人口減少が進む地域で、農業を支えてきた知恵をどう次の世代へ受け継ぐか。その問いに、大学の研究が映像という方法で挑んでいます。国立大学法人岡山大学(本部 岡山市北区、学長 那須保友)と岡山理科大学の研究者で構成するプロジェクトチームは、2026年5月30日、岡山県久米郡久米南町において田植え作業の模様を動画で収録しました。地域農業に蓄積されてきた実践知を映像として記録し、次世代への継承につなげることを目指す取り組みです。
ウェアラブルカメラで田植えを記録する
当日は、岡山大学学術研究院の大仲克俊准教授と駄田井久准教授が参加し、地域の方々の協力のもと、田植え機を用いた作業の様子を収録しました。作業者は、視線に近い映像を記録できるウェアラブルカメラに加え、背面に装着した360度カメラなどを活用し、苗の運搬や田植え機への苗の積み込み、操作、圃場内での動線、周囲の確認、作業中の判断などを多角的に記録しました。この取り組みは、トヨタ財団の2024年度特定課題「人口減少と日本社会」の助成事業の一環として実施されたものです。収録した映像は、地域農業の現場で実際にどのような判断や動作が行われているのかを、後から繰り返し見返せる記録として蓄積されます。地域の方々の協力を得ながら、実際の作業に密着して記録した点に、今回の収録の意義があります。

受け継ぎにくい農業の実践知
田植え作業は、地域農業を支える基礎的な営みである一方で、作業の段取りや機械操作、圃場の状態に応じた判断、複数人での役割分担など、経験にもとづく多くの実践知によって成り立っています。こうした知識や技術は、口頭や紙の資料だけでは十分に伝えにくく、担い手の減少が進む地域においては、次世代への継承が重要な課題となっています。人口減少や高齢化が進む中山間地域では、地域資源の管理や農業生産、生活基盤の維持を支える担い手の構造そのものが問われています。

暗黙知を映像で可視化する
今回の動画収録は、作業者の視点や身体の動き、周囲とのやり取りを映像として記録することで、地域農業に蓄積されてきた暗黙知を可視化することを目的としています。視線に近い映像と背面の360度カメラを組み合わせることで、作業者が何を見て、どう体を動かし、周囲とどうやり取りしているのかを、複数の角度から捉えることができます。研究者チームでは、前回実施したため池や水路の管理活動の記録とあわせて、地域資源管理や農作業のデジタルアーカイブ化、作業のマニュアル化、担い手育成への活用の可能性について検討を進めます。映像は、言葉にしづらい技を見える形に残す手がかりとなります。久米南町では、これまでも大学と地域が連携した取り組みが重ねられており、今回の収録もその延長線上にある活動です。
地域の課題に大学の知を接続する
本プロジェクトでは、人口減少や高齢化が進む中山間地域において、地域資源の管理や農業生産、生活基盤の維持に必要な作業や知識、担い手の構造を把握し、それらを支える新たな事業体モデルの構築を目指しています。地域課題の現場に大学の知を接続し、持続可能な地域社会の実現に向けて、実践知の継承と新たな担い手の形成を進めるものです。岡山大学は、文部科学省の地域中核・特色ある研究大学強化促進事業に採択されており、地域と地球の未来を共創する研究大学を掲げています。今回のような農業の現場に踏み込んだ取り組みは、その理念を具体的な活動として示すものでもあります。岡山大学が掲げる、地域と地球の未来を共創し世界の革新に寄与する研究大学の実現にも資する活動だとしています。今後も久米南町や地域の関係者と連携しながら、持続可能な農業と地域資源管理のあり方の検討が続けられます。

