「企業サステナランキング」という言葉を聞いて、最初に何をイメージしますか。就職活動中の学生なら志望企業の名前を探してみたくなる。投資を考えている人なら銘柄選びの参考にしたい。消費者として買い物の判断に使いたいという方もいるでしょう。
企業非財務開示とESG投資を取材してきた立場からすると、実はこの「ランキング」という言葉が一番の落とし穴だと感じています。ランキングは1種類ではなく、発行機関・評価視点・対象地域によって内容がまったく異なる。同じ企業でもランキングAでは上位、ランキングBでは中位という事態は珍しくありません。
この記事では、代表的なランキングの仕組みと評価指標の違い、日本企業の現在地、そして読者が実際の行動に活かすための視点を整理します。
「サステナランキング」と一口に言っても種類がある
企業のサステナビリティを評価するランキングは、大きく3つの系統に整理できます。
①グローバル系|世界規模で比較する指標
最も知名度が高いのは、カナダの調査出版社Corporate Knightsが毎年ダボス会議(世界経済フォーラム)に合わせて発表する「Global 100 Index(世界で最も持続可能な企業100社)」です。
2025年版は1月22日に発表されました。 評価指標には、経営陣報酬のサステナビリティ指標連動率、女性管理職比率、税の透明性、サプライヤーの持続可能性スコアなど多面的な項目が含まれます。 製品カテゴリーによるスクリーニングも厳格で、InfluenceMapで気候変動ロビー活動が「レッド」と判定された企業はランキング対象から除外されます。
2025年版の日本企業のランクイン数はエーザイ、リコー、シスメックスの3社でした。日本企業のランクイン数は2015年の1社から2019年は8社へ増えたものの、その後は減少傾向にあります。 この推移を単純に「日本企業はダメ」と読むのは危険で、そもそも評価対象企業の業種・規模の要件が年によって変化するため、継続比較には注意が必要です。
取材の現場でよく耳にするもう一つが、TIME誌とデータ企業Statistaが共同で発表する「世界で最も持続可能な企業」ランキングです。 2024年版では世界5,000社以上を対象に、CDP評価や国連グローバル・コンパクトへの参加、Science Based Targets(SBTi)への適合、MSCI ESG評価などの複数の外部スコアを組み合わせて評価し、500社を選出しています。 上位50社に日本からはNEC(2位)、野村総合研究所(8位)、日立製作所(29位)、ソフトバンクグループ(31位)、アドバンテスト(38位)、富士通(50位)の6社が選ばれました。
②国内系|日本市場・生活者視点の評価
国内に目を向けると、生活者調査をベースにした「Japan Sustainable Brands Index(JSBI)」があります。 これはサステナブル・ブランド ジャパンが全国15,600人を対象に行った調査で、SDGsの視点から企業・ブランドのサステナビリティ評価を可視化するものです。 消費者がどの企業をサステナブルだと感じているかという「認知・共感」の側面を数値化している点が、機関投資家向けのESG評価とは性質が異なります。
一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会が発表する「サステナビリティサイト・アワード」は、また別の切り口です。 2025年版では国内全上場企業(2024年7月1日時点)および一定の事業規模がある大手非上場企業の合計4,072社のコーポレートサイト上のサステナビリティ開示コンテンツを評価対象としており、上位にはNEC・三菱地所・サントリーなどが名を連ねました。統合報告書のPDFではなく「Webコンテンツとして何をどう見せているか」という視点での格付けです。
③ESG評価機関系|投資判断に使われる非公開スコア
MSCIやFTSE Russell、S&Pグローバルなどが提供するESG格付けは、主に機関投資家向けのレーティングです。一般に全項目を無料で閲覧できるわけではありませんが、企業のIRページで「MSCI ESG RatingsでAAを取得」といった形で自社スコアが開示されている場合があります。CDPスコア(気候変動・水セキュリティ・フォレストの3分野)については公式サイトで企業ごとの開示状況を確認できます。
取材を通じて気づいたことがあります。同じ企業でも「MSCIではAA」「Global 100には非選出」という状況は珍しくない。それぞれが測っているものが違うからです。MSCIは業種内比較・投資リスク視点。Global 100は絶対値ベースの排出量や労働指標。どちらが「正しい」のではなく、何を知りたいかによって参照するランキングが変わります。
ランキングの「何」を見るかで結論が変わる
実際に企業のサステナビリティを評価するレポートを読み込んでいくと、評価指標のつくり方の違いが結論に直結することがわかります。以下の3点は、見落としがちなポイントとして特に意識しています。
業種内相対評価か、全業種絶対値評価か
MSCI ESGレーティングは基本的に同一業種内での相対評価です。素材メーカーがAランクを取っていたとしても、絶対的な排出量は多い場合があります。一方でGlobal 100のような指標は、排出量の原単位(売上高当たりの排出量など)を業種横断で比較します。就活生が「環境に配慮している企業を探したい」という目的であれば、後者の絶対値系の方が直感に近い結果が得られることが多いです。
開示量が多い=実績が良いではない
