フードマイレージとは、食料が生産地から食卓に届くまでの「輸送量(トン)×輸送距離(km)」で表す指標で、単位はt・kmです。数値が大きいほど、輸送に使うエネルギーとCO₂が増えやすいと考えられます。日本はこの値が主要な先進国のなかでも際立って高いとされますが、「だから国産を選べばいい」という単純な話では終わりません。
この記事では、日本の数字の読み方、高くなる理由、国産でも下がらないケース、そして秋の今の時期から食卓で試せる下げ方を順にまとめます。スーパーの売り場で思い出せる判断の目安を持ち帰ってもらうことが目的です。
日本のフードマイレージは約9,000億t・km|国際比較で見える位置
計算の考え方は単純です。たとえば1トンの食料を1万km運べば、フードマイレージは1万t・kmになります。これを輸入相手国ごとに積み上げたものが、国全体のフードマイレージです。
日本について広く引用されているのは、農林水産政策研究所が2001年の輸入実績をもとに試算した結果です。食料の輸入総量は約5,800万トンで、フードマイレージは約9,000億t・kmとなりました。この値は、国内の総貨物輸送量の約1.6倍に相当すると報告されています。
総量では韓国・米国の約3倍、フランスの約9倍
同じ研究で日本を基準に各国を比べると、韓国と米国は3〜4割、英国とドイツは約2割、フランスは1割強の水準でした。逆から見ると、日本は韓国・米国のおよそ3倍、英国・ドイツのおよそ5倍、フランスのおよそ9倍に当たります。
食料の輸入量そのものが大きく、しかも遠い国から運んでいることが、この差につながっています。国内の貨物輸送の1.6倍にあたる量が、食料の輸入だけで動いている計算です。
人口一人あたりに直すと見え方が変わる
総量だけでは人口の違いが隠れます。人口一人あたりで見ると、韓国は日本に近い水準で、英国は約半分、フランスとドイツは約3割、米国は1割台とされています。
韓国のように日本と近い国があることから、「島国で輸入に頼る国ほど高くなりやすい」という構造が読み取れます。一方、米国は国内で多くの穀物を生産できるため、輸入に伴う距離の積み上げが小さくなります。
なお、広く引用されるこの国際比較は2001年の輸入実績に基づくもので、現在の値をそのまま表すものではありません。この記事では、日本の位置づけを知るための基準値として使い、現在の状況は次の章で自給率や輸入先の最新数字から補います。
なぜ日本は高くなるのか|自給率と輸入先の偏りを最新の数字で見る
フードマイレージは「量」と「距離」の掛け算なので、日本が高くなる理由も、輸入の量と輸入先の遠さに分けて考えると整理できます。ここでは、公表されている最新の数字で確かめます。
食料自給率はカロリーベースで37%
農林水産省が2026年8月に公表した令和7年度の食料自給率(概算値)は、カロリーベースが37%で前年度より1ポイント低下しました。生産額ベースは66%(前年度比プラス2ポイント)、摂取熱量ベースは45%(同マイナス1ポイント)です。
カロリーベースが下がった主因について、農林水産省は国産供給熱量の減少を挙げ、米の消費量が減って民間在庫が増えたことを説明しています。生産額ベースが上がったのは、米や畜産物の国内価格が上がり、国内生産額が増えたためです。
金額で見れば6割強が国産でも、エネルギーの源となる穀物や油脂、家畜の飼料は輸入への依存が大きいため、カロリーで見ると37%にとどまります。重さの大きい穀物類が海を渡ってくることが、t・kmを押し上げます。
輸入先が少数の国に集中している
令和7年版の食料・農業・農村白書によると、日本の農産物輸入額は約9兆8,431億円で、最大の輸入先は米国(約2兆450億円)です。中国、オーストラリア、タイ、カナダ、ブラジルを加えた6か国で、輸入額のおよそ6割を占めます。
