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CSR

ビジネスと人権 行動計画をわかりやすく解説|日本企業に迫るサプライチェーン人権対応

Photo by 2H Media on Unsplash

「ビジネスと人権に関する行動計画」という言葉を、取引先企業の資料や就職活動中の企業研究で目にしたという方が増えているのではないでしょうか。「結局、何を企業に求める計画なのか」「自分の暮らしや仕事にどう関係するのか」と疑問に思う方も多いはずです。筆者は環境・社会分野のNGOでキャンペーン設計に携わってきましたが、人権方針の策定を企業に働きかける場面で「計画はあるが現場にどう落とし込むかが分からない」という声を繰り返し聞いてきました。この記事では、行動計画の中身だけでなく、日本企業が実際にどう動いているか、そして読者が消費者・働き手としてどう関われるかまで、Q&A形式で整理していきます。

この記事で学べること

  • 日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」が定めている内容
  • 海外の人権デュー・ディリジェンス法制と日本の違い
  • 日本企業が人権対応で直面している具体的な課題
  • 消費者・働き手として今日から確認できること

「ビジネスと人権に関する行動計画」とは何か

「結局、行動計画とは何を約束した文書なのか」という疑問から始めましょう。これは国連が2011年に人権理事会で全会一致で支持した「ビジネスと人権に関する指導原則」を、各国がどう実行するかを示す国別行動計画(NAP)の日本版です。指導原則は「国家の人権保護義務」「企業の人権尊重責任」「救済へのアクセス」という3つの柱で構成されており、日本政府はこの指導原則を踏まえた行動計画を策定したとされています。計画では、労働分野の課題や新しい技術分野での人権配慮、サプライチェーンにおける人権尊重などが重点分野として位置づけられています。

ここで誤解されやすいのが、「行動計画さえあれば企業は何もしなくていい」という受け止め方です。行動計画はあくまで国としての方針表明であり、個々の企業に対して具体的な実務手順を示すものではありません。そのギャップを埋めるために、経済産業省が企業向けのガイドラインを別途公表したという流れがあります。

行動計画が重点分野として挙げる人権課題

行動計画では、労働者の権利、子どもの権利、障害者の権利、先住民族(アイヌの人々を含む)の権利、技術の発展に伴う新たな人権課題など、複数の分野が重点分野として扱われているとされています。特に外国人技能実習制度をめぐっては、国内外から人権上の懸念が指摘されてきた経緯があり、政府はこの制度を見直し、人材育成と人権配慮を両立させる新制度への移行を進めていると報告されています。読者の中には「技能実習生の労働環境」という言葉をニュースで見聞きした方も多いと思いますが、これはまさに行動計画が扱う分野の一つです。

なぜ「計画」だけでは不十分だったのか

行動計画が国全体の方針を示す一方で、企業の担当者が実務でつまずくのは「具体的に何をどう調べ、どう記録すればよいか」という手順の部分です。そこで経済産業省は2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表し、人権デュー・ディリジェンスの進め方を具体的に示したとされています。筆者がNGOの立場で企業と対話してきた経験からも、方針を掲げるだけの段階と、実際に調査・是正のサイクルを回す段階の間には大きな溝があると感じます。ガイドラインは、その溝を埋めるための実務的な手引きとして位置づけられています。

海外の法制化の流れとどう違うのか

「日本にも行動計画があるなら、海外の法律を気にする必要はないのでは」と思う方もいるかもしれません。しかし実際には、日本の行動計画とガイドラインはいずれも法的拘束力を伴わない自主的な枠組みである一方、欧州では人権デュー・ディリジェンスを法律で義務化する動きが先行しているという違いがあります。

欧州の義務化法制が日本企業にも影響する理由

ドイツでは「サプライチェーン・デューディリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz)」が2023年から段階的に施行され、一定規模以上の企業にサプライチェーン上の人権・環境リスクの調査と是正を義務づけていると報告されています。さらにEUレベルでも、大企業に人権・環境デュー・ディリジェンスを義務づける指令の整備が進んでおり、EU域内で一定の事業規模を持つ非EU企業も対象に含まれ得るとされています。つまり、日本国内に拠点を置く企業であっても、EU企業と直接取引がある、あるいはEU域内で事業を行っている場合には、取引先から人権デュー・ディリジェンスの状況について照会を受ける可能性があるわけです。「自社は輸出していないから関係ない」と考えていた中小企業が、取引先である大企業からの調査票対応を迫られるというケースは、サプライチェーンが重層的である以上、今後珍しくなくなっていくと考えられます。

