カーボン・ニュートラル製品とは、原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄までの温室効果ガスの排出を、削減や森林などによる吸収・除去で差し引き実質ゼロにした製品のことです。ただし「カーボンニュートラル」という言葉に法律上の統一された定義はなく、同じ表示でも中身が大きく異なります。この記事では、定義を押さえたうえで、日本の最新の表示ルール、海外の動き、店頭で確認できるポイントまで順に整理します。
「カーボンニュートラル」と書かれた製品には3つのタイプがある
店頭やネット通販で見かける環境表示は、同じ言葉でも意味するものが違います。まず、どのタイプの表示なのかを見分けることが、選ぶときの出発点になります。
排出量を数値で示すタイプ(カーボンフットプリント)
カーボンフットプリント(CFP)は、製品のライフサイクル全体で出た温室効果ガスをCO2に換算した値です。環境省はこの考え方で説明しています。このタイプは「ゼロ」を名乗るのではなく、「この製品は約〇g」と排出量そのものを示します。
数値が分かると、削減の進み具合を比べやすくなります。一方で、比べられるのは算定のルールがそろっている場合に限られます。
排出を相殺して「実質ゼロ」とするタイプ
製造や輸送で出た排出のうち、減らしきれない分を、クレジットの購入などで埋め合わせる表示です。「カーボンオフセット」「カーボンニュートラル」と書かれる製品の多くが、この考え方です。
クレジットには、省エネ設備の導入による排出削減量や、森林管理による吸収量を国が認証する日本のJ-クレジットなどがあります。この制度は経済産業省、環境省、農林水産省が運営しています。
事業所や会社全体で達成を掲げるタイプ
製品単体ではなく、工場や会社の事業活動全体でカーボンニュートラルを目指している、という表示です。パッケージに載っていても、その製品自体のライフサイクルの排出が相殺されているとは限りません。
3タイプを見分けるときの見方
見るべきは「何を、どこまで、どの方法でゼロにしたのか」です。数値なのか、相殺なのか、会社全体の目標なのかで、読み取れる情報量はまったく変わります。
「実質ゼロ」の中身は、削減と相殺で分けて考える
「実質ゼロ」は、排出量から吸収・除去量を引いた結果がゼロという意味で、排出がなくなったことを意味しません。そのため、同じ「ゼロ」でも、減らした結果なのか、買った結果なのかで意味が変わります。
国際規格は削減を優先する
2023年11月30日に発行された国際規格のISO 14068-1(気候変動マネジメント、ネットゼロへの移行、カーボンニュートラル)は、組織と製品(財・サービス)の両方を対象にしています。排出量の算定、削減、オフセットを通じてカーボンニュートラルを達成・実証するための原則と要求事項を示しています。
この規格は、自社やバリューチェーンでの排出削減や除去の強化を、オフセットよりも優先する階層を定めています。つまり、国際的な考え方でも、クレジットで帳尻を合わせる前に、まず減らすことが求められています。
吸収は永続するとは限らない
植林や森林管理による吸収は、育った木が伐採や火災で失われると、蓄えた炭素が再び大気に戻る可能性があります。バイオマス由来の燃料も、燃やして出たCO2を別の植物が継続的に吸収してはじめて、収支が合う考え方です。
削減と吸収のバランスが、製品が売られている間ずっと保たれているかどうかが、本質的な論点になります。
製品の「ライフサイクル」はどこまで含むか
原材料の採掘や調達、製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまでを含めて数えるのが基本です。植物由来の原料でも、加工や輸送には化石燃料が使われます。
表示の根拠に、どの段階が算定範囲に入っているかが書かれているかどうかは、信頼性を判断する大きな手がかりになります。
日本の制度は2025〜2026年に表示ルールの整備が進んだ
日本では、表示の信頼性をめぐるルールが、ここ1〜2年で相次いで見直されました。「定義が統一されていない」という課題に対して、制度の側も動いています。
CFP表示ガイド(2025年)
環境省と経済産業省は、2025年に「カーボンフットプリント表示ガイド」を公表しました(表紙は2025年3月付)。事業者がCFPを表示しやすくし、消費者の認知と理解を高めることを目的にしています。
その背景には、2023年3月に両省が公表した「カーボンフットプリント ガイドライン」があります。これらは法的な強制力を持つものではなく、事業者が表示するときの手引きという位置づけです。
環境表示ガイドラインの改定(2026年3月31日)
環境省は2026年3月31日に「環境表示ガイドライン」の改定を公表しました。対象は、主に自己宣言で環境表示を行う事業者です。
改定の背景として、環境省はネット・ゼロへの対応やグリーン製品の市場拡大でグリーンウォッシュへの関心が高まっていることを挙げています。国内企業が萎縮せずに取り組みを訴求できるよう、適切な情報提供のしかたを整理した、としています。
消費者庁の環境ラベル調査(2026年8月)
消費者庁は2026年8月に、環境ラベルの実態調査の報告書を公表しました。広告で使われている環境ラベル139種類をサンプル調査し、事業者15者と第三者認証ラベルの運営3機関へのヒアリング、一般消費者1,000名へのアンケートも行っています。
アンケートでは、商品を選ぶときに環境ラベルを参考にする人が約3割から約4割でした。調査では、139種類のうち20種類で、環境配慮が商品本体、包装、またはその両方のどれを指すのかが不明確でした。原材料の環境配慮を訴える62種類のうち29種類は、使用割合を数値で示していませんでした。
消費者庁は、実際より著しく環境に配慮していると消費者に誤認させる場合、景品表示法上の優良誤認表示として問題になるという考え方を示しています。
