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ENVIRONMENT

持続可能な農業とは|定義・具体的な農法・日本の現状とSDGsとのつながりをわかりやすく解説

Photo by Kelvin T on Unsplash

持続可能な農業とは、土壌・水・生態系などの環境、農家の経営、地域社会という3つのバランスを保ち、いまの世代も将来の世代も食料を得続けられるようにする農業のことです(英語では Sustainable Agriculture)。ただ、意味がわかっても「日本では今どこまで進んでいるのか」「買い物をする自分は何を基準に選べばよいのか」までは見えにくいテーマです。この記事では、定義は最初のこの段落にとどめ、代表的な農法、日本の制度と最新の数字、水田のメタンを減らす取り組み、消費者としての選び方を順に見ていきます。

この記事で学べること

  • 持続可能な農業が必要とされる3つの背景と、有機農業との違い
  • 有機農業・輪作・アグロフォレストリー・スマート農業・再生型農業の特徴と難しさ
  • みどりの食料システム戦略の目標と、2024年度時点の有機農業の実績
  • 水田のメタンを減らす中干し延長とJ-クレジットの動き
  • 「有機を買えば十分」と言い切れない理由と、今日からの選び方

農業が抱える課題|環境・食料・担い手の3方向から

持続可能な農業が語られるのは、農業が環境に支えられている一方で、環境に負荷もかけている産業だからです。課題は大きく、環境への負荷、気候変動による食料の不安定さ、日本の担い手と地域の3方向に分けると整理しやすくなります。

環境への負荷

農地の開拓で森林などの自然環境が失われること、栽培に大量の水を使うこと、農薬や肥料が土壌や水質に影響を与えることが代表的な負荷です。化学肥料は製造に多くのエネルギーを使うため、肥料そのものが温室効果ガスの間接的な排出源にもなります。

日本では、水を張った田んぼの土の中でメタンが発生することも見逃せません。メタンは二酸化炭素より温室効果が強いガスで、稲作が盛んな日本では農業分野の排出を考えるときの重要な論点です。この点は後半で詳しく取り上げます。

気候変動と食料の安定

干ばつや豪雨、高温といった極端な天候は、収量や品質を不安定にします。単純に生産量を増やすだけでは、天候の振れ幅が大きくなる状況には対応しきれません。

日本は肥料の原料の多くを輸入に頼っています。海外情勢で価格が動くと、国内の農家の経営がすぐに影響を受けます。食料安全保障の観点からは、肥料を減らしても収量を保つ技術や、地域にある有機物を使う仕組みが課題になります。

日本の担い手と地域

日本固有の問題として、農業従事者の高齢化と後継者不足があります。2022年前後に起きた肥料価格の高騰は、経営の余力が小さい農家ほど重くのしかかりました。

土壌や地下水が疲れた農地は、次の世代に引き継ぎにくくなります。人が減れば農地の管理も難しくなるため、環境の持続性と担い手の持続性は切り離せません。持続可能な農業が「環境・経済・社会」の3つで語られるのはこのためです。

代表的な5つの農法|何を守る方法で、何が難しいのか

「持続可能な農業」という名前の農法が一つあるわけではありません。地域の気候や作物、農家の経営規模によって、次の5つのような手法を組み合わせます。どれが正解という話ではなく、それぞれ守れるものと難しい点が違います。

有機農業

化学合成農薬と化学肥料を使わず、堆肥や緑肥などの有機物で土づくりをする方法です。土の生き物の多様性を保ちやすい反面、雑草や病害虫への対応に手間がかかり、収量が安定するまでに時間がかかることがあります。

有機農業は持続可能な農業の代表的な手法ですが、同じ意味ではありません。水の使い方、働く人の暮らし、輸送のエネルギーまで含めて考えるのが持続可能な農業で、有機農業はその中の一つの選択肢です。

輪作・混作

同じ畑で作物の種類を順番に変える輪作や、複数の作物を同時に育てる混作は、古くから続く土壌管理の知恵です。特定の病害虫が増えにくくなり、前の作物が使った養分を次の作物が補う形になるため、肥料を減らす効果が見込めます。

