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SOCIETY

「放課後」が分ける子どもの未来|学校外教育格差の実態と、社会が埋めようとしている空白

学校の授業が終わったあと、子どもたちはどんな時間を過ごしているでしょうか。塾で受験対策をする子、スポーツクラブで仲間と汗を流す子、音楽や絵画を習う子。放課後のその時間が、実は子どもの将来を大きく左右しているとしたら——。日本では今、「学校の中」ではなく「学校の外」で生まれる教育格差が、深刻な社会課題として注目されています。

9人に1人が貧困状態|見えにくい「格差の本丸」

厚生労働省が2023年に公表した「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によると、日本の子どもの相対的貧困率は11.5%(2021年時点)でした。これは、日本の子どもの約9人に1人が相対的貧困状態にあることを示しています。

しかし問題の本質は、「貧困かどうか」という線引きよりも、経済的格差がどこで・どのように教育機会の差となって現れるかにあります。

日本では、家庭の経済格差などの家庭環境によって子どもの教育格差が生まれています。四年制大学進学率を世帯収入別に見ると、世帯収入の多寡で34.6ポイントもの差が生じていました。こうした教育格差の背景には、放課後(学校外)の教育機会の格差があります。文部科学省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、家庭が自己負担する教育支出のうち約6〜7割が学校外活動費(学習塾や習い事等の費用)となっており(公立小・中学校の場合)、日本では経済格差による教育格差は放課後に生まれやすくなっています。

つまり、義務教育の枠の中では一定の平等が保たれていても、放課後になった途端に「お金のある家庭」と「そうでない家庭」の間に大きな差が開くという構造があるのです。

10歳が分岐点になる|学力格差が生まれるメカニズム

日本財団が2018年に発表した報告書などによると、経済的に困窮している世帯の子どもと、困窮していない世帯の子どもの間の教育格差は、10歳ごろから現れはじめるという見方があります。そしてその差はそれ以降も埋まることはないとされています。
小学校3年生(9歳)までは、読み書き計算の基本的な学習だけなので学力に差が出ることは少ないとされていますが、小学校4年生(10歳)になると基礎知識を活かした応用問題が増えてきます。貧困家庭の子どもは不規則な生活をしていることが多く、一般家庭の子どもに比べると基礎学力が身に付きにくい傾向があるとされているため、基礎知識の応用になると対応できず学力の差が顕著になってしまうという指摘があります。

さらに、格差は学力だけに留まりません。
チャンス・フォー・チルドレンが2022年に行った調査でも、子どもの学習活動だけでなく、体験活動(スポーツ、文化芸術活動、自然体験や社会体験など)についても、家庭の経済状況等による格差が生じていることが分かっています。親の経済的貧困は、子どもから学習や体験の機会を奪うことにつながり、これらの教育機会の格差は子どもの学力格差や進学格差を生み、将来的には職業選択にも影響を及ぼし、貧困の世代間連鎖を生みます。

「塾を諦める」が68.8%|学校外教育の深刻な現実

実際に子どもの貧困対策に取り組む団体が行ったアンケートによると、経済的な理由で塾や習い事を諦めた家庭は68.8%にものぼります。
(2017年11月、日本財団発表データより)

塾に通えないことが学力差に直結し、それが進路の選択肢を狭め、やがて収入格差へとつながっていきます。
学歴による生涯賃金の格差は大きく、高卒者と大学・大学院卒者の間には生涯年収において大きな差が生じるという見方があります。

こうした数字が示すのは、「放課後の教育機会の格差」が、単なる習い事の有無では収まらない、社会全体の損失でもあるということです。
日本財団の調査では、貧困家庭の子どもを支援せず放置した場合、15歳の子どもの1学年だけで社会に及ぶ経済的損失が約2兆9千億円に達するとされています。また、政府には約1兆1千億円の財政負担が生じるとしています。

法律・政策・現場|三層で動く支援の今

こうした状況を受け、政府・自治体・民間がそれぞれの立場から動き始めています。

こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省などの関係省庁が連携し、幼児期から高等教育段階までの切れ目のない教育費の負担軽減を行っているほか、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置等による教育相談体制の整備等に取り組んでいます。
こども家庭庁では、令和5年12月に策定されたこども大綱も踏まえながら、教育の支援、生活の安定に資するための支援、職業生活の安定と向上に資するための就労の支援、経済的支援をはじめとしたさまざまな観点から、関係省庁と連携しこどもの貧困対策に取り組んでいます。

民間では、NPO法人キッズドアやチャンス・フォー・チルドレンなど、無償または低コストで学習支援・体験機会を提供する団体が全国に広がっています。
NPO法人キッズドアは関東・東北エリアで無料の教育支援を行っており、大学生や社会人がボランティアとして子どもたち一人ひとりの苦手や得意に合わせた学習指導を行っています。親が遅くまで家にいない子どもの居場所をつくり、勉強だけでなく一緒にご飯を食べたり、子どもの相談に乗ったりするなど、子どもの心にも寄り添う支援を行っています。

一方、支援の届かない「空白」も残っています。
セーブ・ザ・チルドレンが2026年2月時点で報告したところによると、こども家庭庁の令和8年(2026年)度予算では食事の支援や学習支援、相談支援事業などが拡充された一方で、経済的支援は依然として限定的なままです。
セーブ・ザ・チルドレンを含む6団体は、2026年1月に選挙に向けた政党アンケートを共同で実施しました。多くの政党が子どもの貧困対策への重点的な施策の拡充に「賛成」と回答したものの、選挙後にどこまで実際の対策拡充につながるかは不透明です。

まとめ|「放課後の差」を縮めることが、未来への投資

子どもの教育格差は、学校内だけでは解決できません。放課後の体験・学習・居場所が子どもの人生を左右する現実において、「支援の空白をどう埋めるか」は社会全体の問いです。

こども家庭庁が示すように、こうした貧困の連鎖を断ち切るためには、子育てや貧困の問題を家庭のみの責任とするのではなく、社会全体で解決することが重要です。

私たちひとりひとりが今すぐできることも、実はあります。地域の子ども食堂や学習支援NPOへのボランティア・寄付参加、就学援助制度を周囲に伝えること、あるいは政策への関心を持ち声を上げることも、格差を縮める力になります。「放課後の5時間」が、すべての子どもにとって豊かな時間であるために——社会のあらゆる層からの取り組みが、今まさに問われています。

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