大阪府で進む、店頭でのCFP表示の実践
地域での実践もあります。大阪府は、府内の小売店で商品にCFPを表示する取り組みを進めています。2025年10月版の事例集では、江崎グリコが「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」の一環として、府内のスーパーでCFPの算定ラベルを商品に付けた例が紹介されています。取引先からの排出量開示の要請に備え、標準的な算定手法を確かめることが目的の一つとされています。
海外ではオフセットに頼った表示が制限され始めた
日本の消費者にも、海外の動きは無関係ではありません。輸入品を買うときや、EU向けに販売する企業が国内にある場合に影響するためです。
EUの新ルールが2026年9月27日から適用
EUの「グリーン移行に向けた消費者のエンパワーメント指令」は、2026年9月27日から加盟国で適用が始まりました。事業者から消費者への取引で、温室効果ガスのオフセットを根拠に「排出への影響が中立、低減、プラス」と主張する表示が禁止されます。
「禁止」の範囲を正しく読む
これは、気候対策を語ること自体の禁止ではありません。サプライチェーン内での実際の削減を伝えることは認められています。クレジットを買い入れて「ゼロ」と名乗る手法が、表示として使いにくくなる、と受け止めるのが現実に近い読み方です。
また、「climate friendly」のような漠然とした環境表示にも厳しい規則が適用され、検証されていないサステナビリティラベルは外す必要があるとされています。
日本の読者が押さえておきたいこと
日本の景品表示法やガイドラインは、EUのように相殺表示を一律に禁じる形にはなっていません。ただし、海外の規制は国内の企業の表示にも影響します。今後、日本でも相殺に頼った表示の見せ方が変わっていく可能性があります。
店頭やネットで確認したい5つのポイント
ここからは、買い物の場面での使い方です。完璧に見抜こうとせず、次の5点のうち、ひとつでも確認できれば判断材料が増えます。
- 何がゼロなのか(製品本体か、包装か、会社全体か)が書かれているか
- 算定の範囲(原材料から廃棄までのどこまでか)が示されているか
- 削減と相殺の内訳が分かるか(相殺だけで「ゼロ」にしていないか)
- 第三者による検証や認証があるか、その名称が確認できるか
- 数値や根拠の詳細を、公式サイトやレポートで確認できるか
根拠が見つからないときの考え方
詳しい根拠が見つからない場合は、すぐに「悪い製品」と決めつける必要はありません。「根拠が確認できなかった」という事実として受け止め、同じ用途の別の製品と見比べる程度で十分です。
数字があれば、同じ条件で比べる
CFPの数値が載っている製品どうしを比べるときは、単位(1個あたりか、100gあたりか)と算定のルールがそろっているかを確認します。条件が違うと、数字の大小だけでは優劣を判断できません。
誤解されやすい3つの対比
最後に、カーボン・ニュートラル製品について起こりやすい思い込みを整理します。
「ゼロ」と書いてある製品は、排出していない
排出していないのではなく、排出した分を差し引いてゼロにした、という意味です。排出量を減らした製品と、買ったクレジットで帳尻を合わせた製品では、環境への取り組みの質が異なる場合があります。
「カーボンニュートラル」なら何を選んでも同じ
算定範囲や方法が事業者ごとに異なることがあり、同じ言葉でも同じ水準とは限りません。だからこそ、前のセクションの確認ポイントが役に立ちます。
選ぶことに意味はないのでは
一人ひとりの買い物は小さな行動ですが、根拠を説明している企業の製品を選ぶことは、きちんと情報を出す企業が評価される流れを後押しします。消費者庁の調査でも、約3割から約4割の人がラベルを参考にしていると答えています。ラベルが選択に影響を与える以上、見る側の関心は表示のあり方にも届きます。
まとめ
カーボン・ニュートラル製品は、排出を削減や吸収・除去で差し引きゼロにした製品を指しますが、言葉の定義や算定の方法はまだそろっていません。表示には、排出量を数値で示すもの、相殺で実質ゼロにするもの、会社全体の目標を掲げるものがあり、まずどのタイプかを見分けることが大切です。
日本では、2025年のCFP表示ガイド、2026年3月の環境表示ガイドライン改定、同年8月の消費者庁の環境ラベル調査と、表示の信頼性を高める動きが続きました。海外では、EUが2026年9月27日から、オフセットを根拠にした中立表示を制限し始めています。
秋の買い物の機会に、気になる製品がひとつあれば、パッケージや公式サイトで「何がゼロなのか」だけでも確かめてみてください。
- 「カーボンニュートラル」には、数値表示、相殺、会社全体の目標という複数のタイプがある
- 国際規格は、オフセットより先に排出の削減を優先する考え方を示している
- 日本では2025〜2026年にCFP表示ガイド、環境表示ガイドライン改定、消費者庁調査が相次いだ
- EUは2026年9月27日から、オフセットを根拠にした中立表示を禁じる規則の適用を始めた
- 選ぶときは、対象、算定範囲、削減と相殺の内訳、第三者検証、詳細情報の5点を見る
参考文献
- 環境省「「環境表示ガイドライン」の改定について」(2026年)
- 環境省・経済産業省「カーボンフットプリント 表示ガイド」(2025年)
- 消費者庁「環境ラベルに関する実態調査報告書」(2026年)
- Climate Focus「Beyond ‘Carbon Neutral’: New EU Rules for Green Claims Apply from September 2026」(2026年)
- ISO 14068-1(2023年版)「Climate change management — Transition to net zero — Part 1: Carbon neutrality」規格情報(2023年)

