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ENVIRONMENT

持続可能な交通を日本でどう実現するか|企業と自治体の事例、今日からできる工夫

通勤電車の遅延や、地方でバス路線が突然廃止になったというニュースを見るたびに、日本の交通が抱える課題の根深さを感じます。大学で環境政策を研究し、国や自治体の公開資料を読み解く仕事をしていると、持続可能な交通という言葉が単なる脱炭素の話ではなく、高齢化や人口減少と地続きの問題であることに気づかされます。この記事では、国と自治体、企業がそれぞれどんな一手を打っているのかを具体的に見ながら、読者が今日から選べる交通の工夫を考えていきます。

この記事で学べること

  • 持続可能な交通が日本でなぜ政策課題になっているのか
  • 国や自治体が進めるグリーンスローモビリティ・MaaS・自転車施策の具体例
  • 鉄道会社や自動車メーカーが取り組む脱炭素モビリティの動き
  • 都市部と地方で交通の選び方がどう変わるか
  • 今日から試せる交通選びの小さな一歩

持続可能な交通が日本で政策課題になっている理由

持続可能な交通とは、環境負荷を抑えながら、誰もが移動の自由を保てる交通のあり方を指す言葉として使われています。電気バスや燃料電池車といった車両の脱炭素化だけでなく、公共交通そのものを維持できるかという問いも含まれている点が、この言葉の射程の広さだと感じています。

運輸部門は国内のエネルギー起源CO2排出量のうちまとまった割合を占めるとされ、その大半を自動車が占めるという構造は長年大きく変わっていません。国土交通省や環境省の資料を読んでいても、運輸部門の脱炭素化は日本全体の気候変動対策の中でも優先度の高いテーマとして位置づけられてきたことがうかがえます。

ただ、日本の場合はここに人口減少と高齢化という要素が重なります。地方ではバス事業者の撤退や減便が相次ぎ、車を運転できなくなった高齢者の移動手段が失われるという問題が各地で起きています。つまり日本にとっての持続可能な交通は、環境面の課題と、地域の足をどう守るかという社会面の課題が同時に進行している状況だと捉えるほうが実態に近いと考えています。

国と自治体が進める具体策

こうした二重の課題に対して、国と自治体はここ数年、いくつかの具体策を並行して進めてきました。それぞれ狙いが異なるため、内容を分けて見ていきます。

グリーンスローモビリティで地域の足をつくる

国土交通省が推進してきたグリーンスローモビリティは、時速20キロ未満で走る小型の電動モビリティを、観光地や過疎地域の移動手段として活用する取り組みです。速度を抑えることで運転免許の要件を緩和しやすく、高齢者の移動支援や観光客向けの周遊交通として導入する自治体が広がってきたとされています。大きな設備投資をせずに始められる点が、財政的に余裕のない地域でも採用しやすい理由だと理解しています。

MaaSで乗り換えの不便を減らす

MaaSは、鉄道・バス・タクシーなどの複数の交通手段を一つのアプリで検索・予約・決済できるようにする仕組みです。静岡県の伊豆地域で東急とJR東日本が実証を重ねてきた「Izuko」や、小田急電鉄の「EMot」、トヨタ自動車と西日本鉄道が手がける「my route」など、鉄道会社と自動車メーカーがそれぞれの立場からMaaS事業に参入してきた経緯があります。乗り換え検索アプリとして触れたことのある読者も多いはずですが、背景には公共交通の利用データを可視化し、路線維持の判断材料にするという自治体側の狙いも重なっています。

自転車活用推進法が変えた都市の風景

2017年に施行された自転車活用推進法は、自転車を環境負荷の低い交通手段として位置づけ、自転車専用レーンの整備や シェアサイクルの普及を後押ししてきました。都市部で青い矢羽根の自転車レーンを目にする機会が増えたと感じる人もいると思いますが、これは各自治体の自転車活用推進計画に基づく整備が進んだ結果です。短距離移動を自動車から自転車へ切り替えることは、渋滞緩和と排出削減の両方に効くという点で、比較的即効性のある施策だと考えています。