サステナビリティサイト・アワードのような開示コンテンツを評価するランキングは、「何をしているか」ではなく「何を・どう伝えているか」を測ります。開示が充実していても、実際の排出削減量が伴っていないケースがあることは、グリーンウォッシングの文脈で繰り返し指摘されてきた問題です。逆に言えば、開示が薄くても実績を積んでいる企業もある。ランキングの種類を確認せずに「あの企業はサステナランキング上位だから良い企業だ」と即断するのは、判断として危うい。
スコープと対象年度を確認する
ランキングの基礎データは多くの場合、発表年の1〜2年前の企業データを使っています。2025年に発表されたランキングが2022〜2023年度の開示データを使っている場合があります。企業の取り組みは年々変化するため、「最新ランキング」であっても評価の時間軸は遅れていることを意識する必要があります。
日本企業はなぜグローバルランキングで伸び悩むのか
Global 100への日本企業のランクイン数は2015年の1社から2019年は8社へ増加したものの、2025年版は3社にとどまりました。 この「伸び悩み」の背景には、構造的な課題があると報告されています。
一つはサプライヤーの持続可能性スコアの低さです。 Global 100の評価項目には「サプライヤー・サステナビリティ・スコア」が含まれており、主要サプライヤーをGlobal 100と同じ方法でスコアリングした数値が評価されます。 大企業が中小のサプライヤーに対してSBTi認定や開示を求めることは容易ではなく、ここがボトルネックになっているケースがあります。
もう一つは役員報酬のサステナビリティ指標連動率です。 経営陣報酬制度については、サステナビリティ指標に連動した報酬制度の有無および構成ウエイトの割合が評価項目の一つとなっています。 欧米企業では経営者のボーナスをCO₂削減達成率や多様性指標に連動させる設計が普及してきました。日本企業でも導入が進んではいるものの、連動比率や指標設計の開示が不十分な企業がまだ多いとされます。
逆に言えば、この2点を改善できれば評価スコアが上がる可能性があります。ランキングが「何を測っているか」を理解することは、企業の担当者にとって改善のロードマップを読み解く手がかりにもなります。
企業のサステナビリティ取り組み事例については、こちらもあわせてご確認ください。
「ランキングを見る側」として意識したい3つの視点
サステナビリティの取材を続けていると、ランキングを受け取る側にも「リテラシー」が必要だと感じる場面が増えています。以下は、就職活動・投資・消費行動それぞれの文脈で参考にできる視点です。
就活生が使う場合
志望企業がどのランキングに選ばれているかだけでなく、そのランキングが「何を評価しているか」まで把握しておくと面接での説得力が変わります。「御社はGlobal 100に選ばれていますが、評価項目の中でサプライチェーンのスコアはどう改善していますか」という問いができれば、表面的な志望動機とは一線を画した議論になります。企業の有価証券報告書やサステナビリティレポートにも直接あたってみることをすすめます。
個人投資家が使う場合
ESG投資を考える際、MSCIやFTSEのESG評価が組み入れ基準になっているインデックスファンドの目論見書を読むと、どの評価機関のスコアを使っているかが記載されています。評価機関が異なれば構成銘柄も変わります。複数のESGインデックスを比較することで、自分の投資価値観に近い指標を選ぶ参考になります。
消費者として使う場合
購入する商品・サービスの企業がCDPで気候変動スコアを開示しているかどうかは、CDP公式サイトの企業検索機能で確認できます(無料公開部分あり)。すべての企業のスコアが公開されているわけではありませんが、開示しているだけで「測定・報告への意志がある」という一つのシグナルになります。ランキング上位かどうか以前に、「情報を公開しているかどうか」を確認する習慣から始められます。
企業のSDGs取り組みについてより詳しく知りたい方は、こちらも参考にしてみてください。
今日から試せること|CDP企業検索を1社だけ調べてみる
サステナランキングを「読む」ための最初の一歩として、今日試せることがあります。CDP(旧称カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の公式サイト(cdp.net)にアクセスして、普段使っているサービスや株主として持っている企業の名前を検索してみてください。
そこで「A」「B」「C」「D」「F」のスコアが表示されれば、その企業が気候変動について情報を開示していることが確認できます。スコアが表示されない場合は未回答または非開示です。1社だけ調べてみるだけで、「ランキングの裏側にあるデータ」の感覚がつかめます。企業のサステナビリティを評価するということが、どれだけ多層的な作業であるか。それを体感できる入口として、CDPは使いやすいツールです。
まとめ|ランキングは「出発点」として使う
企業サステナランキングは、単体で「この企業は良い・悪い」を決める絶対的な尺度ではありません。何を測っているか、誰向けに設計されているか、どの時点のデータを使っているかによって結論が変わる。それを理解したうえで参照すれば、就職・投資・消費のそれぞれの場面で判断の質を高めるツールになります。
- 「企業サステナランキング」はGlobal 100・TIME誌・生活者調査・開示評価など種類が多く、測定対象がそれぞれ異なる
- 日本企業のGlobal 100ランクイン数は2019年の8社から2025年の3社(エーザイ・リコー・シスメックス)へ推移している
- 業種内相対評価と絶対値評価の違い、開示量と実績の乖離、スコープ・対象年度に注意して読む
- CDP公式サイトで1社検索するだけで、データと開示の実態を体感できる