難しいのは、作物ごとに販路や機械が必要になる点です。出荷先が決まっていない作物を植えるのはリスクになるため、地域での販路づくりとセットで進める必要があります。

アグロフォレストリー(農林複合経営)

農地に樹木を組み合わせる方法です。樹木の根が土の流出を防ぎ、落ち葉が土の養分になり、日陰が作物の環境を和らげます。コーヒーやカカオの産地で行われる日陰栽培が知られています。

収穫物を複数持てるので、価格が下がった作物だけに収入を頼らずに済み、生産者の生計の安定にもつながります。環境と社会の両面から持続可能性を高める手法として、フェアトレード認証と結びつく例も多くあります。

精密農業(スマート農業)

センサー、ドローン、衛星データなどで畑の状態を把握し、農薬、肥料、水を必要な場所に必要な量だけ使う方法です。使いすぎを防げるので、コストの削減と環境負荷の低減を同時に狙えます。

課題は初期投資です。機器の導入費や使いこなす人材の確保は、小規模な農家には大きな負担になります。共同利用やサービス事業者への委託など、規模に合った入り方を選ぶことが現実的です。

再生型農業(リジェネラティブ農業)

被害を減らすだけでなく、失われた土壌の炭素や生物多様性を取り戻そうとする考え方です。耕さずに栽培する不耕起栽培や、収穫の合間に別の植物を育てるカバークロップなどが代表的な手法です。

ただし効果の出方は気候や土質によって大きく異なり、どの条件でどれだけ炭素が蓄えられるかは研究が続いている段階です。「再生型」と名乗っていれば自動的に環境に良い、とは言い切れない点に注意が必要です。

日本の現在地|みどりの食料システム戦略と数字で見る進み具合

日本の方向性を決めているのが、農林水産省が2021年(令和3年)5月12日に決定した「みどりの食料システム戦略」です。生産から消費までの食料システム全体で、環境負荷を減らしながら生産力を高めることを目指しています。ここでは、目標、地域の動き、補助金の条件という3つの角度から現状を見てみます。

2050年の目標と2024年度の実績

戦略では、2050年までに化学農薬の使用量(リスク換算)を50%、化学肥料の使用量を30%低減し、有機農業の取組面積を耕地面積の25%(100万ヘクタール)まで広げることを掲げています。2030年の中間目標として、有機農業の面積は6.3万ヘクタールとされています。

では実績はどうでしょうか。農林水産省によると、2024年度の有機農業の取組面積は3.98万ヘクタールで、耕地面積に占める割合は0.9%でした。この数字には、有機JAS認証を取った農地だけでなく、認証は取らずに有機農業の基準で栽培している農地も含まれます。2022年の3.01万ヘクタール(0.7%)と比べると約3割増えており、方向としては着実に伸びています。

ただ、単純計算すると2030年の6.3万ヘクタールまでにあと約2.3万ヘクタールの上積みが要り、2050年の100万ヘクタールは2024年度の約25倍です。25%という数字は、有機農業だけで達成するというより、技術の進歩や他の環境負荷低減の手法とあわせて目指す性格の目標と見ておくのがよさそうです。

市町村単位で進めるオーガニックビレッジ

有機農業を一人の農家の努力にとどめず、生産から学校給食などの消費まで地域ぐるみで進める市町村を「オーガニックビレッジ」と呼びます。農林水産省は2025年までに100市町村、2030年までに200市町村を目標にしていました。

2024年6月の発表では、2023年度までの93市町村に31市町村が加わって124市町村となり、2025年の目標は前倒しで達成されました。農林水産省の資料では、2025年12月末時点で取り組む市区町村は154に広がっています。有機農産物を地元で買う人がいなければ、作る農家も増えません。出口までを地域で設計する発想が、この仕組みの特徴です。