品目別に見ると偏りはさらに強くなります。小麦はカナダ、米国、オーストラリアの3か国で99.8%、とうもろこしと大豆は上位2か国で8割以上を占めています。これらの国は日本から数千km以上離れているため、近隣のアジア諸国から運ぶ場合に比べて、同じ重さでもフードマイレージが大きくなります。
肉・卵・乳製品にも「見えない距離」がある
フードマイレージは、食卓に並ぶ完成品だけでなく、原料や飼料までさかのぼって数えます。そのため、国内で育てた牛や豚、鶏であっても、与えている飼料穀物が海外産なら、その輸送分が積み上がります。
加工食品も同じです。チョコレートなら、カカオや砂糖が運ばれてくる距離まで含めて考えるため、見かけの産地表示よりフードマイレージは大きくなる場合があります。パッケージの「国内製造」だけでは、実際の距離は測れません。
距離が短ければ環境に良いとは限らない|誤解されやすい3つのポイント
「フードマイレージが小さい食品を選べば環境に良い」という理解は、半分だけ正しい状態です。この指標は輸送という一側面だけを数値にしたもので、環境負荷の全体を表してはいません。誤解されやすい点を3つに分けて見ます。
輸送手段によってCO₂排出量は大きく変わる
フードマイレージは重さと距離の積であり、CO₂排出量そのものは計算しません。国土交通省は、貨物の単位輸送量あたりのCO₂排出量を輸送機関別に試算して公表しており、船舶や鉄道に比べて航空は桁違いに大きいことが知られています。
そのため、船で大量に運ばれた輸入品はt・kmが大きくても、重さあたりのCO₂は抑えられている場合があります。逆に、少量でも航空便で運ばれた食品は、t・kmが小さくてもCO₂の面では重い選択になりえます。距離だけでなく「どう運ばれたか」を合わせて見ることが大切です。
「国産」でも距離は一様ではない
国産という表示は、移動距離の短さを保証しません。北海道で収穫したじゃがいもが沖縄の店頭に並べば、直線距離でも2,000kmを超えます。同じ品種の野菜でも、沖縄で作られたものを沖縄で食べるなら、距離は大幅に短くなります。
「国産か輸入か」の二択で考えるより、「自分の住む地域からどれだけ離れた場所で作られたか」で考えるほうが、フードマイレージの実態に近づきます。
生産段階の排出は含まれない
国産の野菜でも、冬にハウスを暖房して育てた場合は、栽培に多くのエネルギーを使います。輸送距離が短くても、栽培段階のCO₂が大きくなるケースがあり、フードマイレージの数値にはこの分が現れません。
原材料の採取から生産、輸送、廃棄までを合算した指標がカーボンフットプリントです。フードマイレージは「輸送を可視化するもの」、カーボンフットプリントは「ライフサイクル全体を測るもの」と使い分けると、食料の環境負荷を多面的に捉えられます。
食卓からできる削減策|秋の今の時期に試しやすい3つ
9,000億t・kmという数字の前では、一人の買い物は小さく見えます。それでも、毎日の選択は積み重なります。10月末の今は、新米をはじめ、さつまいもやきのこ、りんごなど国内産の旬の食材が店頭に並ぶ時期で、産地を意識する練習にちょうどよい季節です。
産地表示を1品だけ見る習慣をつける
すべての食材の産地を気にするのは続きません。まずは毎週買うもの、たとえば卵や根菜、米などから1〜2品を選び、「どこで作られたか」を見る習慣から始めます。見るだけで構いません。
地元の直売所や産直コーナーがあれば、そこで買う品目を1つ決めておくのも有効です。運ぶ距離が短くなるうえ、生産者の顔が見えると、食材を大切に使う意識も生まれやすくなります。
旬の食材を選ぶ
旬の食材は、その土地の気候に合った時期に育つため、暖房や長距離輸送に頼らずに店頭へ届きやすい傾向があります。ただし品目や栽培方法によって異なり、旬であれば必ず低負荷とまでは言えません。
旬は収穫量が多く、価格も下がりやすい時期です。輸送や栽培のエネルギーを抑えやすいことと、家計への負担が軽くなることを同時に期待できる選び方といえます。
