「木を燃やすのに、どうして再生可能エネルギーと呼ばれるの?」「海外から燃料を運んでいるなら、むしろ環境に悪いのでは?」と疑問に思う方は多いはずです。
結論から言うと、日本の木質バイオマスの環境価値は、燃料の出どころと使い方で大きく変わります。利用量は増えていますが、増えた分がどんな燃料で、発電と熱のどちらに使われているかを見ないと、良し悪しは判断できません。
環境NGOでキャンペーンを設計していた頃から、この分野は「賛成か反対か」の二択で語られやすいと感じてきました。実際には、見るべき点を絞れば判断はかなり整理できます。この記事では、最新の統計と制度の動きをもとに、疑問に順番に答えていきます。
日本の木質バイオマス利用はどこまで増えているのか
まず「そもそもどのくらい使われているの?」という疑問から確認します。結論は、木材チップも木質ペレットも増え続けていて、特にペレットの伸びが目立つ、ということです。
木材チップと木質ペレットの利用量
農林水産省の木質バイオマスエネルギー利用動向調査によると、令和6年にエネルギーとして使われた木材チップは1,232万6,366絶乾トンでした。絶乾トンとは、水分を除いた乾燥重量に換算した単位です。令和7年の概数では1,255万6,925絶乾トンで、前年比は101.9%とされています。
木質ペレットの伸びはさらに大きく、令和5年の394万1,049トンから令和6年は528万5,186トンへ、前年比34.1%増でした。平成29年の37万5,383トンと比べると、約14倍です。
発電に偏った利用の姿
増えた量の多くは発電用です。NPO法人バイオマス産業社会ネットワークの「バイオマス白書2025」によると、FIT・FIP制度(再生可能エネルギーを一定価格で買い取る仕組み)でバイオマス発電が稼働している施設は、2024年末時点で729か所、約578万kWです。そのうち一般木質バイオマスが稼働容量の75%を占めています。
なお、この数字にはメタン発酵や廃棄物系のバイオマスも含まれます。木質に限った数字ではない点には注意してください。
再生可能エネルギー全体の中での位置づけを整理したい方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。
木を燃やしてもCO2は増えないのか
ここで多くの方が引っかかるのが、「燃やせばCO2が出るのだから、温暖化対策にならないのでは?」という疑問です。この疑問は的外れではありません。一方で、「燃やしてもCO2はゼロ」という説明も、そのまま信じると誤解につながります。
「カーボンニュートラル」と呼ばれる理由
樹木は成長するとき、大気中のCO2を吸収して幹や枝に蓄えます。木を燃やして出るCO2は、もともと大気から取り込んだ分なので、排出量の計算上は差し引きゼロとして扱われます。この考え方が、木質バイオマスが再生可能エネルギーに分類される土台です。
それでも議論が残る理由
よくある誤解は、「だから木ならいくら燃やしても安全」というものです。実際には、ゼロとみなせるのは、伐採した後の森林が再び育ち、吸収量が回復する場合に限られます。成長には時間がかかるうえ、伐採、加工、乾燥、輸送の工程では化石燃料が使われます。遠い国から船で運べば、その分の排出も加わります。
日本の制度がライフサイクルでのGHG(温室効果ガス)排出量を確認する仕組みを設けているのは、このためです。バイオマス白書2025の整理では、化石燃料との比較での削減水準は現在50%で、2030年度以降は70%に引き上げられる予定です。
輸入燃料への依存は何が問題なのか
次の疑問は、「国産の木を使うなら安心だとしても、日本は輸入に頼っているのでは?」というものです。これは、現状を見るとかなり重い論点です。
輸入ペレットとPKSの規模
バイオマス白書2025によると、2024年の木質ペレット輸入量は638万トンで、2023年の581万トンから約1割増えました。ヤシ殻(PKS)は600万トンで、2023年の587万トンから微増です。輸入ペレットでは、米国からの輸入が減り、マレーシア(約40万トン)やインドネシア(約31万トン)からの輸入が増えています。
輸入統計と、先ほどの利用動向調査は集計の対象が異なります。数字を単純に並べて比較することはできません。
持続可能性の懸念と供給リスク
同じ白書は、インドネシア産ペレットが2021年の3.8万トンから2024年には31.5万トンへ増え、天然林由来の丸太がペレットになっている事例や、生物多様性上重要な地域がエネルギー用の産業植林地に含まれている可能性を指摘しています。これは主に市民団体や研究者による指摘であり、すべての輸入燃料に当てはまるわけではありません。ただ、森林減少や人権の問題が残りやすいという構造上の懸念は、複数の資料で共通しています。
供給面のリスクもあります。同白書は、米国の大手ペレット製造企業エンビバ社が2024年3月に経営再建の法的手続きに入り、日本企業が結んでいた長期契約にも影響が及ぶと報告しています。
2026年度からの制度の変化
こうした状況を受け、制度も動いています。資源エネルギー庁の方針により、1万kW以上の一般木質等(輸入バイオマスなど)と、全規模の液体燃料によるバイオマス発電は、2026年度以降の新規認定がFIT・FIP制度の支援対象外になりました。
あわせて、PKSには第三者認証の取得が求められるようになり、改正クリーンウッド法に基づく合法性の確認も燃料調達の要件に加わります。大規模な輸入燃料頼みの発電を、国が支援の対象から外し始めたということです。
国のエネルギー計画での位置づけ
第7次エネルギー基本計画では、2040年度に再生可能エネルギーを電源構成の4〜5割程度とし、そのうちバイオマスは5〜6%程度とされています。バイオマスが主役になる計画ではなく、太陽光や風力を補う位置づけです。
