求人票に「フレックスタイム制度あり」と書かれていると、それだけで安心しませんか。私はフェアトレードのラベルを見て「これなら大丈夫」と思い込み、どの原料が認証の対象なのかを確かめないまま買ってしまったことがあります。働き方の制度にも同じことが言えます。名前だけで判断すると、入社してから「思っていた使い方とは違った」と気づくことがあります。
フレックスタイム制度は、日々の始業・終業時刻を働く人が自分で決められる制度です。ただし厚生労働省の就労条件総合調査によると、導入している企業は全体の1割に満たない水準とされており、日本ではまだ少数派です。中身の幅も大きく、同じ「フレックスあり」でも使い勝手はかなり違います。この記事では、法律上の仕組み、企業ごとの運用パターン、求人や面接で確認したい点を順に見ていきます。
フレックスタイム制度の法的な基本|日本の制度を押さえる
制度の名前だけが先行しやすいので、まず法律上の土台を確認します。ここを知っておくと、企業の説明が妥当かどうかを自分で判断しやすくなります。
導入に必要な手続き
フレックスタイム制度は労働基準法第32条の3に定められています。企業が導入するには、就業規則などで「始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる」と定めたうえで、労使協定で次の事項を決める必要があります。
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間(労働時間を精算する期間)
- 清算期間中に働く総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
コアタイム(必ず勤務する時間帯)とフレキシブルタイム(出退勤を選べる時間帯)を設けるかどうかは、企業の任意です。つまり「フレックスタイム制度」と言っても、全員が毎日好きな時間に働けるとは限りません。
残業時間の数え方は通常と違う
通常の働き方では、1日8時間、週40時間を超えた分が時間外労働になります。フレックスタイム制度では、1日8時間を超えて働いても、それだけでは時間外になりません。清算期間全体で見て、法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働として扱われます。
総枠は「清算期間の暦日数÷7×40時間」で計算します。清算期間が1か月で、30日の月なら約171.4時間、31日の月なら約177.1時間です。この数字を知っていると、給与明細の残業時間が合っているかを自分で確かめられます。なお、深夜労働や法定休日の労働には、フレックスタイム制度でも別途の割増賃金が必要です。
2019年改正で清算期間が最長3か月に
2019年4月施行の働き方改革関連法により、清算期間の上限が1か月から3か月に延びました。これで、月ごとの繁閑を数か月単位でならして働けるようになり、たとえば子どもの夏休みがある月だけ労働時間を短くし、別の月で調整するといった使い方も可能になりました。
一方で、長く延ばせば何時間でも働かせてよいわけではありません。清算期間が1か月を超える場合は、各月で週平均50時間を超えた労働が、その月の時間外労働として扱われます。また、1か月を超える清算期間を定める労使協定は、労働基準監督署への届出が必要です。柔軟さと長時間労働への歯止めが、セットで設計されています。
企業の運用パターンを3つに整理する
制度の設計次第で、働く人の体感は大きく変わります。実際の運用は、おおむね次の3つに整理できます。社名を挙げた比較ではなく、制度設計上の類型として見てください。
コアタイムありのフレックス
たとえば「11時〜15時は必ず勤務」のように、全員が揃う時間帯を設けるタイプです。会議や顧客対応の時間を確保しやすく、チームの連携を保ちたい職場で選ばれやすい形です。通勤ラッシュを避けたり、朝の保育園送りに合わせたりするには十分な幅があります。
ただしコアタイムが長いほど、選べる時間は狭くなります。たとえば10時〜16時のように6時間もあると、実質的には通常の勤務時間とほとんど変わりません。求人票で「フレックス」の文字を見たら、コアタイムの長さは必ず確認したい点です。
コアタイムなしのフレックス(いわゆるスーパーフレックス)
コアタイムを設けず、清算期間内の総労働時間さえ満たせば、出退勤時刻を自由に決められるタイプです。法律上、コアタイムは必須ではないため、この形も認められています。通院や学びの時間、介護などの事情に合わせやすいのが利点です。
その反面、チームの予定合わせは個人の調整に委ねられがちです。会議の設定ルールや連絡の取り方が整っていないと、「自由なはずなのに、結局みんな同じ時間帯に働いている」という状態になります。制度の有無より、運用ルールがあるかどうかが使い勝手を左右します。
清算期間を延ばして繁閑をならすフレックス
2019年改正を活用して、清算期間を2〜3か月にするタイプです。繁忙期と閑散期の差が大きい業種で、閑散期に労働時間を短くして調整できます。私が商品を選ぶときに「長く使えるか」を見るように、働く側も長期の見通しを持てる点が魅力です。
