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SOCIETY

適正技術と日本|国際協力と地域の暮らしで考える「ちょうどいい技術」の見方

Photo by Jane JIANG on Unsplash

「適正技術」という言葉を日本語の資料で目にして、定義は分かったものの、日本ではどこで使われているのかが見えなかった。そんな経験はないでしょうか。私は国連や省庁の公開資料を読む仕事をしています。この言葉は国際協力の文脈で出てくることが多く、国内の話とは別物として扱われがちだと感じてきました。

適正技術は、途上国の話にとどまりません。人口減少が進む地域のインフラ維持や、災害時の暮らしを支える道具選びにも通じる考え方です。この記事では、日本での使われ方を国際協力、企業の海外事業、国内の地域の3つの場面に分けて見ていきます。そのうえで、ある技術が「ちょうどいい」かどうかを確かめる3つの問いを紹介します。

この記事で学べること

  • 適正技術という考え方の出どころと、日本語での位置づけ
  • 日本の国際協力・企業・地域で適正技術がどう語られているか
  • 技術が現場に合っているかを確かめる3つの問い
  • 今日から試せる、身近な技術の点検方法

適正技術という考え方と、日本語での位置づけ

最初の入口として、言葉の整理だけ短くしておきます。ここから先は日本での使われ方が中心です。

シューマッハーの「中間技術」から広がった考え方

適正技術の源流としてよく挙げられるのが、経済学者E.F.シューマッハーです。1973年に著書『Small is Beautiful』で、巨大で高価な技術と、昔ながらの技術の中間にある「中間技術」を提唱しました。日本語版は『スモール イズ ビューティフル』として知られています。

シューマッハーの考えを受けて、1966年に英国で設立された団体が、のちに「Practical Action」と名を変えて活動を続けています。この団体の公式サイトでは、技術を人々の暮らしを変える手段として位置づけています。つまり適正技術は、特定の機械の名前ではありません。技術を選ぶときの姿勢を指す言葉です。

日本語では呼び方が揺れる

日本語の資料では、適正技術のほかに「適切技術」「中間技術」「アプロプリエイト・テクノロジー」といった表記が混在します。検索するときは、複数の表記を試すと資料に行き当たりやすくなります。

ここで見落としがちなのが「低い技術」と同じ意味だと受け取ってしまうことです。資料を読み込んでいくと、適正かどうかを決めるのは技術の新しさではないと分かってきます。現地の資源、お金、人手、文化に合っているかどうかが基準です。先端技術でも、条件が合えば適正技術になります。

日本で適正技術が語られる3つの場面

日本で適正技術が話題になるのは、主に次の3つの場面です。それぞれ、読み解くときに注意したい点も添えます。

国際協力と企業の海外事業

日本の国際協力を担うJICAには、NGOや自治体、大学が現地の課題に取り組む「草の根技術協力事業」があります。民間企業の海外事業を支援する「中小企業・SDGsビジネス支援事業」もあります。現地の課題に合う製品やサービスを探す場面で、適正技術の考え方がたびたび参照されます。制度の最新の要件や公募状況は、JICAの公式情報で確認してください。

企業の取り組みとして、公式情報などで知られる例が次の3つです。細部は各社の公開資料で確認してください。

  • 住友化学は、殺虫剤を練り込んだ蚊帳「オリセット ネット」の製造技術を、2003年にタンザニアの企業へ提供したと報告されています。現地生産によって雇用を生む形をとった点が特徴です。
  • 味の素は、ガーナで離乳期の栄養強化食品を、現地で食べられている離乳食に混ぜて使う形で普及させる取り組みを行っています。
  • ヤマハ発動機は、現地の水を使う小型の浄水装置を提供しています。運営を現地の人々が担う仕組みを重視していると伝えられています。

3例に共通するのは、日本の技術をそのまま持ち込んでいない点です。現地で作れること、続けられること、使う人の習慣に合うことを組み合わせています。ただし、各社が自社の取り組みを「適正技術」と名乗っているとは限りません。この言葉を当てはめるのは、あくまで読み手側の見方です。

