHERPAのような情報伝達の仕組みも含め、規制は「作る側」だけの問題ではなくなっています。

まずはSDSを1枚選び、三つの法律の対象かどうかを調べるところから試してみてください。

  • 化審法・化管法・安衛法は守る対象が違い、同じ物質でも別々の義務がかかる
  • PFHxS関連物質は2026年6月17日に施行済みで、10種類の製品が輸入禁止になった
  • 製造していなくても、輸入・使用・譲渡の立場で義務が生じることがある
  • 海外規制と情報伝達の仕組みは、輸出や取引を通じて自社に及ぶ
  • 最初の一歩は、SDS1枚のCAS番号から三つの法律を確認すること

参考文献

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