食品ロスを減らして、運んだ分を無駄にしない
環境省と農林水産省が2026年6月に公表した推計では、令和6年度の食品ロスは約461万トンで、そのうち家庭系が約224万トンでした。遠くから運ばれてきた食料を食べずに捨てれば、輸送に使ったエネルギーとCO₂も一緒に無駄になります。
買い物の前に冷蔵庫の中身を確認する、使い切れる量だけ買う、傷みやすいものから先に調理する。こうした日常の工夫は、フードマイレージの観点からも意味のある行動です。
輸入食品とどう付き合うか|「知って選ぶ」ための3つの問い
ここまで読んで、「輸入食品は避けるべきなのか」と感じた方もいるかもしれません。自給率が37%の日本では、すべてを近くの食料でまかなうことは現実的ではありません。フードマイレージが伝えているのは、輸入をやめることではなく、自分の食が環境とどうつながっているかを知る視点です。
選ぶときの判断に使える問いを3つにまとめます。
国産や近隣産で代えられる品目か
小麦や大豆のように、輸入への依存が極めて高い品目を一気に置き換えるのは難しい一方で、野菜や卵、果物のように国内で十分に生産されている品目は、無理なく切り替えられます。まずは「代えやすいもの」から選ぶほうが、続けやすくなります。
適正な取引で作られたものか
遠くで作られていても、生産者に適正な対価が支払われるフェアトレードの産品のように、現地の暮らしを支える側面を持つ食品があります。距離が長いことだけを理由に「悪い選択」と決めつけず、輸送と社会的な公正さの両方を見て判断します。
運ばれ方に違いはないか
同じ輸入品でも、船で運ばれたものと航空便で運ばれたものでは、CO₂の重さが大きく異なります。生鮮品で航空便を使うケースが多い品目は、産地や流通の表示を確認し、頻度を調整するだけでも違いが出ます。
まとめ
フードマイレージは、食料の輸送が環境に与える負荷を「輸送量×距離」で可視化する指標です。日本は2001年の試算で約9,000億t・kmと主要国のなかで際立って高く、その背景には、カロリーベース37%という食料自給率と、少数の遠い国への輸入集中があります。
ただし、この数字は輸送の一面しか見ておらず、国産が常に正解とも限りません。輸送手段、国内での移動距離、栽培時のエネルギー、そして食べ残しの有無まで合わせて見ることで、はじめて実態に近づきます。
大きな数字を前にして、一人の行動を小さく感じるのは自然なことです。それでも、買い物のたびに産地を見る、旬を選ぶ、食べきるという小さな選択は、毎日の食卓で繰り返せます。まず今週のお買い物で、1品だけ産地表示を見てみてください。
- フードマイレージは輸送量(t)×輸送距離(km)で、日本の輸入食料は2001年の試算で約9,000億t・km
- 日本の食料自給率は令和7年度でカロリーベース37%、輸入先は少数の遠い国に集中している
- 距離だけでなく、輸送手段・国内での移動距離・栽培時のエネルギーも合わせて見る必要がある
- 産地を見る、旬を選ぶ、食品ロスを減らすの3つが、食卓から始められる行動
- 輸入品を避けるのではなく、代えやすさ・取引の公正さ・運ばれ方を問いにして選ぶ
参考文献
- 農林水産政策研究所レビューNo.11 中田哲也「食料の総輸入量・距離(フード・マイレージ)とその環境に及ぼす負荷に関する考察」(2004年)
- 農林水産省「令和7年度食料自給率(概算値)の公表について」(2026年)
- 農林水産省 令和7年版 食料・農業・農村白書「第5節 輸入の安定化」(2026年)
- 環境省「我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和6年度)の公表について」(2026年)
- 国土交通省「環境:運輸部門における二酸化炭素排出量」(2026年)

