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「都市に眠る鉱山」が経済安全保障の鍵になる|レアメタル回収と日本のサーキュラーエコノミー戦略

「都市に眠る鉱山」が経済安全保障の鍵になる|レアメタル回収と日本のサーキュラーエコノミー戦略

スマートフォンの中には金・銀・銅・リチウム・コバルトといったレアメタルが詰まっています。使わなくなって引き出しの奥に眠っている端末は、実は「小さな鉱山」です。こうした廃製品に含まれる有用金属を回収・再資源化する取り組みを「都市鉱山」と呼びます。資源小国である日本にとって、この「足元の鉱山」をいかに掘り起こすかは、環境問題であると同時に、経済安全保障の問題でもあります。2024年末に政府が決定した「循環経済への移行加速化パッケージ」では、このレアメタルの国内循環がひとつの柱として明確に位置づけられました。

循環経済への移行加速化パッケージとは何か

内閣官房が公表した資料によれば、循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行は、廃棄物等を資源として有効に活用し付加価値を生み出すだけでなく、気候変動や生物多様性の保全、地方創生、産業競争力の強化、経済安全保障の確保にも貢献するものと位置づけられています。

令和6年(2024年)12月27日、循環経済に関する関係閣僚会議(第2回)はこの「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行加速化パッケージ」を正式に決定しました。その内容は幅広く、
家電・パソコンなどの小型家電や蓄電池といった「都市鉱山」から金・銀・銅やレアメタルを回収して再資源化することや、プラスチックを回収して再びプラスチックとして再資源化することなどが主要施策として盛り込まれています。
この循環経済への移行は、気候変動対策としても大きなポテンシャルを持つと位置づけられています。

なぜ「経済安全保障」と結びつくのか

サーキュラーエコノミーはかつて「環境の話」として語られることが多い分野でした。しかし近年、その位置づけは大きく変わっています。

国連環境計画(UNEP)国際資源パネルによれば、天然資源の採取と加工は、温室効果ガス排出の55%超、生物多様性損失と水ストレスの90%超の要因となっています。また、鉱物資源の需給逼迫やプラスチックの使用量増大など、資源制約が世界規模で高まっているとされています。

リチウム・コバルト・ニッケルといった素材は、電気自動車(EV)や蓄電池に不可欠です。EV・再エネの普及が加速すればするほど、これらの資源への需要は急増します。ところが、産出国は特定の国・地域に偏在しており、地政学的リスクが高まるなかで安定調達が難しくなっています。

欧州の政策は既にこの問題に踏み込んでおり、電池製造における再生材使用率の義務化に向けた規制整備が進んでいるとされています。日本の資源有効利用促進法の改正においても、再生材利用義務化の規定が新たに盛り込まれました。

つまり、国内で廃製品から金属を回収し循環させることは、「輸入依存からの脱却」という安全保障的な意義を持つのです。

日本の現状と構造課題

日本には「もったいない」の精神が根付いており、
3Rの実践やその過程で培われた高い技術力も蓄積されています。
しかし、現状には依然として大きな課題があります。

日本の廃棄物処理・リサイクル業は小規模・分散的で、製造業との間に再生材の質・量における需給ギャップが生じており、リサイクル原料が焼却・埋立や海外輸出に回されている実態があります。
回収された廃製品や廃材が、高品質な再生材として製造業に戻らず、熱回収や埋立てに回ってしまうことが多いのです。

この課題に対し、2023年3月に策定された「成長志向型の資源自律経済戦略」では、動脈産業(製造・流通)と静脈産業(廃棄物処理・リサイクル)の連携強化、GXへの先行投資支援、産官学の連携強化の三本柱が打ち出されました。
政府は循環経済関連ビジネスの市場規模について、2030年までに80兆円に拡大させることを目指しています。
これを実現するためには、企業・自治体・消費者それぞれの行動変容が不可欠です。

地域・企業・個人に広がる循環の動き

循環経済は「国家戦略の話」だけではありません。地域レベルでも動きが加速しています。

内閣官房の施策集では、「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」の活用や、全市町村からなる資源循環自治体フォーラムの創設により、各地域の事業者・自治体・大学機関・市民の連携を促進するとされています。地域で資源循環のネットワーク形成を主導できる中核人材の育成と、モデル地域の創出も盛り込まれています。

企業レベルでは、製品のライフサイクル全体を視野に入れた取り組みが広がっています。
自動車・小型家電・温暖化対策により新たに普及した製品や素材を対象に、使用・廃棄段階の情報をもとに修繕・交換・分解・分別・アップデートが容易となる「環境配慮設計」の推進と、リユース・リペア・シェアリング・サブスクリプションなどのビジネスモデルの取り組みが求められるようになっています。
施策では、特に分解しやすさや長寿命化といった「強い環境配慮設計」に対する認定スキームの導入も検討されています。
設計の段階から「循環」を織り込む発想が、製造業全体に根付き始めています。

消費者にできること

こうした大きな流れの中で、私たちひとりひとりにもできることがあります。

まず最も身近なのは、使わなくなった小型家電・スマートフォンを適切な回収ルートに出すことです。多くの自治体や家電量販店では小型家電の回収ボックスが設置されており、投入するだけでレアメタル回収の一端を担えます。

次に、製品を「長く使う」という選択も重要な循環行動です。修理・メンテナンスサービスの活用や、中古品・サブスクリプション型サービスの利用は、新たな資源採取を抑制し循環経済の構築に直結します。

循環経済は単なる環境技術の問題にとどまらず、資源循環が長期的な経済的強靭性と競争力の基盤となるという認識が社会に広まるとき、政策はより効果的に機能するという見方があります。

まとめ|「足元の鉱山」を掘り起こすために

日本の地下に鉄鉱石は少ないかもしれません。しかし、引き出しの中に眠るスマートフォン、倉庫に積まれた旧型家電、解体を待つ建築物の中には、膨大な量の有用金属が眠っています。これを「廃棄物」ではなく「資源」として扱う経済システムへの転換こそ、サーキュラーエコノミーの本質です。

令和6年12月に政府が決定した「移行加速化パッケージ」は、その転換を国家戦略として明確に宣言したものといえます。環境・気候・安全保障・地域活性化——複数の課題が交差するこの分野は、2026年以降、ますます重要な政策の舞台となっていきます。制度の整備とともに、企業・自治体・個人が「循環」を自分ごととして捉え始めることが、変化の本質的な推進力になるのではないでしょうか。

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