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ENVIRONMENT

条約交渉「再起動」へ|プラスチック汚染をめぐる国際交渉の今と、日本の役割

条約交渉「再起動」へ|プラスチック汚染をめぐる国際交渉の今と、日本の役割

2026年3月1日から3日にかけて、日本がプラスチック汚染条約をめぐる非公式協議の開催国となりました。韓国・釜山やスイス・ジュネーブでの交渉が相次いで決裂するなか、世界は今また「再起動」を模索しています。条約はどこまで進んでいるのか、何が壁になているのか、そして日本はどう動いているのかを整理します。

毎年1,100万トン|海を汚し続けるプラスチックの現実

毎年、約1,100万トンのプラスチックごみが海に流れ込んでいるとされています。このままでは2050年には海の魚の重量よりもプラスチックの重量が上回るという予測もあります。
さらに、何も対策を講じなければ世界のプラスチック廃棄物は2060年までに大幅に増加するとも推計されています。
マイクロプラスチックは大気や土壌、飲料水にまで広がり、人間の体内からも検出されています。長期的な健康リスクは完全には解明されていませんが、内分泌系への影響や慢性的な炎症を引き起こす可能性があると懸念されています。
こうした問題の深刻さを背景に、国際社会は「廃棄物処理」の改善だけでは間に合わないとの認識を共有し、法的拘束力を持つ国際条約の策定を目指すことで合意してきました。

INC-5.3|2026年2月、ジュネーブで新議長を選出

2022年3月に開催された第5回国連環境総会再開セッション(UNEA-5.2)で、「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」と題する決議が採択されました。
その後、第1回から第5回まで政府間交渉委員会(INC)が順次開催されてきました。

しかし交渉は難航を極めています。
2024年11月25日から12月1日にかけて韓国・釜山で開催されたINC-5(INC-5.1)では、条約内容をまとめる当初の目的は達成されませんでした。一部の石油・ガス生産国が生産規制への抵抗姿勢を見せ、その対立を解消できなかったのです。
さらに2025年8月にジュネーブで開かれたINC-5.2でも最終的な合意には至らず、交渉は継続されることになりましたが、次回会合の日程は未定のまま閉会しました。

こうした状況を受け、UNEPは手続き上の立て直しを図ります。
2026年2月7日、ジュネーブで開催された政府間交渉委員会(INC-5.3)において、チリ外務省環境・気候変動・海洋局長のフリオ・コルダノ氏が新たなINC議長に選出されました。

3月の東京会合|「建設的」な再スタート

新議長の選出から約1か月後、今度は日本が動きます。
日本は2026年3月1日から3日にかけて、東京において、関係国の実務者レベルによる3日間の非公式少数国会合を主催しました。環境省によれば、この会合は国際条約交渉の早期妥結に向けて日本が積極的に貢献していく観点から開催されたものです。外務省の中村亮・地球規模課題審議官が議長を務め、外務省・経産省・環境省からなる日本側交渉関係者が参加しました。

この東京での協議について、交渉に関与した関係者はAFPに対し「建設的だった」と評価し、5月にも次の会合が予定されていることを明らかにしたと報じられています。
公式発表は行われない非公式協議でしたが、交渉が「前に進む意志」を各国が示した点は注目に値します。

何が対立しているのか|「生産規制」をめぐる構造的な壁

EUや島しょ国がプラスチックの生産規制の必要性を強く訴える一方、サウジアラビアや米国、中国などは経済的理由から反発してきました。
研究者らは、INCの広い交渉マンデートが「プラスチックのライフサイクル全体」を対象としていることで議論が断片化し、進捗を遅らせてきたと指摘しています。特に、生産規制・有害化学物質・健康影響をどこまで条約に盛り込むかについて、各国の解釈が異なることが継続的な対立の原因となっています。
INCの使命は、生産から廃棄までプラスチックのライフサイクル全体を包括的に扱う、法的拘束力のある国際文書を策定することです。
この「包括的」という点こそが、交渉を複雑にしている核心でもあります。条約の実効性を高めようとすれば対象範囲は広がり、各国の利害対立も大きくなる——この構造的なジレンマに、新議長がどう対処できるかが今後の焦点となります。

日本の立場と「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」

日本は「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の提唱国として、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指しています。
このビジョンは2019年のG20大阪サミットで共有されており、多くの国と地域が支持しています。

今回の東京での非公式会合を主催したことも、この文脈で理解できます。条約交渉の主要な対立軸—生産規制を求める欧州・島しょ国と、廃棄物管理・リサイクル重視を主張する産油国—の間で、日本は「橋渡し役」としての立場を模索してきました。
環境省の担当者は、今回の非公式協議は実務者レベルの会合であり、公式な発表は予定されていないと説明しました。

まとめ|条約は「まだ間に合う」か

UNEPのインガー・アンデルセン事務局長は、INC-5.2の閉会にあたって「この作業は止まらない、なぜならプラスチック汚染も止まらないから」と述べ、交渉継続への意欲を示しました。

釜山での決裂、ジュネーブでの再び続く膠着、そして東京での非公式な対話再開——条約への道は長く、険しいままです。しかし5月に次の協議が予定されているなど、交渉の火は消えていません。海洋プラスチック汚染はSDGs目標14(海の豊かさを守ろう)に直結する課題であり、2026年の国際動向から目が離せない状況が続きます。

私たちにできることの一つは、消費者として「使い捨て」プラスチックの選択を見直すことです。国際条約の成否は政府間交渉に委ねられていますが、需要側からの変化もまた、交渉のテーブルに影響を与える力を持っています。

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