2026年3月1日から3日にかけて、東京でプラスチック汚染条約の締結に向けた非公式の国際協議が開かれました。2024年の釜山会合、2025年8月のジュネーブ会合と相次いで合意を持ち越してきた交渉が、新体制のもとで「再起動」の兆しを見せています。条約交渉の今、どこまで来て、何が壁になっているのかを整理します。
東京での非公式協議|「建設的だった」と交渉関係者
2026年3月3日、東京での協議に参加した関係者はAFPに対し、会合は「建設的だった」と述べ、次回会合を5月に予定していることを明らかにしました。
今回の協議には約20カ国の代表団が参加し、画期的な国際条約の実現に向けた取り組みを立て直すための「非公式」な議論が3日間にわたって行われました。
数十カ国の代表団が参加したこの非公式討議は公式な合意を目的としたものではありませんでしたが、ある交渉関係者は「2025年8月の交渉の事実上の崩壊を踏まえれば、今回は対話の再起動だ」と評価しました。
東京の会合には、サウジアラビア・ロシア・米国などの産油国のほか、アンティグア・バーブーダやパラオなどの島しょ国、さらに中国・インド・EUなどが参加したとされています。
交渉の経緯|2022年から続く長い道のり
2022年2月から3月にかけてケニア・ナイロビで開かれた第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)で「プラスチック汚染を終わらせる」との決議が採択され、プラスチック汚染防止に関する法的拘束力のある国際条約を2024年までに策定することが決まり、条約内容を協議する政府間交渉委員会(INC)が設けられました。
その後、INC1(ウルグアイ・プンタデルエステ、2022年11月)、INC2(フランス・パリ、2023年5〜6月)、INC3(ケニア・ナイロビ、2023年11月)、INC4(カナダ・オタワ、2024年4月)と交渉が重ねられ、2024年11月末から12月にかけてINC5.1が韓国・釜山で開催されました。
170カ国以上が参加した釜山での会合は「最終局面」と位置付けられていましたが、最大の焦点であったプラスチックの生産規制をめぐってEUや島しょ国と産油国などとの溝は最後まで埋まらず、条約案への合意を先送りすることが決まりました。
2025年8月15日にジュネーブで開かれた再開会合(INC5.2)でも法的拘束力のある国際合意には至らず、世界的なプラスチック汚染のガバナンス実現の難しさが改めて浮き彫りになりました。
新議長の選出|チリ・コルダノ大使が就任
交渉の行方を左右する大きな変化も起きています。
2026年2月7日、ジュネーブ国際会議センター(CICG)でINC-5.3(第5回政府間交渉委員会第3部)が開催されました。前議長(エクアドルのルイス・バジャス・バルディビエソ大使)が辞任したことを受けて開かれたこの1日会合は組織・行政上の目的に限定され、実質的な交渉は行われませんでした。
INC-5.3では、チリのフリオ・コルダノ大使が新しい議長として選出されました。
コルダノ新議長は就任にあたり、「プラスチック汚染は地球規模の問題であり、すべての国、すべてのコミュニティ、すべての個人に影響を及ぼす。協調した行動を支援し、この共有された責任に向き合うために、条約は急務だ」と訴えました。
対立の構図|「生産規制」か「廃棄物管理」か
世界では年間4億トン以上のプラスチックが生産されており、その半分以上がすぐに廃棄物となる使い捨て用途に使われているとされています。多数の国がプラスチック生産の抑制など踏み込んだ対策を求める一方、産油国の一部は廃棄物管理に絞った対応を主張しており、対立は続いています。
この構図の中で日本は独自の立場を取っています。
日本は「橋渡し役」としての立場を強めており、EUや太平洋島しょ国のように積極的な生産規制を求める立場と、規制に反発する産油国などとの間で、両者の意見を調整する役割を担っています。
日本は2019年のG20大阪サミットで議長国として「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を主導した提唱国として、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指しており、今後の国際交渉においても積極的な参加姿勢を示しています。
海洋への影響|生き物と人体への脅威
条約交渉が長引く間も、海洋プラスチック汚染の実態は深刻化しています。
現在、海洋プラスチックごみの総量は1億5,000万トン、毎年数百万トンから1,000万トン超が新たに発生しているとされており、2050年にはプラスチックごみが魚の総重量を上回るとの予測もあります。
死亡した海ガメや海鳥、海洋哺乳類の体内からプラスチックが検出されたとする研究報告が相次いでおり、プラスチックが海洋生物に広く影響を与えていることが示されています。
また、5mm以下のマイクロプラスチックが汚染物質を吸着して人体に蓄積し悪影響を及ぼす懸念も研究が進んでおり、すでに肺・肝臓・脾臓・腎臓、さらにはヒトの胎盤からもマイクロプラスチックが検出されています。
まとめ|次の正式交渉会合が正念場
国連のプラスチック条約交渉は難所にさしかかっており、釜山(2024年)やジュネーブ(2025年8月)での合意は得られませんでした。
しかし、新議長のもとで交渉プロセスは継続しており、交渉継続への意欲は各参加国・関係者から示されています。
次回の正式な交渉会合(INC-5.4)の日程・場所は現在調整中であり、東京での非公式協議がその橋渡しとなるかが注目されます。
多数の国が野心的な条約に対して支持を表明しており、プラスチックのライフサイクル全体にわたる包括的な対策への合意形成が続いています。また、企業側からも世界規模のアクションを求める声が「プラスチック条約のためのビジネス連合(Business Coalition for a Global Plastics Treaty)」などを通じて高まっているとされています。
プラスチック汚染は一国だけで解決できる問題ではありません。国際条約という枠組みが実現するかどうかは、私たちの海と健康に直結する問題です。交渉の動向に関心を持ち続けることが、変化を後押しする一歩になるでしょう。