補助金の条件が変わるクロスコンプライアンス

もう一つ、現場に影響が大きいのが「クロスコンプライアンス」です。農林水産省の補助事業を受ける際に、最低限の環境負荷低減の取り組みを実践することを条件にする仕組みで、2024年度から2026年度までは試行実施の期間とされています。今年度がその最終年度にあたります。

申請者は「みどりチェックシート」で、法令の遵守、適切な施肥、適切な防除、生物多様性への配慮、省エネ、悪臭や害虫の発生防止、廃棄物の適正な処理といった基本の取り組みを確認します。試行を経て、全ての補助事業等に対して要件化していく方針です。補助金を受ける側の農家にとっては、環境への配慮が「できれば望ましいこと」から「前提」に変わっていく流れです。

水田のメタンを減らす|中干し延長とJ-クレジット

日本の持続可能な農業を考えるうえで、水田は避けて通れません。田んぼに水を張ると土の中の酸素が少なくなり、メタンをつくる微生物が活動してメタンが発生します。農林水産省の資料でも、農業分野のメタン排出で稲作が大きな割合を占めると説明されています。

田んぼから出るメタンと中干し延長

対策の一つが「中干し」の延長です。中干しは、稲の生育の途中で田んぼの水をいったん抜いて土を乾かす作業です。この期間を従来より長くすると、土が酸素に触れてメタンが出にくくなります。J-クレジット制度では、中干し期間を7日間以上延長する取り組みが削減手段として認められています。

秋にも手があります。収穫後の稲わらを秋のうちにすき込む「秋耕」は、春にすき込むより田んぼのメタンの発生を抑えやすいとされる管理です。新米が店頭に並ぶいまの時期は、田んぼ側では次の作に向けた土づくりが始まる頃でもあります。

認証された最初のプロジェクト

農林水産省は2024年1月26日、「水稲栽培における中干し期間の延長」の方法論に基づくクレジットを国内で初めて認証したと発表しました。認証されたのは3つのプロジェクトで、運営するのは企業です。

  • Green Carbon株式会社の「水田の中干し期間の延長によるメタンガスの削減プロジェクト」(認証量6,220t-CO2)
  • 株式会社フェイガーの「水稲栽培における中干し期間の延長プロジェクト」(5,955t-CO2)
  • NTTコミュニケーションズ株式会社の「水田の中干し期間の延長によるメタンガスの削減プロジェクト」(114t-CO2)

同じ発表では、株式会社バイウィルや伊藤忠食糧株式会社による新たなプロジェクトの登録も承認されています。農家が削減した分をクレジットとして企業に売ることで、環境への取り組みが農家の収入にもなる仕組みです。

現場で気をつけたい点

中干しの延長は、どの田んぼでもそのまま使えるわけではありません。用水の確保のしやすさ、品種、気候によって、水を抜く時期や期間の適否が変わります。延ばしすぎると稲の生育や品質に影響する可能性もあるため、地域の指導機関の情報を確認しながら進めることが前提です。

削減量を記録し、第三者が確認できる形で残す手間もかかります。事業者が窓口になってまとめて申請する形が広がっているのは、こうした農家個人の負担を減らす狙いがあります。

SDGsとのつながり|ゴール2だけではない

持続可能な農業とSDGsの関係は、「ゴール2だけの話」と受け取られがちです。実際には、複数のゴールが同じ畑でつながっています。

ゴール2に含まれる「持続可能な農業」

SDGsのゴール2は「飢餓をゼロに」で、飢餓の終結、食料安全保障、栄養の改善とあわせて、持続可能な農業を促進することを掲げています。食料をたくさん作ることだけでなく、それを将来も続けられる形で作ることが、目標の中に最初から入っています。

他のゴールとの連動

農薬や化学肥料の削減は、ゴール12(つくる責任 つかう責任)につながります。水田のメタン削減や土壌への炭素の蓄積はゴール13(気候変動に具体的な対策を)、生物多様性の保全はゴール15(陸の豊かさも守ろう)に結びつきます。農家が適正な収入を得られることはゴール1(貧困をなくそう)にも関わります。