木質バイオマス以外の再生可能エネルギーの動向も知りたい方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。
熱利用は発電と何が違うのか
「結局、木質バイオマスは使わないほうがいいの?」と思われたかもしれません。そうではありません。同じ木でも、使い方次第で評価は変わります。そこで注目されているのが、熱利用です。
エネルギーを無駄にしにくい熱利用
林野庁の資料では、木質バイオマス発電のエネルギー変換効率は20%程度なのに対し、熱利用では80%以上に達するとされています。同じ量の木から取り出せるエネルギーが、熱利用のほうが数倍多いという計算です。林野庁と経済産業省が、熱利用や熱電併給(発電と熱を同時に取り出す方式)を推すのは、この効率の差が理由です。
北海道の自治体に見る地域熱供給
北海道の資料によると、下川町は11基の木質バイオマスボイラーで31の公共施設に熱を供給し、公共施設全体の熱需要の68%を賄っています。道の資料には、年間約3,800万円の燃料コスト削減と約3,070トンのCO2削減効果も示されています。
知内町は2基のボイラーで4つの公共施設に熱を届け、指定管理者制度を使って地元の民間企業を運営に関わらせることで、雇用の創出にもつなげています。上川町では、地上コンテナ型のボイラーを使い、導入コストと設置スペースを抑えた事例があります。
熱利用の難しさも知っておく
熱利用には弱点もあります。熱は遠くへ運ぶと失われやすいため、温泉施設、役場、学校、農業用ハウスなど、近くに熱の使い手がいる地域でないと成り立ちにくいのです。燃料の安定供給や、ボイラーの運用を担う人材も必要になります。だからこそ、地域の森林から出る間伐材や林地残材を、近くの施設で使い切る小さな循環が、最も評価されやすい形になります。
読者の迷いを3つの問いに整理する
ここまでの話を踏まえると、ニュースや自治体の計画を見るときの判断は、3つの問いに絞れます。環境分野の仕事をしていると、情報の多さに迷う方が多いと感じます。そのときは、細かな数字を追う前に、次の問いに戻ると整理しやすくなります。
問い1 燃料はどこから来たのか
国内の間伐材や林地残材なのか、遠方からの輸入ペレットやPKSなのかで、輸送の排出や森林への影響が変わります。輸入であれば、産地と、第三者認証の有無が確認できるかが分かれ目です。
問い2 熱を使い切っているのか
発電だけなのか、熱も使っているのかで、同じ木から得られるエネルギー量は大きく変わります。計画に熱の使い道が書かれていなければ、効率面の説明が不足している可能性があります。
問い3 第三者が確認できる形になっているのか
認証、ライフサイクルGHGの確認、燃料の調達計画などが公開されているかを見ます。「環境にやさしい」と書かれていても、根拠が示されていなければ判断のしようがありません。この3問に答えが出ているかどうかが、グリーンウォッシング(実態以上に環境配慮をうたうこと)を見分ける最低ラインです。
今日から試せる1つのアクション
ここまで読んで、「自分には何ができるのか」と感じた方もいるはずです。大きな行動を起こす必要はありません。まず、今日できることを1つだけ紹介します。
お住まいの市区町村名に「木質バイオマス」を加えて検索し、地元の公共施設や温泉施設でボイラーが使われていないかを確認してみてください。見つかれば、燃料がどこの森から来ているかを自治体のページで読んでみましょう。見つからなければ、それ自体が地域の現状を知る手がかりになります。
自分の暮らす地域の「熱の使い手」を知ることは、先ほどの3つの問いを自分ごととして考える第一歩になります。結果がどちらでも、ニュースの見え方が変わるはずです。
まとめ
日本では、木材チップも木質ペレットも利用量が増えています。ただし増えた分の多くは発電用で、輸入燃料への依存や持続可能性への懸念も同時に大きくなっています。国は2026年度から、1万kW以上の一般木質バイオマス発電の新規認定をFIT・FIP制度の対象外とし、認証やGHG確認の仕組みも強めています。
一方で、熱利用は効率が高く、地域の森林と施設を結ぶ形で成果を出している自治体があります。木質バイオマスの価値は、「使うか使わないか」ではなく、「どの燃料を、どんな形で使うか」で決まります。
判断に迷ったら、燃料の出どころ、熱を使い切っているか、第三者が確認できるかの3つの問いに戻ってみてください。まず1つ、地元の木質バイオマス施設を検索することから始めてみてはいかがでしょうか。
- 日本の木質バイオマス利用は、チップ(令和6年に約1,233万絶乾トン)もペレット(同約529万トン)も増えている
- 木を燃やしてもCO2がゼロになるのは、森林が回復する場合に限られ、伐採や輸送の排出は別に見る必要がある
- 輸入ペレットとPKSは合計約1,240万トン(2024年)に達し、産地や認証の確認が欠かせない
- 2026年度から、1万kW以上の一般木質バイオマス発電は新規でFIT・FIP制度の対象外になった
- 熱利用は効率が80%以上とされ、下川町など地域の施設で成果が出ている
参考文献
- NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書2025 トピックス 2. 輸入バイオマスの問題」(2025年)
- NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク「バイオマス白書2025 トピックス 1. 2024-2025年のFIT/FIP制度の動向」(2025年)
- 農林水産省「令和7年木質バイオマスエネルギー利用動向調査結果」(2026年)
- 北海道水産林務部林務局林業木材課「木質バイオマス熱利用のすすめ」
- 林野庁木材利用課「木質バイオマスエネルギーの利用推進について」(2025年)



