「社会的企業って、NPOとどう違うの?」「日本にそんな組織が本当にあるの?」と感じている方は少なくないはずです。社会的課題の解決をビジネスの中心に据えながら収益も確保する——そのモデルは欧米から広まり、いまや日本でも介護・教育・農業・フードロスなど幅広い領域で根を張っています。この記事では、定義の整理に止まらず、日本固有の制度的文脈・複数の国内事例・読者が今日から関わるための入口まで掘り下げます。
「社会的企業」とは何か——まず誤解を解くところから
「社会的企業」という言葉を聞いて「慈善事業の一種では?」と思う方も多いでしょう。でも実際は少し違います。社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)は、社会課題の解決を事業の主目的に置きつつ、自ら収益を生み出して活動を継続する組織のことです。寄付や補助金に完全依存するのではなく、ビジネスとして成り立たせる点が最大の特徴です。
内閣府が平成27年(2015年)に公表した調査報告書では、社会的企業の条件として「社会的課題をビジネスを通じて解決・改善しようとする活動を行う事業者」と定義し、①社会的ミッションの追求、②事業収益が収益全体の50%以上、③利益の大半を事業に再投資——という3つの軸を設けています。この定義がその後の国内議論の基準線になっています。
よくある誤解として「NPO=社会的企業」というイメージがありますが、実際はNPO法人もあれば株式会社形態のものもあります。法人格よりも「何のためにお金を稼ぎ、どう使うか」という姿勢が問われます。
NPO・CSR・ソーシャルビジネスとの違い、どこで線を引く?
「ソーシャルビジネス」「CSR(企業の社会的責任)」「NPO」——似たような言葉が飛び交うので混乱するのも無理はありません。それぞれどう違うのか、整理してみます。
NPO法人との違い
NPO法人は非営利が法的要件です。会員費・寄付・助成金が主な収入源で、余剰があっても分配できません。社会的企業は必ずしも非営利である必要はなく、株式会社や合同会社のかたちをとりながら、利益の多くをミッション達成に再投資します。「寄付が集まらなければ活動が止まる」という脆弱性を乗り越えようとするのが社会的企業の出発点ともいえます。
一般企業のCSRとの違い
大企業がCSR活動として社会貢献をするとき、それは本業の「外側」に置かれることが多いです。社会的企業は逆で、社会課題の解決が「本業そのもの」です。障害者の就労支援を副次的な取り組みではなく、事業モデルの中核に据えているかどうか——この点が本質的な分岐点になります。
「ソーシャルビジネス」との関係
日本では経済産業省が「ソーシャルビジネス」という言葉をよく使い、社会的課題をビジネスで解決する事業全般を指します。「社会的企業」と「ソーシャルビジネス」はほぼ同義で用いられることが多く、厳密な区別は現状ではついていません。強いて言えば、「ソーシャルビジネス」は事業モデルの性質を表す概念であり、「社会的企業」はその担い手となる組織体を指す傾向があります。
日本における社会的企業の制度的な位置づけ
「日本には社会的企業を支える制度がない」と思っている方も多いかもしれません。でも実態は少しずつ変わってきています。
経済産業省は2008年にソーシャルビジネス研究会を設置し、「ソーシャルビジネス55選」として国内の先進事例を収集・公表しました。以降、中小企業庁や地域経済産業局が地域課題解決型ビジネスの支援を続けています。内閣府のNPOホームページでも社会的企業の活動規模調査が行われており、制度面での認知は着実に広がっています。
英国ではCIC(コミュニティ利益会社)という法人格が存在し、資産ロックと利益分配上限が法的に設定されています。日本にはまだそれに相当する専用の法人格は存在しませんが、2021年施行の「地域再生法」改正など、地域課題解決ビジネスへの公的支援の仕組みは増えています。「日本には制度がない」は、やや古い認識といえるでしょう。
日本の社会的企業|分野別の具体的な事例
「実際にどんな会社があるの?」というのが最も気になるところでしょう。日本の社会的企業は特定の業種に偏ることなく、多様な領域で展開されています。代表的なパターンをいくつか見ていきます。
就労支援×ビジネス|障害者・ひきこもり支援の領域
障害のある方や長期間ひきこもり状態にあった方が働ける場を本業として設計している企業が複数あります。就労継続支援A型・B型の事業所のなかには、カフェ運営・農産物加工・デジタルデータ入力などを通じて実際の商品・サービスを提供しながら、そこで得た収益を賃金や設備投資に回すモデルが広がっています。「支援する側・される側」の固定した関係ではなく、当事者が経営の一翼を担う事例も出てきています。
農業×地域再生|耕作放棄地を事業資源に変える
農村の高齢化と耕作放棄地の増加という課題に対し、六次産業化(農業生産から加工・販売まで一体化)を通じて地域に雇用を創出しようとする取り組みも社会的企業の典型例です。特定の地域で農業参入した株式会社が、移住者を雇用し、地域の農産物を使った商品を全国向けに販売するモデルは、「農業の社会的企業化」として注目されています。
フードロス×食のアクセス格差|食品領域の二重課題解決
フードバンクやフードパントリーを運営しながら、企業からの余剰食品の回収・仕分け・配布を事業化している組織も増えています。ただし純粋なボランティア型ではなく、食品企業からの協賛や行政との委託契約、EC販売などで収益を確保しながら活動を持続させている点が社会的企業としての特徴です。フードロス削減と食のアクセス格差という2つの社会課題を同時に事業で解くアプローチは、国内外で評価が高まっています。