注意したいのは、繁忙期に労働時間が偏りやすいことです。先ほど触れた「各月で週平均50時間」の上限があるとはいえ、忙しい月は長くなる傾向があります。清算期間が長い企業では、繁忙期の実際の労働時間を確認しておくと安心です。
求人・面接・就業規則で確認したい4つの項目
「ラベルの中身を確かめる」という視点で、確認したい項目を4つにしぼりました。制度の有無ではなく、中身を問う質問です。
対象者の範囲
フレックスタイム制度は、全社員が対象とは限りません。職種や部署、雇用形態によって対象外となる場合があります。自分の職種が対象に含まれるかは、求人票だけでは分からないことが多く、面接や内定後に確認するのが確実です。
コアタイムの有無と長さ
先ほど述べたように、コアタイムが長いと、選べる時間は限られます。「コアタイムは何時から何時までですか」という質問は、聞きにくいものではありません。働き方を具体的に考えている人の質問として、むしろ自然です。
清算期間と時間外の扱い
清算期間が何か月か、総枠を超えた分はどう精算されるかを確認します。労働時間が足りなかった場合に、賃金から控除されるのか、翌期間に繰り越されるのかも企業によって異なります。繰り越しには法律上の限度があるため、「不足分の扱い」は聞いておきたい項目です。
実際に使っている人の典型的な1日
制度が就業規則にあることと、実際に使われていることは別です。「フレックスを使っている方は、たいていどの時間帯に働いていますか」と聞くと、運用の実態が見えてきます。回答が具体的であるほど、制度が根づいている可能性が高いと考えられます。
制度が機能する職場と形だけの職場の分かれ目|公開されている声の傾向から
ここからは、働き方に関するブログやSNS、口コミサイトなどで公開されている声に見られる傾向を、個人が特定されない形でまとめたものです。大規模な調査ではなく、あくまで傾向のひとつとして読んでください。
「制度はあるのに使いにくい」と語られやすい3つの場面
公開されている声では、制度が形だけになりやすい場面として、次の3つが繰り返し挙がっています。
- 会議が午前中に固定され、遅く出社しづらい
- 上司や同僚の出退勤時刻が気になり、早退や遅出を言い出しにくい
- 顧客や他部署の対応時間に合わせ、結局は定時と同じ働き方になる
どれも、制度そのものの欠陥ではなく、職場の習慣や会議の設計に原因があります。
機能している職場に共通して語られやすいこと
反対に「使えている」と語られる職場では、会議を全員が出やすい時間帯に集めたり、チャットで各自の勤務時間帯を共有したりするなど、運用ルールが整っている傾向があります。管理職が率先して時間をずらして働いているという声もよく見られます。
つまり、制度があるかどうかよりも、制度を使うことが「普通」になっているかが分かれ目になりそうです。フェアトレードも、認証マークがあるだけでなく、生産者との関係が続いているかどうかが本質だと感じます。制度は入口にすぎません。
企業側にとっての示唆
導入を検討する企業にとっても、同じことが言えます。制度を整えるだけでなく、会議の時間帯ルール、勤務時間の共有方法、管理職の意識づけまでを含めて設計すると、「あるのに使われない制度」を避けやすくなります。働く人にとっても、そうした工夫を発信している企業は、見極めの手がかりになります。
今日から試せる1アクション|就業規則の4項目をメモする
最後に、今日から試せることをひとつだけ挙げます。自分の勤務先、または気になっている企業のフレックスタイム制度について、次の4項目を1枚のメモに書き出してみてください。
- 対象者の範囲
- コアタイムの有無と時間帯
- 清算期間の長さ
- 総枠を超えた分・足りない分の扱い
勤務先の場合は、就業規則を確認するか、人事・総務に質問すれば分かります。就業規則は、労働者がいつでも見られるように周知されているのが原則です。志望先の場合は、面接の逆質問や内定後の条件確認の場で聞いてみてください。
4項目のうち1つでも分からないところがあれば、そこが「ラベルの中身」を確かめるべき箇所です。分からないまま使うより、確認してから使うほうが、制度の恩恵を受けやすくなります。まずは自分の勤務先の就業規則を開いて、コアタイムの欄だけでも探してみてください。
まとめ
フレックスタイム制度は、始業・終業時刻を自分で決められる便利な仕組みです。ただし日本では導入企業が少数派で、コアタイムの有無、清算期間の長さ、時間外の数え方などによって、使い勝手は大きく変わります。2019年の改正で清算期間は最長3か月になり、柔軟性は広がりました。一方で、長時間労働を防ぐための上限も設けられています。
制度が機能するかどうかは、法律や就業規則だけでなく、会議の設計や職場の習慣といった運用面で決まります。求人票の「フレックスあり」の一言で安心せず、中身を確かめることが、自分に合った働き方を選ぶ近道です。
- 残業は1日単位でなく、清算期間の総枠を超えた分で判断される
- 2019年4月施行の改正で、清算期間の上限は最長3か月になった
- 運用パターンは、コアタイムあり・なし・清算期間の延長の3つに整理できる
- 対象者・コアタイム・清算期間・不足分の扱いの4項目を確認する
参考文献
- e-Gov法令検索「労働基準法」(1947年制定、2019年改正施行)
- 厚生労働省「就労条件総合調査」(毎年実施)