企業が動かす脱炭素モビリティ

政策と並行して、交通を担う企業側の動きも見ておく必要があります。鉄道・バス事業者と自動車メーカーでは、取り組みの入り口が異なります。

鉄道・バス事業者の脱炭素目標

JR東日本をはじめとする鉄道各社は、自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出を長期的にゼロへ近づける目標を掲げ、省エネ車両の導入や再生可能エネルギー由来の電力活用を進めてきたと公表しています。路線バス事業者の間でも、電気バスの試験導入が横浜市や京都市など複数の都市で進められてきました。ただしバス車両の更新サイクルは長く、既存の路線網全体が一気に置き換わるわけではない点は、過度な期待を持たないほうがよい部分だと感じています。

自動車メーカーの水素・EVシフト

トヨタ自動車が開発した燃料電池バス「SORA」は、東京都内の路線バスなどで導入が進められ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には選手輸送にも活用されたことで広く知られるようになりました。各自動車メーカーもEVやプラグインハイブリッドのラインアップを拡充しており、法人向けのカーシェアやリース事業を通じて、個人が直接購入しなくても脱炭素モビリティに触れられる機会が増えてきています。

都市部と地方で分かれる普及の温度差

実際にいくつかの自治体の地域公共交通計画を読み比べてみると、MaaSや電気バスの実証は人口集積のある都市部や観光地で先行し、過疎地域ではデマンド交通(事前予約制の乗り合い車両)のような、既存の車両を活用した運用面の工夫が中心になっている傾向を感じます。新しい車両への投資よりも、限られた台数をどう配車するかという運用の工夫のほうが、地方の財政事情には合っているのだと思います。読者が自分の住む自治体の取り組みを調べるときも、車両の新しさだけでなく「誰のための足として設計されているか」という視点で見ると、施策の狙いが見えやすくなるはずです。

自分の暮らしに合った交通の選び方

制度や企業の動きを知ったうえで、読者が実際にできることを整理しておきます。

通勤や通学での工夫

駅から目的地までの距離が短い場合は、シェアサイクルや徒歩への切り替えが最も取り組みやすい選択肢です。実際に自分の通勤ルートでシェアサイクルを試したところ、駅前のバス待ち時間をまるごと短縮できた一方で、ポートに自転車がない時間帯もあり、天候や時間帯によって使い分ける必要があると実感しました。一つの手段に頼り切らず、複数の選択肢を持っておくことが結果的に続けやすさにつながると感じています。

車が手放せない地域でできること

地方在住で車が生活の前提になっている場合、すぐに車を手放すことを勧めるつもりはありません。エコドライブ(急発進・急加速を控える運転)や、次に車を購入・リースする際にハイブリッドやEVを選択肢に入れることのほうが現実的な一歩です。また、自治体のデマンド交通やコミュニティバスが導入されている地域では、利用者が少ないという理由で路線が縮小される例もあるため、使える手段は使っておくこと自体が路線維持への後押しになります。

旅行やレジャーでの選択

観光地ではグリーンスローモビリティやレンタサイクルが用意されている場所が増えています。レンタカーを借りる前に、現地の周遊交通が使えないか一度調べてみると、渋滞の多い観光地ではかえって移動が楽になることもあります。まず1つだけ試すなら、次に電車で出かける機会に、目的地までの最後の数キロをシェアサイクルや徒歩に置き換えてみることから始めてみてください。

まとめ

持続可能な交通は、車両を新しくすることだけで実現するものではありません。国土交通省や環境省が進める施策、鉄道会社や自動車メーカーの取り組み、そして自治体ごとの地域公共交通計画が重なり合って、初めて地域の足として機能します。都市部と地方では課題の現れ方も解決策も異なるため、自分が暮らす地域がどちらの状況に近いかを意識することが、交通を選ぶ最初の手がかりになります。

大きな制度転換を待つ前に、日常の移動の中で試せる選択肢は意外に多くあります。シェアサイクルやMaaSアプリ、エコドライブといった手段は、どれも今日から始められる規模のものです。完璧な脱炭素を目指すのではなく、続けられる範囲で選択肢を広げていく姿勢のほうが、長く付き合えるやり方だと感じています。

  • 運輸部門の脱炭素化と地域公共交通の維持は同時に進む課題である
  • グリーンスローモビリティ・MaaS・自転車活用推進法は国と自治体の代表的な施策である
  • 鉄道会社と自動車メーカーはそれぞれ異なる入り口で脱炭素モビリティに取り組んでいる
  • 都市部と地方では普及のスピードや手段の設計思想が異なる
  • 通勤・移動の一部をシェアサイクルや公共交通に置き換えることから始められる

参考文献

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