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CSR

責任ある調達に取り組む企業を見分ける|日本のガイドラインと調達ページの読み方

Photo by Chaozzy Lin on Unsplash

企業のウェブサイトを開くと、「調達方針」「サプライヤー行動規範」「人権方針」といったページが並んでいます。どれも立派な言葉が書かれていますが、読み比べてみると、何がどこまで実行されているのかは意外と分かりにくいものです。

私は国内外の白書や公的統計、企業の開示資料を読むことが多く、調達ページを見る機会もよくあります。最初のうちは、文面が丁寧なら取り組みも進んでいるのだろうと思っていました。ところが読み込むうちに、方針を掲げているだけの段階と、仕組みや結果まで開示している段階とでは、同じ「責任ある調達」でも中身がかなり違うと気づきました。

この記事では、日本の公的なガイドラインが企業に何を求めているかを整理します。そのうえで、生活者や就職活動中の方が調達ページを読むときの見方をお伝えします。

この記事で学べること

  • 責任ある調達が企業に求められるようになった国際的・国内的な流れ
  • 経済産業省のガイドラインが企業に求めている3つの柱
  • 企業の調達ページを「方針」「確認」「開示と救済」の3段階で読む方法
  • 今日から試せる、調達ページの確認アクション

責任ある調達が企業に求められる背景

責任ある調達とは、原材料や製品を仕入れるときに、価格や品質、納期だけでなく、サプライチェーン上の人権や環境への影響にも責任を持つ考え方です。自社の工場だけでなく、仕入れ先、さらにその先の原料の産地までが視野に入ります。

国際的な出発点としてよく参照されるのが、2011年に国連人権理事会で支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」です。この原則は、国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、被害を受けた人への救済の3本柱で構成されています。企業は法律を守っていれば十分、という立場をとらず、法令の有無にかかわらず人権を尊重する責任があるとしている点が特徴です。

日本でも、政府が2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)を策定しました。さらに2022年9月には、経済産業省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しています。このガイドラインは法的拘束力を持つ法律ではありません。ただし、日本で事業を行う企業が、規模や業種を問わず参照することを想定した行政の指針として位置づけられています。

海外ではEUが企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令を採択するなど、取引先にも対応を求める流れが広がっています。適用の時期や範囲は見直しが続いているため、最新の状況は一次資料で確認してください。輸出入や海外取引のある日本企業が、取引先からの要請を通じて対応を迫られるという構図は、今後も続くと考えられます。

日本のガイドラインが企業に求めていること

経済産業省のガイドラインは、国際的な指針を日本の企業向けに整理し直したものです。細かい項目は多いのですが、骨格は3つの柱に絞って理解できます。調達ページを読むときの物差しにもなるので、順に見ていきます。

人権方針の策定

1つ目は、人権を尊重するという企業の姿勢を、方針として明文化し公表することです。ガイドラインは、経営陣の承認を得ること、社内外に周知することなどを求めています。方針があるかどうかは出発点にすぎません。ただ、出発点がなければ、その先の取り組みを外から確認する手がかりも得られません。

人権デュー・ディリジェンス

2つ目は、人権デュー・ディリジェンスです。これは、人権への負の影響を特定して評価し、防止や軽減の手を打ち、その効果を確認して情報を開示する、という一連の継続的な取り組みを指します。一度きりの点検ではなく、繰り返し回していく仕組みとして考えられています。

ここで大切なのは、すべてを同じ深さで調べるわけではない点です。ガイドラインは、深刻度の高いリスクから優先して対処する「リスクベース・アプローチ」を示しています。たとえば、農産物の産地、縫製工場、鉱物の採掘現場など、リスクが高い工程から順に見ていくことになります。

救済と責任ある撤退

3つ目は、人権侵害が起きたときの救済です。企業が自ら被害を引き起こしたり、関与したりした場合には、是正や救済に取り組むことが求められます。そのために、当事者が声を上げられる苦情処理の窓口も重要な要素になります。

もう一点、見落とされがちなのが取引停止の扱いです。問題が見つかった取引先をすぐに切れば解決、というわけではありません。契約を打ち切ることで、現地の労働者の雇用や生活にかえって打撃を与えることがあるためです。そのため、ガイドラインでは、取引停止は最終手段として慎重に判断すべきものとされています。調達ページを読むとき、「問題があれば取引を停止します」とだけ書かれている企業と、改善支援や段階的な対応を示している企業とでは、考え方の深さが違って見えます。

調達ページに見られる3つの段階

ここからは、私が公開情報を読み込むなかで持つようになった整理です。統計的な調査ではなく、企業の調達方針や行動規範のページを読み比べた際の見立てとして、読み解く手がかりにしていただければと思います。調達ページの記載は、おおむね次の3段階に分けて見ることができます。