一つの農法が複数のゴールに効く場合もあれば、片方を進めるともう片方に負担が出る場合もあります。たとえば、収量が下がりやすい手法を選べば、価格や担い手の面でゴール1との折り合いが必要になります。ゴールの数を数えるより、地域の中でどのバランスを選ぶのかを見ることが大切です。

買い物で後押しする|誤解しやすい点と選び方

ここまでは作る側の話でしたが、選ぶ側にもできることがあります。その前に、よくある誤解を整理します。

「有機を買えば十分」と言い切れない理由

有機認証のついた野菜を選ぶことは、農薬や化学肥料の削減を後押しします。これは確かな効果です。一方で、持続可能な農業は「誰が、どこで、どんな条件で作ったか」という社会面や、輸送のエネルギー、包装の量も含む考え方です。

遠い産地から冷蔵で運ばれた有機野菜と、近隣で栽培された慣行栽培の野菜のどちらが環境負荷が小さいかは、一概には決められません。ラベルは判断材料の一つであり、ラベルだけで判断が終わるわけではない、と考えておくと選びやすくなります。

認証がなくても見えてくる実践

有機JAS認証の取得には、費用と書類の手間がかかります。認証は取っていなくても、堆肥づくりや農薬の削減に取り組んでいる農家もいます。先に触れたとおり、有機農業の取組面積の数字には認証を取っていない農地も含まれています。

産地の直売所で、売り場の人や農家に栽培の工夫を聞いてみると、ラベルでは見えない実践がわかることがあります。もちろん、認証マークを選ぶ意味がなくなるわけではありません。認証と対話の両方を判断材料にする、という使い分けです。

今日からできる選び方

生産者でなくても、次のような選び方で農業を支えられます。全部やる必要はなく、続けやすいものを一つ選べば十分です。

  • 近くの直売所や、地域の農家と継続的につながる仕組み(CSA)を使い、農家の経営を安定させる
  • コーヒー、チョコレート、バナナなどの輸入農産物は、フェアトレードや有機などの認証マークを確認して選ぶ
  • 旬の食材を選び、ハウス栽培で使う暖房のエネルギーを抑える
  • 買いすぎや食べ残しを減らし、必要以上の生産に伴う農地への負担を減らす

秋は新米や根菜、きのこ、果物など、旬の食材が多く出回る季節です。お近くの直売所や、各地で開かれる収穫の催しをのぞいて、作り手に栽培の話を一つ聞いてみるのも一歩になります。

まとめ

持続可能な農業は、環境・経済・社会の3つのバランスを保ちながら、次の世代にも食料を残す農業の考え方です。有機農業はその代表的な手法ですが、輪作、アグロフォレストリー、スマート農業、再生型農業など、地域や作物に合わせた多様な方法が組み合わさって成り立ちます。

日本では、みどりの食料システム戦略のもとで制度が動いています。2024年度の有機農業の取組面積は3.98万ヘクタール(0.9%)で、2030年の6.3万ヘクタール、2050年の100万ヘクタールという目標までには大きな距離があります。一方で、オーガニックビレッジは154市区町村に広がり、水田の中干し延長はJ-クレジットとして複数の企業が事業化するなど、地域と企業の動きは具体的になってきました。

消費者にできることは、認証マークと産地の情報を組み合わせて選び、地元の農家とつながり、旬の食材を選ぶことです。まず、次に買う野菜やコーヒーの産地とマークを一度確かめるところから、試してみてください。

  • 持続可能な農業は、環境・経済・社会の3つのバランスを保ち、次世代まで続けられる農業の考え方
  • 有機農業は代表的な手法の一つで、輪作、アグロフォレストリー、スマート農業、再生型農業などと組み合わせて進む
  • 2024年度の有機農業の取組面積は3.98万ヘクタール(0.9%)で、2030年に6.3万ヘクタールが目標
  • 水田のメタンを減らす中干し延長は、J-クレジットとして複数の企業が事業化している
  • 有機認証、産地、作り手との対話を組み合わせて選ぶことが、農業を後押しする近道

参考文献

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