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SOCIETY

日本の食料安全保障は大丈夫か|自給率38%の読み方と家庭でできる備え

Photo by engin akyurt on Unsplash

食料安全保障という言葉は、ニュースで見る機会が増えました。それでも、自分の食卓とどうつながるのかは見えにくいままです。日本のカロリーベースの食料自給率は、農林水産省の公表では2023年度に38%でした。この数字だけを見て、不安になる人もいれば、毎日スーパーに食品が並んでいるので実感がわかないという人もいます。

この記事では、自給率の数字を読み解く角度を整理します。そのうえで、リスクの中身、2024年の制度改正、家庭でできる備えまでを順に見ます。企業の非財務開示を取材していると、食品・小売業が調達リスクを開示する場面に出会います。そこで感じるのは、国全体の数字と家庭の備えが別々に語られがちだということです。両方をつなげて読めるようにするのが、この記事の狙いです。

この記事で学べること

  • カロリーベースと生産額ベースの自給率が、なぜ大きく違うのか
  • 日本の食料供給を揺らす4つのリスク(輸入・肥料・担い手・気候)
  • 2024年の食料・農業・農村基本法の改正と新法で何が変わったか
  • 家庭の備蓄を今日から点検する具体的な方法

日本の食料自給率は何%なのか|数字の読み方

食料自給率は、国内で消費される食料のうち、国内で生産された分の割合です。農林水産省は主に2つの方法で算出しています。同じ年の数字でも、物差しによって見える姿が変わります。

カロリーベースは38%、生産額ベースは61%

農林水産省が2024年に公表した2023年度の概算では、カロリーベースが38%、生産額ベースが61%でした。カロリーベースは、国民が1日に摂取するエネルギーのうち国産でまかなえた割合です。生産額ベースは、食料の金額に注目した割合です。

2つの数字に開きがあるのは、物差しの性格が違うためです。野菜や果物は重量のわりにカロリーが低く、生産額ベースでは国産の存在感が大きくなります。一方、畜産物は国産でも、飼料の多くを輸入に頼っていればカロリーベースでは国産と数えにくくなります。

2020年に策定された食料・農業・農村基本計画では、2030年度の目標としてカロリーベース45%、生産額ベース75%が掲げられました。目標と現状の差は、国の政策課題として共有されています。

品目別に見ると偏りがはっきりする

全体の数字だけでなく、品目別に見ると構造がつかめます。米は国内でほぼ自給できています。一方で小麦は自給率が2割を下回り、大豆は1桁台にとどまります。パン、麺類、みそ、しょうゆ、食用油の原料です。畜産物は飼料の輸入依存が大きく、国産の肉や卵でも、実質的には海外の穀物に支えられています。

農林水産省が示す品目別の自給率は、「何を国内で作れているか」と「何を食べているか」のずれを表しています。日本は食生活の変化で米の消費が減り、小麦や油脂、畜産物の消費が増えてきました。自給率の低さは、農業の力が弱いというだけで生じたものではありません。食べ方の変化も大きく関わっています。

「食料自給力」という別の見方

農林水産省は、自給率とは別に「食料自給力指標」も公表しています。これは、国内の農地や労働力などを最大限に生かしたとき、どれだけの食料を生産できるかを試算するものです。平時の自給率が現在の実績なら、自給力は有事に発揮できる潜在能力です。数字の意味が違うので、並べて見ると食料安全保障の議論が立体的になります。

食料供給を揺らす4つのリスク

食料安全保障の議論では、「輸入が止まったら」という極端な想定が先行しがちです。実際には、もっと日常に近いところで供給は揺らいでいます。

輸入先の偏りと国際情勢

小麦は主にアメリカ、カナダ、オーストラリアから、大豆はアメリカ、ブラジル、カナダから輸入しています。トウモロコシはアメリカとブラジルの比重が大きい品目です。上位の輸入先に集中していると、産地の天候不順や輸出規制の影響を受けやすくなります。

2022年にはロシアによるウクライナ侵攻で、世界の穀物市場が動揺しました。同じ年、インドが小麦の輸出を禁止したことも、輸出国の判断ひとつで供給が変わる例として知られています。日本の食卓に直ちに品不足が起きたわけではありません。ただ、小麦製品や食用油などの値上げが相次ぎ、輸入依存のコストを家計が実感する契機になりました。

肥料と飼料という「見えない輸入」

見落とされやすいのが、農業の生産資材です。化学肥料の主な原料である尿素、りん酸アンモニウム、塩化カリウムは、大半を海外に頼っています。国産の野菜や米でも、肥料の原料が止まれば収量に響きます。2022年の肥料価格の高騰では、農家の経営を直撃しました。

家畜の飼料も同じです。国産の牛肉や豚肉、鶏卵の生産は、輸入トウモロコシや大豆かすに支えられています。自給率の数字に出てくる輸入依存より、現実はもう一段深いと見たほうが実態に近いでしょう。

担い手の減少と気候変動

国内側のリスクは担い手の減少です。農林水産省の農業構造動態調査によると、農業を主な仕事とする基幹的農業従事者は、2024年に約111万人でした。2020年の約136万人から減っており、平均年齢は約69歳です。人手と技術が受け継がれなければ、農地があっても生産を続けられません。