自主的な枠組みと義務的な法制度、どちらが実効性を持つのか

ここは意見が分かれるところです。自主的な枠組みは企業の裁量を尊重できる一方、取り組みの濃淡が企業間で大きく開きやすいという弱点があります。義務的な法制度は是正を強制できる反面、中小企業にとっては対応コストの負担が重くなりやすいという課題が指摘されています。筆者がキャンペーン設計に携わってきた経験から言えるのは、どちらの枠組みであっても、現場の労働者や地域住民の声が実際に企業に届く仕組み(苦情処理メカニズムなど)があるかどうかが、実効性を左右する分かれ目になるということです。制度の有無だけでなく、「救済へのアクセス」という指導原則の第三の柱が機能しているかを見る視点を持つと、企業の取り組みの本気度が見えてきます。

日本企業は実際どこまで対応しているのか

「大企業だけの話では」と感じる方もいるかもしれませんが、サプライチェーンをたどれば中小企業も無関係ではいられません。大手製造業や小売・アパレル企業を中心に、人権方針の公表や人権デュー・ディリジェンスの実施が進んでいると報告されていますが、取り組みの深さは業種・企業規模によって大きな差があるのが実情です。

人権デュー・ディリジェンスの基本的な流れ

経済産業省のガイドラインが示す人権デュー・ディリジェンスは、おおむね次のような段階を踏むとされています。まず人権方針を策定し経営トップが関与することを明示し、次に自社およびサプライチェーン全体の人権への影響を評価します。その上でリスクの防止・軽減策を講じ、取り組みの実施状況を継続的に追跡し、ステークホルダーに向けて情報を開示します。そして実際に人権侵害が生じた場合には、救済の仕組みを通じて是正を行います。このサイクルを一度きりで終わらせず、繰り返し回し続けることが重要だと強調されています。

中小企業はどう向き合えばよいのか

「人権デュー・ディリジェンスのフルセットを中小企業が実施するのは難しいのでは」という疑問は当然出てきます。経済産業省はこうした懸念を踏まえ、企業規模に応じた取り組みの実務参照資料やQ&Aを公表し、優先順位をつけた段階的な対応を促しているとされています。筆者の経験からも、すべてを一度に完璧にやろうとするのではなく、まず自社が置かれている業種・地域でどのような人権リスクが指摘されやすいかを把握し、そこから着手するという順番が現実的だと感じます。

消費者・働き手として今日からできること

「制度の話は分かったが、自分に何ができるのか」という疑問にも答えておきます。消費者としては、日頃利用する企業のウェブサイトでサステナビリティ報告書や人権方針のページを確認し、人権デュー・ディリジェンスについての記載があるかどうかを見てみることができます。記載が具体的であるほど、形だけの宣言ではなく実務に落とし込まれている可能性が高いと読み取れます。働き手としては、自分の勤務先や取引先の調達方針に人権配慮の項目があるかを確認し、疑問があれば人事・総務部門に問い合わせてみることも一つの方法です。

過度な期待は禁物です。行動計画やガイドラインがあるからといって、すべての人権課題がすぐに解消されるわけではありません。ただ、制度や企業の取り組みを知ることは、読者自身が商品やサービスを選ぶ際の判断材料を一つ増やすことにつながります。まずは今日、よく利用している企業や取引先のサイトで「人権方針」「サステナビリティ」のページを開き、人権デュー・ディリジェンスについての記載があるかどうかだけでも確認してみてください。それが、制度を「知っている」から「使える」に変える最初の一歩になります。

まとめ

「ビジネスと人権に関する行動計画」は、国連の指導原則を踏まえて日本政府が示した方針であり、労働、子どもの権利、障害者の権利、先住民族の権利など幅広い分野を対象にしています。計画そのものに法的拘束力はありませんが、経済産業省のガイドラインによって企業が取るべき実務的な手順が補完されており、欧州における法制化の流れとも無関係ではいられない状況が生まれています。

日本企業の対応は大企業を中心に進みつつある一方、中小企業にとっては何から着手すべきか分かりにくいという課題も残っています。だからこそ、消費者や働き手の立場からも、企業の人権方針がどこまで具体的かを見る視点を持つことが、制度を形だけで終わらせないための力になります。

  • 行動計画は国連指導原則を踏まえた日本政府の方針で法的拘束力はない
  • 経済産業省のガイドラインが人権デュー・ディリジェンスの実務手順を補完している
  • 欧州の義務化法制は取引関係を通じて日本企業にも影響し得る
  • 中小企業は優先順位をつけた段階的な対応が現実的とされている
  • 企業の人権方針ページを確認することが読者にもできる最初の一歩

参考文献

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