段階1 方針を宣言している

最初の段階は、調達方針や人権方針を掲げ、取引先に守ってほしい基準(サプライヤー行動規範など)を示している状態です。強制労働や児童労働の禁止、安全な労働環境、環境への配慮といった項目が並びます。

この段階は必要な土台です。ただ、これだけでは、基準が実際の取引でどう使われているのかが見えません。方針の文面が整っていることと、実行されていることは別の話として受け止めるのがよさそうです。

段階2 取引先への要請と確認を行っている

次の段階は、基準を取引先に伝え、守られているかを確かめる仕組みを説明している状態です。たとえば、自己評価の質問票、現地監査、リスクが高いと判断した取引先への重点的な確認などが挙げられます。

この段階では、「どの範囲を」「どのくらいの頻度で」確認しているのかが書かれているかどうかがポイントになります。確認の対象や方法が具体的であるほど、仕組みが実際に動いている可能性が高いと読めます。

段階3 結果の開示と救済窓口まで整えている

3つ目の段階は、確認で見つかった課題や、その是正の状況まで開示している状態です。加えて、取引先の従業員や地域の人たちも使える苦情窓口を設けている点も、この段階の特徴です。

問題が見つかったことを隠さずに書いている企業は、一見すると不利に見えるかもしれません。しかし、デュー・ディリジェンスは問題を見つけて直すための仕組みです。問題がゼロと書かれているより、課題と改善の経過が書かれているほうが、取り組みの実態に近いと考えるほうが自然です。

調達ページを読むときの確認ポイント

3段階を踏まえ、実際にページを読むときに確かめたい点を挙げます。どれも1社あたり10分ほどで見られる内容です。

  • 人権方針と調達方針が、経営層の承認を受けたものとして公表されているか
  • 取引先への基準が、一次の取引先だけでなく、原料の産地まで及んでいるか
  • 確認の方法(質問票・監査など)と、その対象範囲や頻度が書かれているか
  • 見つかった課題や、その改善の状況が開示されているか
  • 取引先の従業員などが使える苦情窓口があるか

また、認証ラベルの扱いにも注意が必要です。木材のFSC認証、パーム油のRSPO認証、水産物のMSC認証といった第三者認証は、調達の信頼性を高める手段の1つです。ただし、認証を受けているというだけでは、サプライチェーン全体の人権への配慮を保証するものではありません。認証を使っていることと、自社でリスクを把握していることを分けて読むと、環境配慮をうたう広告を見たときにも、冷静に判断しやすくなります。

最後に、ページがきれいに整っているほど安心だとは限りません。デザインや文量ではなく、先ほどの5つの確認点が埋まっているかを見るのが、一番ぶれない方法です。ある点が書かれていないからといって、取り組みがないと決めつけることもできません。書かれていない点は、問い合わせや次年度の開示で確かめる余地として残しておく姿勢が、誠実な見方だと考えています。

今日試せる1アクション

ここまで読んで、「結局、何から始めればいいのか」と感じた方もいるかもしれません。おすすめは、普段よく買う商品のメーカーを1社選び、その企業サイトで「調達方針」または「サプライヤー行動規範」と検索することです。

見つかったら、先ほどの5つの確認点のうち、いくつ書かれているかを数えてみてください。点数をつける必要はありません。「方針はあるが、確認の方法は書かれていない」といったように、どの段階にいるように見えるかをメモするだけで十分です。

もし就職活動中なら、志望先の企業で同じことをやってみると、その企業が何を大切にしているのかが見えてきます。まず1社だけ試してみてください。

まとめ

責任ある調達は、2011年の国連の指導原則から、日本の行動計画、そして2022年の経済産業省のガイドラインへと、企業に求められる水準が具体化してきた分野です。ガイドラインが求める柱は、人権方針の策定、デュー・ディリジェンス、救済の3つに整理できます。

企業の調達ページは、方針の宣言、取引先への要請と確認、結果の開示と救済窓口という3段階で読むと、取り組みの深さが見えやすくなります。認証ラベルは信頼性を補う材料ですが、それだけで全体を保証するものではありません。

調達の透明性は、企業が一方的に高めるものではなく、消費者や求職者、投資家が読み、問い合わせることで底上げされていく面があります。まずは1社のページを開くことが、その最初の一歩になります。

  • 責任ある調達は、価格や品質だけでなく、サプライチェーン上の人権や環境への影響にも責任を持つ考え方
  • 経済産業省のガイドラインの柱は、人権方針、デュー・ディリジェンス、救済の3つ
  • 調達ページは「方針」「確認」「開示と救済」の3段階で読むと取り組みの深さが分かる
  • 認証ラベルは補助的な材料であり、取り組み全体の保証ではない
  • よく買うメーカー1社の調達方針ページを開くことから始められる

参考文献

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