教育×格差是正|子どもの貧困に向き合う塾・学習支援
経済的に困難な状況にある家庭の子どもへの学習支援を事業の中心に置き、行政や企業からの補助・協賛を組み合わせながら運営する教育系社会的企業も存在します。「無料または低価格で提供するが、寄付頼みにしない」ためのビジネスモデル設計が問われる分野です。
「社会的企業は儲からないのでは?」という疑問に答える
「社会問題を解決しながら利益を出すなんて、きれいごとでは?」という疑問はよく聞かれます。実際にキャンペーン設計の現場で感じてきたのも同じ問いでした。
率直に言えば、社会的企業が「必ず安定する」とは言いきれません。ビジネスモデルの設計が甘ければ、当然事業は立ち行かなくなります。社会的な意義があっても、顧客が代金を払わない構造では持続しません。むしろ「誰がいくら払うか」という収益設計を最も真剣に考えるのが、社会的企業の本質的な難しさです。
一方で、「社会課題の解決自体が市場になる」という現実もあります。高齢化による介護需要、地方の移動・交通問題、食のアクセス格差——これらは行政だけでは解決できないため、民間事業が入ることで市場が成立するケースが増えています。「社会課題はビジネスになる」という認識が広がるにつれ、インパクト投資やSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)〔要確認〕など、新しい資金調達の手段も整いつつあります。
日本特有の課題|なぜ社会的企業が広まりにくかったのか
欧米と比較したとき、日本で社会的企業が「認知されているわりに広まりにくい」と感じるのはなぜでしょうか。公開情報の傾向からは、いくつかのパターンが見えてきます。
まず、「社会貢献はボランティアや寄付でやるもの」という文化的なイメージが根強く、「社会課題を解決しながらお金をとるのは不純では?」という見方が支援者・消費者の両側にあります。これは当事者からもよく聞かれる悩みです。
次に、行政との連携で生じる課題があります。補助金や委託費に依存しすぎると、行政の方針変更で事業が一気に脆弱になります。逆に補助金を使わず純粋に市場だけで勝負しようとすると、社会的課題に関わる顧客層の購買力が限られているため、スケールに時間がかかります。
さらに、日本には「社会的企業」専用の法人格がなく、株式会社・NPO法人・一般社団法人など既存の枠組みで活動することになるため、投資家や行政が組織の性格を判断しにくい、という構造的な問題もあります。
今日から社会的企業に関わるための3つの入口
「話は面白いけど、自分には関係ない」と感じた方に伝えたいのは、「社会的企業を支える側」には誰でもなれるということです。関わり方はいくつかあります。
消費者として関わる|製品・サービスを選ぶ
最も手軽な関わり方は、社会的企業の商品やサービスを使うことです。障害者就労施設が作ったクッキー、フードバンクと連携したECサイト、農村の六次産業化商品——これらは一般のオンラインショップや地域の直売所でも手に入ります。「誰が、どんな目的でつくったか」を意識した購買は、それ自体が社会的企業への投票です。
スキルを活かして関わる|プロボノ・副業
社会的企業の多くは、財務・マーケティング・ITなどの専門スキルを必要としています。プロボノ(職業上の技術を活かしたボランティア)や副業として関わる選択肢もあります。「JICA海外協力隊」「サービスグラント」などの既存プラットフォームのほか、最近はマッチングサービスも増えています〔要確認〕。
投資・寄付として関わる|資金面で支える
インパクト投資や社会的インパクトボンド(SIB)は、まだ一般の個人には敷居が高い部分もあります。ただし、クラウドファンディングを通じた少額出資や、社会的企業のふるさと納税型商品を購入することも立派な資金支援の入口になります。「応援する側として関わること」が最初の一歩です。
まず今日試せることとして、身の回りで「社会的企業が作った商品」を1つ探してみてください。検索ワードは「障害者就労 お菓子 通販」「フードロス 福祉 通販」あたりが手がかりになります。商品を手にすることで、社会的企業の現実感がぐっと近づきます。
まとめ|社会的企業を「知る」から「使う」へ
社会的企業について、整理してきたポイントは以下のとおりです。
- 社会的企業は「社会課題の解決」を本業とし、収益で活動を自走させる組織。NPO・CSR・ソーシャルビジネスとは似ているが、それぞれ異なる概念
- 日本では法人格の専用枠はまだないが、経済産業省・内閣府など行政の認知・支援は着実に広がっている
- 就労支援・農業・フードロス・教育など多様な領域で国内事例が生まれている
- 関わり方は「消費者として買う」「スキルを提供する」「資金で支える」の3種類。まず商品を1つ選ぶところから始められる
参考文献
- 内閣府「我が国における社会的企業の活動規模に関する調査報告書」(2015年3月・https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/kigyou-chousa-houkoku.pdf)
- 経済産業省「ソーシャルビジネス研究会報告書」(2008年・経済産業省公式)
- 内閣府NPOホームページ「社会的企業について」(https://www.npo-homepage.go.jp/)
この記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。(執筆メンバー: https://mirasus.jp/members/ )

