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ENVIRONMENT

生態系サービスとは何か|ネイチャーポジティブ時代の企業開示と暮らしの選び方

Photo by Wolfgang Rottmann on Unsplash

「生態系サービス」という言葉を見聞きしても、森を守れば何かいいことがある、という程度のイメージで止まっていないだろうか。実はこの言葉、2023年以降の日本の生物多様性政策や企業の情報開示の現場で急速に重みを増している概念でもある。この記事では辞書的な定義の確認だけで終わらせず、なぜ今この言葉が政策と企業経営の両方で注目されているのか、そして読者が日常の選択にどう活かせるのかを、非財務開示を取材してきた記者の視点から整理していく。

生態系サービスとは何を指す言葉なのか

生態系サービスとは何か、とあらためて聞かれると、森や海がもたらす自然の恵み全般、というくらいのイメージしか浮かばない方も多いはず。実はこの概念には国際的に整理された分類があり、2005年に国連の呼びかけでまとめられたミレニアム生態系評価が示した4つの区分が、今も基準として使われている。それぞれがどう違うのか、具体例とともに見ていきたい。

供給サービス|食料や水など直接得られる恵み

食料、淡水、木材、繊維、燃料といった、私たちが自然から直接受け取り、生活の材料として使うものを指す。もっともイメージしやすいサービスといえるだろう。

調整サービス|気候や災害を和らげる働き

森林による洪水の緩和、湿地による水質浄化、昆虫による受粉、植物の炭素吸収による気候の調整など、目に見えにくいが生活基盤を支えている機能がここに含まれる。開発によって失われやすいのもこのサービスだと考えられている。

文化的サービス|観光やレクリエーション、精神的な充足

自然景観を楽しむ観光、レクリエーション、地域の信仰や祭事とのつながり、教育の場としての価値などが該当する。経済的な数値に換算しづらいため、政策議論では見落とされがちな領域でもある。

基盤サービス|光合成や土壌形成など生態系を支える基礎機能

光合成による酸素の生成、土壌の形成、栄養循環など、他の3つのサービスを根底で支える機能を指す。直接目にすることは少ないが、これが崩れると他の3分類すべてが影響を受けるとされる。

なぜ今、生態系サービスが日本の政策の中心に来ているのか

定義を押さえたところで、次に浮かぶ疑問は「なぜ今さらこの言葉なのか」ではないだろうか。日本では2023年に環境省が生物多様性国家戦略2023-2030を策定し、2030年までに自然の損失を止め回復に転じさせる「ネイチャーポジティブ」を目標に掲げたと説明されている。あわせて、陸と海の30%以上を保全する国際目標「30by30」への対応も進められているとされる。生態系サービスという言葉が政策文書で頻出するようになったのは、この目標を測る「ものさし」として使われているからだ。

生態系サービスと生物多様性は何が違うのか|よくある誤解

ここでよくある誤解が、生物多様性と生態系サービスを同じものとして扱ってしまうことだ。生物多様性は種・遺伝子・生態系そのものの多様さを指す言葉であり、生態系サービスはその多様性がもたらす人間への恩恵や機能を指す言葉と整理できる。つまり生物多様性が「元手」だとすれば、生態系サービスはそこから生まれる「利益」に近いイメージだ。政策や企業開示の文脈でこの2つが使い分けられているのは、多様性そのものの保全と、そこから得られる恩恵の維持を、別々に測定・評価する必要があるためだと考えられる。

企業はどのように向き合い始めているのか

「生態系サービスの話は行政や研究者のものであって、企業には関係が薄いのでは」と感じる読者もいるかもしれない。しかし実際には、2023年9月に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が最終提言を公表して以降、状況は変わりつつある。TNFDは企業に対し、自然への依存度やリスク・機会をLEAP(Locate・Evaluate・Assess・Prepare)というプロセスで評価し開示することを求める枠組みで、食品、素材、金融など幅広い業種の企業が任意開示という形で試行を始めていると報告されている。

非財務報告を読み比べて感じること|記者の視点から

非財務開示を継続して取材していると、統合報告書やサステナビリティレポートの「自然資本」「生態系サービス」という項目の書きぶりに、企業ごとの温度差がはっきり出てくるのがわかる。よくあるのは「森を守ります」「水資源を大切にします」という抽象的な宣言で終わっているケースで、これは開示としては入口に過ぎない。読者や投資家として報告書を見る際は、依存度がどの拠点・どの原材料に集中しているかという具体性、そしてどんな指標で進捗を測っているかという2点を確認すると、その企業が本気で向き合っているかどうかの手がかりになる。この視点は特別なスキルがなくても、報告書のPDFを開いて数値や地名が出てくるかを見るだけで実践できる。

生態系サービスを意識した日常の選び方

ここまで政策と企業の話をしてきたが、「では自分の暮らしでは何ができるのか」という疑問に答えていきたい。実は日常の買い物の場面でも、生態系サービスの持続性に配慮した選択肢を見分ける手がかりが用意されている。代表的なのが認証ラベルで、それぞれ守備範囲が異なる点を押さえておくと選びやすくなる。

  • MSC認証(海のエコラベル)|天然の水産資源が持続可能な方法で漁獲されているかを示す
  • ASC認証|養殖水産物が環境や地域社会に配慮して生産されているかを示す
  • FSC認証(森林認証)|木材や紙製品が適切に管理された森林から来ているかを示す

「どれか1つ覚えておけばいい」というものではなく、魚介類ならMSC・ASC、紙や木材製品ならFSCというように、対象となる生態系サービスの種類によって見るべきラベルが変わる点に注意したい。あわせて、旬の地場産品を選ぶ地産地消も、輸送に伴う環境負荷を抑えつつ、自分の暮らしと地域の生態系サービスとのつながりを実感しやすくする選択肢の一つといえる。

今日からできる小さな一歩

「結局、明日から何をすればいいのか」と思う方に向けて、最小限の一歩を提案したい。次に買い物をする際、魚介類か紙製品のパッケージを1つだけ手に取り、MSC・ASC・FSCいずれかの認証マークが付いているかを確認してみてほしい。ついていなくても構わない。まずは「見る習慣」をつけることが、生態系サービスを意識した消費の第一歩になる。

まとめ

生態系サービスとは、供給・調整・文化的・基盤という4つの機能に整理される、自然が私たちにもたらす恩恵を指す言葉だった。日本ではネイチャーポジティブや30by30といった政策目標と結びつき、企業の間でもTNFDに沿った開示が広がり始めている。定義を知るだけで終わらせず、認証ラベルの確認のような小さな行動から関わりを持ってみてほしい。

  • 生態系サービスは供給・調整・文化的・基盤の4分類で整理される
  • 日本ではネイチャーポジティブや30by30など政策目標のものさしとして使われている
  • 企業ではTNFDに沿った自然関連リスクの開示が広がりつつある
  • 認証ラベルの確認や地産地消など、日常の選択からも関わることができる

本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。

参考文献

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