ESGに関する白書や運用会社の報告書を読み込んでいると、必ずといっていいほど登場するのが「ネガティブスクリーニング」という言葉です。投資信託を選ぶときに目論見書をめくってみても、この言葉の説明はごく短く、結局「何が除外されているのか」「自分の投資先にどう関係するのか」が分からないまま読み流してしまう人が多いのではないでしょうか。筆者自身も最初に運用報告書を読んだとき、除外業種の一覧をざっと眺めただけで理解した気になり、あとから基準の中身を聞かれて答えられなかった経験があります。この記事では、ネガティブスクリーニングの仕組みを踏まえたうえで、日本の年金基金がどう向き合っているか、個人投資家が目論見書のどこを見ればよいかを具体的に整理していきます。
ネガティブスクリーニングとは何を判断基準にする手法か
ネガティブスクリーニングとは、特定の業種や事業内容を投資対象からあらかじめ除外する運用手法のことです。国連が支援する責任投資原則(PRI)は、ESG要素を投資判断に組み込む手法のひとつとして、こうした除外型のアプローチを整理しています。武器製造やたばこ、ギャンブルといった業種、あるいは人権侵害や環境破壊に関与しているとされる企業を、あらかじめ投資対象リストから外しておくという考え方です。
実務上は、運用会社が独自に定めた除外リストに基づいて銘柄を選定するか、あらかじめ除外基準が組み込まれた指数に連動する形でファンドを設計するケースが多く見られます。たとえば特定のESG指数は、対人地雷やクラスター弾など国際的に規制されている兵器に関わる企業を機械的に除外する仕組みを持つことが知られています。運用者が個別に判断するのではなく、指数のルール自体に除外基準が組み込まれている点が特徴です。
こうした手法が広がった背景には、1980年代の南アフリカのアパルトヘイト政策に対する投資撤退運動や、その後のたばこ産業への投資見直しの動きがあるとされています。倫理的な理由から特定の投資先を避けるという発想自体は決して新しいものではなく、ESGという言葉が広まる以前から機関投資家や宗教系の基金の間で実践されてきた歴史があります。
除外の対象になりやすい業種と基準
除外の基準は運用会社や指数提供会社によって幅があるものの、共通して名前が挙がりやすい業種にはいくつかの傾向があります。ここでは代表的な分類を整理してみます。
国際的な規制がある兵器関連
クラスター弾や対人地雷、生物化学兵器など、国際条約で使用や製造が規制されている兵器の製造に関わる企業は、多くのESG指数やファンドで除外の対象になりやすいとされています。この分野は国際的な合意が比較的明確なため、「議論の余地が少ない除外」として扱われる傾向があります。
環境負荷の大きい事業
石炭火力発電や石炭採掘に売上の多くを依存する企業を除外する動きも広がっています。気候変動対策の文脈で、石炭関連事業からの投資撤退(ダイベストメント)を表明する機関投資家が国内外で増えていると報告されています。ただし「売上高の何パーセントを占める企業を除外するか」という具体的な閾値は運用会社ごとに異なり、統一された基準があるわけではありません。
人権や労働慣行に関わる懸念
強制労働や児童労働への関与が疑われる企業、深刻な人権侵害に関連するとされる企業を除外対象とする動きもあります。ただしこの分野は兵器や石炭に比べて「何をもって関与とみなすか」の判断が難しく、運用会社ごとの解釈の幅が大きい領域だと感じています。実際に複数のファンドの除外基準を読み比べてみると、同じ「人権」という言葉を使っていても、判断のプロセスや情報源の記載の詳しさにかなりの差があることに気づきます。
投資における人権侵害企業の除外を考えるときは、そもそも社会にどのような格差や不平等の構造があるのかを知っておくと、除外基準の意味がより具体的に見えてきます。
日本の年金基金や機関投資家はどう向き合っているか
日本国内でネガティブスクリーニングを語るうえで欠かせないのが、世界最大級の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の存在です。GPIFは巨額の年金資産を市場全体に幅広く分散して運用する性質上、特定の業種を一律に除外するのではなく、ESG指数の採用や投資先企業との対話(エンゲージメント)を通じてESG要素を反映させる方針をとっているとされています。特定銘柄を丸ごと排除するのではなく、投資を続けながら企業に改善を促すという立場です。
一方で、GPIFが採用しているESG指数の中には、前述の国際規制対象兵器などについて機械的な除外基準を組み込んだものも含まれており、完全にネガティブスクリーニングと無縁というわけではありません。「除外か、対話か」は二者択一ではなく、実務ではいくつかの手法が重なり合って運用されているのが実情です。