さらに、猛暑や豪雨、水不足といった気象の変化が、収量や品質に影響しています。2024年夏以降には、コメの店頭での品薄と価格上昇が続きました。米はほぼ自給できている品目です。それでも、天候、需要の変化、流通の在庫の動きが重なれば、家庭が不安を感じる事態は起こります。自給率が高い品目なら安心とは言い切れない、という実例でした。

2024年の基本法改正と新法で何が変わったか

制度面では、2024年が転換点になりました。四半世紀ぶりに食料・農業・農村基本法が改正されたのです。

「食料安全保障」が法律の柱に

2024年5月に成立し、6月に施行された改正基本法では、食料安全保障の確保が基本理念に位置づけられました。法律上の考え方は、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人が入手できる状態を指します。量が国内にあるだけでなく、価格と入手のしやすさも含めて考える点が特徴です。

これにより、自給率だけに頼る議論から、輸入の安定確保、国内生産の拡大、価格形成のあり方まで含めた議論に広がりました。

不測時に備える食料供給困難事態対策法

2024年に成立した食料供給困難事態対策法は、2025年4月に施行されました。大規模な不作や輸入の途絶といった、食料供給が深刻に不足するおそれのある局面を想定しています。政府が対策本部を置き、事業者に出荷や販売の調整を求めたり、農家に生産品目の転換を要請したりする枠組みを定めた法律です。

平時から備える仕組みが法律で整ったことは前進です。ただ、制度があることと、家庭が安心できることは別の話です。実際に有事が来たとき、最初に頼れるのは手元にある食品です。

3つの物差しで読む|国・企業・家庭の備えを重ねる

ここまでの内容は、日本の食料安全保障を測る物差しが3層にあると整理できます。

  • 国の物差し(自給率・自給力・輸入先の多様化)
  • 企業の物差し(調達先の分散・在庫・開示)
  • 家庭の物差し(備蓄日数・調理の選択肢)

企業の調達開示を読む視点

サステナビリティ報告を取材していると、食品メーカーや小売が原材料の調達リスクを非財務情報として開示する例が増えています。産地の分散、代替原料の確保、在庫方針といった記載です。生活者の側から見ると、これは食品を選ぶ際の参考情報にもなります。

ただし、開示があることをもって、供給の安全が保証されるわけではありません。開示の中身が「産地リスクの認識」にとどまるのか、「具体的な分散や在庫の方針」まで踏み込むのかで、情報の価値は変わります。報告書を読むときは、この違いを見るのがひとつの目安です。

国と企業が整っても、家庭の層は空白になりやすい

国の制度や企業の対策が進んでも、家庭の層は個々に委ねられています。農林水産省は家庭での食料備蓄の目安として、最低3日分、できれば1週間分を示しています。災害でも物流の混乱でも価格高騰でも、手元の備蓄は共通して効きます。食料安全保障を自分ごとにする最短ルートは、この層を点検することです。

今日からできる家庭の備え

家にある食品の「日数」を数えてみる

はじめの1アクションとして、台所と保管場所にある食品を、何日分あるか数えてみてください。主食(米、パスタ、乾麺、パックご飯)、たんぱく源(缶詰、レトルト、乾物、豆類)、水、調味料に分けて、1人あたり何食分あるかを書き出します。10分ほどで済みます。

数えてみると、主食は多いのにたんぱく源と水が足りない、といった偏りが見えます。農林水産省の目安である3日分から1週間分と比べて、足りない分野を1つだけ見つけます。

買い足しは「普段食べるもの」を少し多めに

不足がわかったら、特別な非常食を買い込む必要はありません。普段食べている食品を、ひと回り多く買って、古いものから消費して買い足すローリングストックが現実的です。食べ慣れたものなら、無理なく循環させられます。

備蓄の目的は、買い占めではありません。必要以上に抱え込むと、他の人の購入機会を奪うことになります。家族の人数と、数日から1週間の食事を基準にする。この線引きを守ると、社会全体の供給にも負担をかけません。

まとめ

日本のカロリーベース食料自給率は、2023年度に38%でした。ただ、生産額ベースでは61%と、見え方は物差しで変わります。小麦や大豆など品目ごとの偏りに加え、肥料や飼料の輸入、担い手の減少、気候の変化が重なり、供給の不確実さは日常に近づいています。2024年の基本法改正と新法で制度は整いつつありますが、最後に頼れるのは家庭の備えです。

自給率は、不安をあおる数字としても、無視してよい数字としても読むべきではありません。国の物差し、企業の物差し、家庭の物差しを重ねて、自分の暮らしに引き寄せて点検するための手がかりです。まずは、家にある食品が何日分あるのかを数えることから始めてみてください。

  • 自給率はカロリーベース38%、生産額ベース61%(2023年度)で、物差しにより見え方が変わる
  • リスクは輸入先の偏り、肥料・飼料の輸入、担い手の減少、気候の変化に分けて考えられる
  • 2024年の基本法改正で、食料安全保障は価格と入手のしやすさまで含めて考える方向になった
  • 家庭では3日分から1週間分の備蓄を目安に、まず手元の食品の日数を数える

参考文献

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