「環境税」という言葉をニュースで見かけて、日本にもそういう税金があるのだろうかと気になった方は多いのではないでしょうか。実は「環境税」という名前の単独の税金は、日本には存在しません。地球温暖化対策のための税や森林環境税、自治体独自の税金など、複数の制度がまとめて「環境税」と呼ばれているのが実情です。ESG開示やカーボンプライシングの取材を続けてきた立場から、混同されやすいこれらの制度を整理し、家計や企業にどう関わってくるのかを見ていきます。
「環境税」という名前の税金は日本に存在しない
まず整理しておきたいのは、日本の税法上に「環境税」という条文が単独で存在するわけではないという点です。環境や気候変動対策を目的とした税制はいくつか導入されていますが、それぞれ名称も課税対象も異なります。「環境税イコール1つの制度」と思い込んでいると、ニュースで別々の話が出てくるたびに混乱してしまいます。ここでは代表的な3つの制度に分けて見ていきましょう。
地球温暖化対策のための税|化石燃料に上乗せされる仕組み
もっとも「環境税」のイメージに近いのが、2012年10月に導入された地球温暖化対策のための税です。これは新しい税目を作ったわけではなく、既存の石油石炭税にCO2排出量に応じた税率を上乗せする形で設計されました。最終的な税率はCO2排出量1トンあたり289円相当とされ、急激な負担増を避けるため2012年から2016年にかけて3段階で引き上げられています。課税対象は原油や石油製品、天然ガス、石炭などの化石燃料で、輸入・採取の段階で徴収される仕組みです。税収は省エネルギー設備の導入支援や再生可能エネルギーの普及促進など、エネルギー起源CO2の排出削減対策に充てられるとされています。
森林環境税|2024年度から住民税とあわせて徴収される国税
もう一つ知っておきたいのが、2024年度から徴収が始まった森林環境税です。こちらは個人住民税の均等割にあわせて、年額1,000円が国税として課税される仕組みになっています。「急に負担が増えたのでは」と身構える方もいるかもしれませんが、実務上はそれまで復興特別税として上乗せされていた分がちょうど終了するタイミングと重なっており、多くの人にとって住民税の総額自体はほぼ変わらない設計になっています。集められた税収は森林環境譲与税として市区町村に配分され、森林整備や担い手の確保、木材利用の促進などに使われる仕組みです。なお譲与税としての配分自体は、国税としての徴収開始に先立って2019年度から始まっており、財源には借入金が充てられていました。
自治体独自の環境関連税|高知県などの先行事例
さらにややこしいのが、都道府県が独自に導入している森林保全・水源保全のための税です。全国に先駆けて高知県が森林環境税を導入したのをはじめ、その後多くの都道府県が同種の税を条例で設けてきました。神奈川県の水源環境保全税のように、名称に「環境」がつかないケースもあります。これらは国の森林環境税とは別建ての地方税であり、両方が同時に課されている地域も少なくありません。「二重課税なのでは」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、制度上は目的や課税根拠が異なる別の税として整理されています。
2026年からのGXカーボンプライシングで何が変わるのか
ここまでの3つは既存の税制ですが、もう一つ押さえておきたいのが、GX(グリーントランスフォーメーション)推進法に基づくカーボンプライシングの導入です。「環境税とは別物なのか」と思われるかもしれませんが、位置づけとしては炭素に価格をつける新しい仕組みであり、既存の温暖化対策税とは別のレイヤーで動き始めています。
具体的には、多量に排出する事業者を対象とした排出量取引制度(GX-ETS)への参加が2026年度から義務化される計画になっています。将来的には発電事業者を対象とした有償オークションの導入や、化石燃料の輸入事業者などを対象とした賦課金の段階的な引き上げも予定されており、時間をかけて炭素コストを本格的に価格へ組み込んでいく設計です〔要確認〕。筆者がサステナビリティ報告書の取材で接する範囲でも、鉄鋼や化学、電力といった排出量の多い業種を中心に、複数の企業が社内炭素価格を独自に設定し、将来のコスト増を投資判断に織り込む動きを進めています。ただし社内炭素価格の水準や運用方法は企業ごとにばらつきが大きく、開示を読み比べても算定根拠まで詳細に説明している例はまだ限られている、というのが取材を通じた実感です。
GXカーボンプライシングをはじめとする気候変動対策の政策動向については、上の記事でもあわせて取り上げています。
家計にとって環境税はどこに現れるのか
「結局、自分の生活にどう影響するのか」というのが一番気になるところだと思います。地球温暖化対策のための税は、ガソリンや電気・ガスの価格にすでに組み込まれているため、レシートや請求書に単独の項目として表示されることはほとんどありません。負担していること自体に気づきにくい税金だといえます。
一方で森林環境税は違います。毎年届く住民税決定通知書を見ると、均等割の欄に森林環境税として1,000円が記載されているはずです。「そんな項目、見た記憶がない」という方は、次に通知書が届いたタイミングで一度確認してみることをおすすめします。自分がどんな環境関連の税を払っているのか把握することは、税の使われ方に関心を持つ第一歩になります。
よくある誤解|税金を払うこと自体が環境貢献になるわけではない
ここで整理しておきたい誤解が一つあります。環境税や森林環境税を払うと、それだけで自動的に環境に貢献した気持ちになりがちですが、これらはあくまで目的税であり、使い道が森林整備や省エネ支援などに特定されているという制度上の位置づけにすぎません。税金を払うこと自体が排出削減や森林保全の成果を保証するわけではなく、集めた財源が実際にどう使われ、どんな効果を生んでいるかは別途検証が必要だという点は、グリーンウォッシュを避ける意味でも押さえておきたいところです。制度の効果や税率の水準については、国内外で今も議論が続いています。
温暖化対策税の税収がどのように再生可能エネルギーの普及支援へ回っているかについては、上の記事も参考になります。
まずは今日、お手元の住民税決定通知書か給与明細を確認し、森林環境税や関連する項目が記載されているかどうかを見つけてみてください。何にいくら払っているかを知ることが、税の使われ方をチェックする出発点になります。
まとめ|日本の環境税を理解する3つのポイント
- 「環境税」という単独の税は存在せず、地球温暖化対策税・森林環境税・自治体独自税などの総称として使われている
- 2026年度からはGX-ETSへの参加義務化など、企業向けのカーボンプライシングが新たな段階に入る
- 森林環境税は住民税決定通知書で確認でき、税を払うこと自体が環境貢献の証明にはならない点に注意したい
本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。
参考文献
- 環境省「地球温暖化対策のための税」(環境省ウェブサイト、https://www.env.go.jp/)
- 総務省「森林環境税・森林環境譲与税」(総務省ウェブサイト、https://www.soumu.go.jp/)
- 経済産業省「GX(グリーントランスフォーメーション)の推進」(経済産業省ウェブサイト、https://www.meti.go.jp/)