国内の地域で使われる小さな技術

国内では、過疎地や山間部で、農業用水路を使った小水力発電や、間伐材を使った薪・ペレット燃料といった取り組みが各地にあります。地域の資源を使い、地域の人が維持できる規模に収める点で、適正技術と重なる部分が大きい取り組みです。

人口が減ると、大規模なインフラは維持費の負担が重くなります。そのとき「もっと大きく」ではなく「もっと身の丈に合う形に」と考える足場として、適正技術の発想が役立ちます。ただし、小規模なら自動的に持続可能になるわけではありません。担い手がいなくなれば、設備は止まります。

災害時の暮らしを支える道具

災害時は電気や水道が止まり、普段の技術が使えなくなります。手回し式の充電器、簡易トイレ、段ボール製の間仕切りなどは、特別な設備や専門技能がなくても使える点で適正技術の考え方に近い道具です。

ここでも判断の軸は「新しいか古いか」ではありません。停電したときに自分たちの手で使えるかどうかが基準になります。備えを見直すときに、この視点を持っておくと選びやすくなります。

見分け方|「ちょうどいい技術」を確かめる3つの問い

ここからは、公開されている事例を読み比べるときに使える、私なりの整理です。調査結果ではなく、考え方の枠組みとして受け取ってください。ある技術が現場に合っているかを、3つの問いで確かめます。

問い1 壊れたとき、現場で直せるか

部品が手に入らなかったり、修理に海外の技術者が必要だったりすると、技術はやがて止まります。国際協力でも国内の地域でも、設備が導入後に使われなくなる例は報告されてきました。まず確認したいのは、修理に必要な部品や知識が現地にあるかどうかです。

問い2 現地の資源とお金で続けられるか

導入時の費用が補助金でまかなわれても、運転や維持の費用を誰が払うかが決まっていなければ続きません。燃料、消耗品、人件費を現地の経済でまかなえるかを見ます。使い手が料金を払える水準に収まっているかも大切です。

問い3 使う人が選ぶ過程に加わったか

技術が現地に合っていても、使う人の意見を聞かずに決めると定着しにくくなります。誰が、いつ、どのように話し合ったのかが分かる事例は、信頼しやすいと感じます。

3つの問いは、企業の取り組みを見るときにも使えます。「環境に優しい」「現地に貢献」といった言葉だけで終わっていないかを確かめる手がかりにもなります。根拠のない良さの主張を見分けることにもつながります。

今日から試せる1アクション

ここまで読んで、新しい知識を得ても、日常で使わなければ残りません。最後に、今日できる小さな点検を提案します。

身近な技術を1つ選んでください。家の防災用品、職場の機器、住んでいる地域の設備のどれでも構いません。そして、先ほどの3つの問いを当てはめて、メモに書き出してみてください。

答えが「分からない」になる問いが出てきたら、それが見直しの入り口です。たとえば、防災用の電池式ライトを選ぶなら、電池の備蓄先と交換の手順まで考えておきます。

私も資料を読んでいて、技術の性能ばかりに目が行き、維持の仕組みを確認し忘れることがありました。点検に慣れるまでは、まず1つだけで十分です。

まとめ

適正技術は、特定の機械ではなく、技術を選ぶときの姿勢を表す言葉です。シューマッハーの「中間技術」を源流に、現地の資源、お金、人手、文化に合っているかを基準にします。日本では、国際協力や企業の海外事業の文脈で目にする機会が多くあります。

一方で、国内の過疎地や災害時の備えにも、同じ考え方が当てはまります。判断の軸は、新しいか古いか、大きいか小さいかではありません。現場で直せるか、続けられるか、使う人が選んだかの3点です。

あわせて、事例を読むときは、企業や団体が自社の取り組みをどう呼んでいるかと、読み手が適正技術として見立てることを分けて考えると、誤解が減ります。まず身近な技術を1つ点検するところから始めてみてください。

  • 適正技術は、現地の条件に合った技術を選ぶための考え方である
  • 日本では、国際協力・企業の海外事業・国内の地域の3場面で使われる
  • 「直せるか」「続けられるか」「使う人が選んだか」の3つの問いで見分けられる
  • 身近な技術を1つ選び、3つの問いで点検することから始められる

参考文献

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