個人向けの投資信託の世界でも、ESGをテーマにした商品の選択肢は増えてきました。日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)のような団体が国内の責任投資の動向を継続的に調査・発信しており、除外基準を明示するファンドが徐々に増えている傾向がうかがえます。ただし、どの業種をどこまで除外しているかはファンドごとに差があるため、名称に「ESG」や「サステナブル」とついているからといって、除外基準の中身まで同じとは限りません。
ネガティブスクリーニングとポジティブスクリーニング・ESGインテグレーションの違い
ネガティブスクリーニングと混同されやすい手法に、ポジティブスクリーニングとESGインテグレーションがあります。この二つとの違いを整理しておくと、ファンド選びの判断軸がはっきりします。
ポジティブスクリーニングは、業種内でESG評価の高い企業を積極的に選ぶ手法です。石油業界であっても、その中で環境対策に力を入れている企業を選び出す「ベスト・イン・クラス」型のアプローチが代表例とされています。除外するのではなく、相対的に優れた企業を積み増すという発想です。
ESGインテグレーションは、除外や選別という形をとらず、財務分析にESG要素を組み込んで企業価値を評価する手法です。特定の業種を排除しない代わりに、ESGリスクが高い企業は評価を下げるという形で反映させます。
投資家がどの手法を選ぶかは、何を重視するかによって変わってきます。特定の業種には一切お金を回したくないという価値観を優先するならネガティブスクリーニング、業界全体の底上げに関心があるならポジティブスクリーニング、リターンとリスク管理を主軸にしつつESG要素も加味したいならインテグレーションが向いていると整理できます。どれが優れているという話ではなく、投資家自身が何を重視するかで選び方が変わる点を押さえておくとよいでしょう。
投資信託を選ぶときに目論見書でチェックすべきポイント
除外基準の考え方が分かったところで、実際にファンドを選ぶ場面でどこを見ればよいかを具体的に見ていきます。
除外基準の記載箇所を探す
交付目論見書や運用報告書には「除外基準」「エクスクルージョン」「投資対象から除く業種」といった項目名で記載されていることが多いです。見当たらない場合は、運用会社のウェブサイトのESGに関するページに詳細版が掲載されているケースもあります。ページ数が多く見つけにくいことが多いので、PDFの検索機能で「除外」と入力して探すのが手っ取り早い方法だと感じています。
業種除外なのか個別銘柄除外なのかを確認する
「石炭関連事業を売上の30%以上占める企業を除外」のように業種単位で線を引いているのか、それとも国際機関のリストに基づいて個別企業を指定しているのかを確認しましょう。前者は基準が分かりやすい一方で線引きの位置に恣意性が残り、後者は根拠が明確な反面カバー範囲が狭くなりがちです。
除外基準とリターンの関係を理解する
除外を行うファンドは、市場平均(インデックス)から一部の銘柄を外す分、値動きが市場平均と多少ずれる可能性があります。これは良い悪いという話ではなく、除外基準を採用する以上は避けられない特性です。実際に大手ESGファンドを2〜3本並べて目論見書を比較してみると、除外業種の数が多いファンドほど、ベンチマークとの乖離について注意書きが詳しく書かれている傾向が見て取れます。気になる銘柄がある場合は、こうした比較を自分の手元でも一度やってみることをおすすめします。
今日からできる最初の一歩として、いま保有している投資信託や気になっているファンドの目論見書を開き、「除外基準」という言葉を検索してみてください。記載がなければ、運用会社の問い合わせ窓口に「御社のファンドに除外基準はありますか」と聞いてみるだけでも、自分の投資先への理解がぐっと深まります。
まとめ
ネガティブスクリーニングは、特定の業種や企業をあらかじめ投資対象から外すというシンプルな発想に基づく手法ですが、実際の運用現場では「何を、どこまで除外するか」という線引きに運用会社ごとの個性が表れます。日本ではGPIFのように除外よりも対話を軸に据える機関投資家がある一方で、ESG指数を通じて部分的に除外基準を取り入れている実例もあり、白黒はっきり分かれる世界ではありません。
大切なのは、ネガティブスクリーニングという言葉だけで安心せず、実際の除外基準の中身まで確認する習慣を持つことです。ポジティブスクリーニングやESGインテグレーションといった他の手法と比べながら、自分がどんな価値観を投資に反映させたいのかを整理してみると、ファンド選びの軸がより明確になります。
- ネガティブスクリーニングは特定業種や企業を除外する投資手法で、PRIが示すESG手法の一つとされる
- 兵器・石炭・人権侵害関連などが除外対象になりやすいが基準は運用会社ごとに異なる
- GPIFはエンゲージメント重視だがESG指数を通じ部分的に除外基準を採用しているとされる
- ポジティブスクリーニング・ESGインテグレーションとは重視するポイントが異なる
- ファンド選びでは目論見書の除外基準の記載を必ず確認することが第一歩になる

